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JOG(1400) 山県有朋公との対話 ~ 国民国家を目指して

 山県有朋は国民の力で明治日本の独立維持を目指した。現代日本なら、災害や外国侵略から日本を救う「国民みんなが自衛官」。


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■■■ 1400号到達の御礼 伊勢雅臣 ■■■

 弊誌は平成9(1997)年9月6日に創刊号を発信し、以来、あしかけ27年で、今週、1400号に達しました。ご愛読、ご声援いただいている読者の皆様に心より、御礼申し上げます。

 次週号で、読者の皆様への感謝プレゼントをお知らせしたいと思います。今後とも、よろしくお願い申し上げます。
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■■■ 『大御宝 日本史を貫く建国の理念』ワンポイントコラム
   信長の「天下布武の後の天下静謐(せいひつ)」■■■

信長は「天下布武」と同様に、「天下静謐」という言葉を使っています。「武」は「戈(ほこ)を止める」、すなわち戦いをやめて平和にする、という意味があります。その目的は戦乱の時代を終わらせて、天下を静謐にする、ということでした。

 一向宗の弾圧や比叡山の焼き討ちを「革命児」信長として描く向きもありますが、これらは戦国大名のように、静謐を乱していたからです。信長は宗教本来の活動を行う、平和的な宗派は保護していました。安土城下の繁栄のために浄土宗の浄厳院や西光寺を誘致し、日蓮宗の所領を保護したりしています。

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■1.山県有朋公の志を聞く

伊勢: 今日は山形有朋(ありとも)公にお話を聞きます。山県公にはすでに弊誌「山県有朋 ~ 独立、平和、国際協調を目指して」[JOG(1399)]でご登場いただきました。公は戦後史観では「近代日本の『軍国主義』を体現する『邪悪な天才』」などと悪者視されていますが、史実を見れば、到底そんなことは言えないのは明らかです。

 これから、どのようなお志で、明治日本の国家の背骨とも言うべき軍人勅諭と教育勅語、さらに国軍の基礎たる徴兵制を導入されたのか、お伺いしたいと思います。

山県: 今のわしの紹介で、20世紀後半の日本ではわしのことを「近代日本の『軍国主義』を体現する『邪悪な天才』」などと言っておるのか? わしのやったことのどこを見て、そんなことを言うのじゃろう?

伊勢: 山県公は陸軍の創始者です。それも「国民皆兵」を唱え、徴兵制を作り、軍人勅諭まで制定された。それらをつなげて、「軍国主義の体現」と言っているのでしょう。

山県: それは全く時代背景を捉えていない見方じゃのう。英国は南から北上して清国にアヘン戦争を仕掛け、莫大な賠償金と香港を奪った。ロシアは北から南下して、満洲の北の沿海州を奪い、日本海を望むウラジオストックを建設した。アメリカは東からペリー艦隊がやってきて、武力で日本に開国を要求した。

 こうした西洋諸国の極東侵略からいかに日本の独立を保つか、というのが、当時の誰にも明かな国民的課題じゃった。

■2.奇兵隊は近代国民軍のひな形

伊勢: 西洋の極東侵略からいかに日本を守るか、山県公はどのように考えられたのですか?

山県: 独立を守るには、何はともあれ日本の軍事力を強くせなければならん。そこでわしの目を開かせてくれたのが、高杉晋作公が創設された奇兵隊じゃった。奇兵隊とは正規の武士からなる「正規兵」の反対語で、有志の農民や町人が自らの国を守るために戦う軍隊じゃ。その真価が慶応2(1866)年5月に幕府側の諸藩兵約10万が長州の藩境に迫った時に、発揮された。

 長州藩は10倍の幕府軍の撃退に成功した。長州藩は最新式のミニエー銃を装備した西欧式の陸軍編成だったのに対し、幕府側は正規の武士たちとは言え、弓矢や槍、関ヶ原以来の火縄銃などの旧式装備だったからじゃ。また、長州藩は正規の藩兵のみならず、奇兵隊の農民や部落民にいたるまで、自分たちの藩を守ろうという志気が高かった。

