見出し画像

JOG(179) 3度目のお先棒担ぎ

 歴史教科書つぶしに奔走する「中国の友人」たちの無法ぶりは、真の日中友好を阻害している。


-----H13.03.04----33,521 Copies----223,327 Homepage View----

■1.不合格工作の無法ぶり■

 あなたが、ある大学の入試で小論文試験を受けたとする。 ところが、その大学の入試委員会の一人は、あなたは思想的に問題が多いので、絶対に合格させてはならない、との手紙を他の委員に出していた。

 書き上げた小論文は、あなたの名前を消して採点に回されたが、どういう訳か、そのコピーが外部に流出して、キャンパスの立て看板に堂々と張り出され、学生集会では「こんな偏向した内容の小論文を書いた奴は、絶対に合格させてはならない」とアジ演説をしていた。

 学生新聞も、あなたの小論文を批判して、こういう思想偏向した学生を合格させたら、他大学との関係もまずくなるから、合格させてはならない、と報道する。ついには近隣の大学まで騒ぎを知って、あなたを落とせ、とあからさまに要求してくる。小論文の採点委員は、このような状況で公正な採点などできるだろうか?

 これと同様の無法な外部介入が中学用歴史教科書の検定過程で実際に起こっている。一部の思想勢力が検定ルールを公然と踏みにじり、自分達の気に入らない教科書を不合格にさせようとしているのである。

■2.「新しい教科書」■

 不法な集中攻撃を受けている教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」が主導して、同会会長西尾幹二氏が執筆し、扶桑社から申請されたもの。同会の公式ホームページ[1]に掲載されている『「つくる会」の主張』では、次のような指摘がなされている。

__________
 ところが戦後の歴史教育は、日本人が受け継ぐべき文化と伝統を忘れ、日本人の誇りを失わせるものでした。特に近現代史において、 日本は子々孫々まで謝罪し続けることを運命づけられた罪人の如くにあつかわれています。(中略)
 私たちのつくる教科書は、世界史的視野の中で、日本国と日本人の自画像を、品格とバランスをもって活写します。私たちの先祖の活躍に心踊らせ、失敗の歴史にも目を向け、その苦楽を追体験できる、日本人の物語です。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 このように歴史教育の改革を目指して、「新しい歴史教科書」が作られ、扶桑社から検定申請が出された。以下、「新しい教科書」と呼ぶ。

 複数の教科書出版会社から提出された申請本は、学習指導要領と検定基準に従って、内容のバランス、および、歴史事実の誤記などが教科書審査官によってチェックされ、教科用図書検定調査審議会で審査される。その際、検定の公正を確保するために、申請本は社名も編著者名も入らない白い表紙で統一されるために「白表紙本」と呼ばれる。

 審査の結果、訂正を要する点については検定意見が出され、各社の記述修正後、審議会での再度の審議を経て合否が決定される。検定過程は外部の干渉を防ぐために公開されないが、検定後は教科書研究センターなどで白表紙本と検定後の見本本が公開され、検定でどこがどう変わったかを調べることができる。

■3.外務省元高官の不合格工作■

「新しい教科書」を不合格にさせようとする最初の不法介入は、平成12年10月上旬、教科用図書検定調査審議会委員の野田英二郎・元駐インド大使が、「日本の戦争犯罪の記述が足りない」「ドイツのネオナチと同一視される」などと批判した資料を審議に先立ち、第二部会(社会科)の委員計9人に送ったことだ。

 外務省アジア局の佐藤重和参事官は中国首脳が日本政府に南京事件など「旧日本軍の残虐行為」の記述を削減しないよう再三要求したことについて、「教科書問題に触れた発言はあった。対外秘の発言だった」と述べ、中国からの内密の圧力があったことを事実上認めている[2]。

 野田元大使は、雑誌「世界」の平成9年1月号に発表した「自立平和外交への道」という論文で、台湾問題について「伝統と歴史をもつ中国人のナショナリズムは、台湾問題を国際化しようとするいかなる動きも許さないであろう」と書き、尖閣問題については「これ以上、『尖閣』が両国間の感情の問題となることなく、『棚上げ』の原点に戻るよう切望したい」と述べ、北京政府の主張を忠実に代弁している人物である。[3]