 一方、幕府方の諸藩の兵は、それぞれの藩でバラバラに戦っており、全体としての志気も統制も弱かった。

伊勢: まさしく奇兵隊が近代国民軍の雛形だったのですね。

山縣: その通りじゃ。いくら武士が剣術に巧みでも、百姓町民が近代的装備を与えられて、統一的な指揮命令系統の下で戦ったら、勝負にならない。しかも、奇兵隊は長州藩を守るために、自ら立ち上がったのじゃ。自分の国は自分で守る。その気概が国民全体に行き渡るのが国民国家じゃ。日本が西洋列強から独立を守るにも、まずは国民軍で守られた国民国家を築かねば、と考えたのじゃ。

■3.武士も平民も大反対だった徴兵制を目指したわけ

伊勢: そのために山県公は廃藩置県に努力されたのですね。

山県: そうじゃ。まずは藩を廃止して、中央政府のもとで日本全国一丸となった国家体制をつくらねばならなかった。この点では、西郷隆盛公が助けてくれた。西郷さんはまず国民軍の核として、皇室の護衛をする御親兵の設置を提案された。薩摩、長州、土佐の三藩から兵を出して、将来の国民軍の核とする。

 薩摩の兵は全体の半分を占め、西郷さんに心酔していたが、わしは言った。「御親兵である以上、まさかの場合には薩摩藩主に弓を引く覚悟がなければなりません」と。西郷さんは「当然だ」と応じてくれた。

 また、廃藩置県の際にも、西郷さんは「反乱があれば、自分が兵を率いて叩き潰す」とまで言ってくれた。最強の武力を持つ薩摩藩を西郷さんが抑えてくれたので、薄氷を歩みつつ、なんとか廃藩置県と国軍創設ができたのじゃ。

 その上で、それまでの武士も平民も平等に徴兵する徴兵令をわしは明治6(1873)年に発した。しかし、これには全国から反対の声が上がって、わしは窮地に立たされた。まずは全国40万の士族が猛烈に反対した。戦いに赴くのは、武士の特権じゃった。それを奪うことで、武士の存在意義を無くすこととなる。徴兵するなら、士族から徴兵すれば良い、という意見が出た。[半藤、p76]

 逆に平民からは、なぜ自分たちまで武士に代わって戦わなければならないのか、と当然の反対が出た。

伊勢: もし山県公が「軍国主義の天才」なら、士族からのみ徴兵して、反対もなく、兵としての訓練も容易で、素早く軍事国家を作れたはずですね。

山県: その通りじゃ。わしの志は「国民軍」をつくらねばならぬ、という事じゃった。武士が戦い、百姓は田を耕し、町人は商売をする、という階級制度はぶち壊して、「四民平等」「国民皆兵」、国民誰もが、本来の仕事をしながら、国を思い、国の危機には武器を持って立ち上がる、それが国民国家における国民軍じゃ。

 徴兵制による国民軍を始めたのは、フランス革命後のナポレオンじゃが、国防は主権者たる国民全員の義務という考えからじゃった。また兵役は祖国に対する名誉ある義務である、と考えられるようになった。

 同様に、イギリス、アメリカ、ドイツなども徴兵制が採用されておる。じゃから、国民皆兵と徴兵制は19世紀には先進国の世界標準であり、その中で同様に徴兵制を敷いたから軍国主義というのは子供でも分かる誤りじゃ。

■4.軍人が責務を果たしてこそ「我が国の民は永く太平を享受」

伊勢: 我が国古代の防人(さきもり)は、徴兵制による国民軍の先駆けと言えるのではありませんか?

山県:まさしく、その通りじゃ。我が国古代の国防軍は東国から徴集された防人(さきもり)たちじゃった。彼らは農民じゃが、白村江での敗戦の後の祖国の危機に敢然と立ち上がったのじゃ。

伊勢: 当時の東国の農民たちが、どれほど「祖国防衛」という意識を持っていたのでしょうか?

山県: それはたとえば、万葉集に収録されたこんな短歌から窺うことができる。ある防人の出発の際の歌じゃ。

 今日よりは顧(かえり)みなくて大君の醜(しこ)の御楯(みたて)と 出で立つわれは
(今日からは断ちがたい私の心にそむいて、みかどの勇猛な守護兵として出発するのだ)

伊勢: 朝廷から遠く離れた東国の、しかも農民が「みかどの勇猛な守護兵として出発するのだ」と言う意思がどこから来たのでしょうか?

山県: それを答える前に、こんな短歌も味わっておくべきじゃ。

 蘆垣(あしがき)の隈処(くまど)に立ちて吾妹子(わぎもこ)が袖もしほほに泣きしぞ思(も)はゆ
(葦の葉でふいた垣の隅の方に立って、妻が袖もしおれるほどに泣いていた、その姿が思われてならないのだ)

「今日よりは省みなくて」とは、昨日までは妻子との別れに後ろ髪を引かれていた私情を当然のこととして認めているのじゃ。その上で「今日よりは」という出征の覚悟が現れる。

 異国の兵士たちに祖国、そして郷里を蹂躙されたら、自分の妻子もどうなるか分からない。その妻子を守る為に、自分は出発するのだ、という覚悟じゃ。それも、個別バラバラの兵ではなく、「みかどの勇猛な守護兵」として、一緒に戦う仲間たちとともに祖国全体を守る兵として、という誇りと使命感が、この歌には込められておる。

伊勢: 万葉集から、当時の兵の心持ちを甦らせるとは、さすがは生涯に3万首も和歌を遺されたという山県公ですね。それはまさしく、当時、迫り来る西洋列強の侵略を目の当たりにして、いかに祖国を、郷里を守るか、という危機意識に立ち上がった日本国民と同じ心持ちですね。

 そういう意味では、明治の徴兵制によって建てられた国民軍とは古代の防人と同じであり、かつ国民国家とは、まさに幕府政治が始まる以前の「王政復古」そのものだったのですね。

山県: そうじゃ。そして軍人勅諭の中の次の部分が、軍人の使命を端的に述べたところじゃ。

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汝ら(軍人)がみな職分を守り、朕と心を一つにし、国家の防衛に力を尽くすなら、我が国の民は永く太平を享受し、我が国の威信は大いに世界に輝くであろう。[Wikisourse]
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山県: まことに軍人が、民の安寧を願われる皇室の下で、国家の防衛に尽くしてこそ、「我が国の民は永く太平を享受」できるのじゃ。これのどこが軍国主義であろう。

■5.教育勅語が目指した国と家族を支える国民

山県: そして、軍人だけでなく、国民一人一人が国を守り、選挙権を持ち、仕事で国を支える。それが国民国家の姿じゃ。そのように国民一人ひとりを国を支える存在として育てたい。それが『教育勅語』の狙いじゃった。その冒頭にはこう述べられている。
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国民の皆さん、私たちの祖先は、国を建て初めた時から、道義道徳を大切にする、という大きな理想を掲げてきました。そして全国民が、国家と家庭のために心を合わせて力を尽くし、今日に至るまで美事な成果をあげてくることができたのは、わが日本のすぐれた国柄のおかげであり、またわが国の教育の基づくところも、ここにあるのだと思います。[明治神宮]
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 すなわち、国民一人ひとりが「国家と家庭のために心を合わせて力を尽くし」てきたのが、我が国が有史以来、独立国家としてやってきた原動力であり、また今後の教育もこれを目指して、国家の独立と繁栄を築いていこう、ということじゃった。

■6.「国家と家庭のために心を合わせて力を尽くし」

伊勢: 山県公のお陰で、我が国は強い国民国家と国民軍を作ることができ、ロシアの侵略から国を守ることができました。もし、日露戦争に敗れていたら、我が国はポーランドやフィンランドのように、ロシアの属国となり、ロシアのさらなる侵略戦争に兵隊として狩り出され、経済的にも搾取されていたことと思います。

 現代においては、兵器が高度化して長期間の訓練が必要なことから、自衛隊のようなプロフェッショナルが必要であり、徴兵制は時代に適合しなくなってきていますが、国民が「国家と家庭のために心を合わせて力を尽くし」という必要性は変わりません。

 たとえば、東日本大震災に際しては、自衛隊、警察、消防隊員、自治体職員などがプロフェッショナルとして活躍してくれましたが、住民相互の助け合い、そして一般国民のボランティア活動などが被災者救援の大きな力となりました。

■7.スイスの「民間防衛」に学ぶ

伊勢: 防衛問題に際しても、SNSなどの発達により、敵国が謀略で国民思想を惑わせる、国民生活を混乱させる、という危険が高まりつつあります。この点で参考になるのが、永世中立国スイスです。中立を守る為の国民皆兵を国是として、865万人の国で約4万人の職業軍人と徴兵制度による21万人の予備役を確保しています。

 2013年には徴兵制の廃止が国民投票にかけられましたが、国民の73%、26州すべてで廃止反対派が勝利しました。周囲はドイツ、イタリア、フランス、オーストリアと、自由民主主義国家ばかりで、侵略される危険などないのですが、国民皆兵により、国民が国を守る意識を維持すべき、という見識が広く国民の間にあるようです。

 そのスイス政府が全国の家庭に配っているのが、『民間防衛』という冊子です。そこでは近代戦争は全面戦争であり、職業軍人による軍事防衛だけでなく、政治、経済、心理面の防衛に、民間防衛も加えた防衛体制が必要であるとされています。その心理面の防衛に関しては、こんな記述もあります。
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外国の宣伝の力
 敗北主義-それは猫なで声で最も崇高な感情に訴える。-諸民族の協力、世界平和への献身、愛のある秩序の確立、相互扶助ー戦争、破壊、殺戮の恐怖・・・・・・
 そしてその結論は、時代遅れの軍事防衛は放棄しようということになる。
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 現代日本でも同様に「南京大虐殺」「従軍慰安婦」「侵略戦争」「植民地主義」そして、冒頭の「軍国主義」などと、「宣伝の力」が振るわれました。

山県: そうじゃったか。わしが「軍国主義の邪悪な天才」と呼ばれているのも、要は日本人の心理面への攻撃なんじゃな。

伊勢: 昔の「国民皆兵」に替えて、現代日本では「国民みんなが自衛官」として、災害時には助け合い、平時にも心理戦、思想戦、歴史戦に備える姿勢が必要です。

山県: それが教育勅語で、「公益世務(せいむ、広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう)」「義勇(正しい勇気をもって国のため真心を尽くしましょう)」などの徳目で謳われている日本国民としての生き方じゃ。ぜひその生き方を国民みなが心がけて欲しいものじゃ。
(文責 伊勢雅臣)

■おたより

■選挙権付与の前に「国を思う道」の研修を(和明さん)

私は「公職選挙法」改正試案を考えています。理念は、明治天皇御製「国思ふ道にふたつはなかりけりいくさの庭に立つもただずも」満18歳になった国民には選挙権付与の条件として男女、障害の有無を問わず(ア)福祉施設(イ)自衛隊どちらかを選択し、2週間ほどの研修を義務付け、終了後、選挙権を有する証明書(カード)を交付するというプランです。むろん(ア)(イ)とも同じもの。

したがって、大学進学者に配慮し大学入学式を9月とします。小中学高校は、桜の咲く頃の4月で良いです。これが実現すれば、祖国は"ひっくり返り"。私の妄想にすぎません。国難に際し「国民同胞」を保持する一案です。

■伊勢雅臣より

 若者たちが、選挙権を得る前に、祖国のために尽くすことを体験するという制度は、国民教育として意味がありそうですね。

■リンク■

・JOG(1399) 山県有朋 ~ 独立、平和、国際協調を目指して
 山県は「軍国主義の邪悪な天才」ではない。明治日本が独立を維持し、国際社会で名誉ある地位を築いた立役者だった。
https://note.com/jog_jp/n/n7f0ebdf233ae

・JOG(736) 井上毅 ~ 有徳国家をめざして(下)(動画+読み物)
 井上毅が発見した我が国の国家成立の原理は、また教育の淵源をなすものであった。
https://note.com/jog_jp/n/n6cdbc2bcada9

・JOG(735) 井上毅 ~ 有徳国家をめざして(上)(動画+読み物)
大震災では、戦前の教育勅語が理想としていた生き方が、あちこちで見られた。
https://note.com/jog_jp/n/ndec2530c52f5

■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・Wikisource「陸海軍軍人に賜はりたる勅諭」
https://ja.wikisource.org/wiki/陸海軍軍人に賜はりたる勅諭

・伊藤之雄『山県有朋 愚直な権力者の生涯』★★★、文春新書、H21
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・井上 寿一『山県有朋と明治国家』★★★、NHKブックス、H22
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4140911700/japanontheg01-22/

・小林道彦『山県有朋 明治国家と権力』★★、中公新書、R5
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4121027779/japanontheg01-22/

・半藤一利『山県有朋』★★、PHP研究所、H2
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4569527361/japanontheg01-22/

・明治神宮「教育勅語」
https://www.meijijingu.or.jp/about/3-4.php


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