 このような人物が検定調査審議会に入り込んでおり、中国の意向を受けて「新しい教科書」を不合格にすべく工作を行っていたのである。この工作が発覚すると、衆院文教委員会でも問題とされ、文部科学省は野田元大使を「価格分科会」へと配置換えする形で事実上、更迭した。

■4.流出した白表紙本■

 さらに非公開での検定中にも関わらず、「新しい教科書」の白表紙本のコピーと称されるものが大量に出回り、反対集会などで展示されたり、配布されたりする、という事件が起きた。

 11月18日、東京都内で開かれた「社会科教科書シンポジウム」では、配られたチラシには「あぶない教科書がつくられている!」として、「日本国憲法を否定する教科書をあなたは許せますか」「二十一世紀の世界に通用しない主張で日本をアジアから孤立させる教科書です」などとの言葉が並び、教科書申請本のコピーが配られた。[4]

 さらに教員志望者向け雑誌に「申請本を読む」と題し、特定の出版社の名称を実名であげたうえで、批判を加える記事も掲載された。この記事には、申請本の写真が掲載された。

 本年2月15日には、歴史学者ら889人が、「神話を歴史的事実のように記述するなど、事実をゆがめ、非科学的なものだ」と批判するアピールを発表した。 [5]

「(コピーは)いくらでも出回っており、簡単に手に入れられる」との声もあり、非公開の検定プロセスで白表紙本が盗み出された可能性が高いが、文部科学省は守秘義務を理由に「流出した本が白表紙本なのかどうかも話せない」という。

「なぜ表紙を白紙にしているかという理由を考えてほしい。外に出ることは好ましくない」と文部科学省は困惑しているが、白表紙本の管理に関する法令などの規定がないため、今後の対応については「現時点では考えていない」との姿勢だ。[4]

■5.朝日新聞の介入■

 2月21日には朝日新聞が、朝刊一面トップで「中韓懸念の『つくる会』教科書」「政府『政治介入せず』」「中韓など反発必至」などと報じた。「新しい教科書」を中国や韓国が批判しているにもかかわらず、日本政府が政治介入しない方針を固めたため、検定に合格する可能性が高まり、中韓両国からの反発は避けられない-という内容で、政府が政治介入しないことが問題であるかのような書きぶりである。

 翌22日には、「検定の行方を注視する 歴史教科書」と題した社説で、次のように述べた。

__________
(「新しい歴史教科書をつくる会」の中心メンバーは)「自虐史観」などと攻撃し、過去の植民地支配や戦争を肯定的にとらえようとする。それは、当時の日本の国民の苦しみや、侵略を受けた人たちを無視した一方的な解釈である。こういう歴史観を教室で教えることが、次代を担う子どもたちのために本当によいことなのだろうか。疑問を禁じえない。[6]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 これに対して、産経新聞は石川水穂氏の署名入りで朝日の報道姿勢を厳しく批判した。

__________
 検定意見に沿った記述の書き換えなどが行われ、間もなく、教科書検定調査審議会で合否が決まる。それまでは、審議会委員に予断や先入観を与える報道は慎むのが暗黙のルールである。

 朝日はすでに、このルールを破っている。(中略)

 朝日はなぜ、公正であるべき検定作業に影響を与えようとするのか。中国や韓国からの批判を期待しているようにも思える。扶桑社の教科書に問題があるとするのなら、検定が済むまで待つべきであろう。[7]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

■6.中国政府の介入■

 21日の朝日報道と呼応するように、22日には中国外務省の朱邦造報道局長が定例会見で、以下のような発言を行った。

__________
 中国政府と人民は、日本国内で最近教科書にからみ現れている動向を極めて注視しているものである。指摘すべきは、日本の右翼団体が周到な用意のもとに、皇国史観を高く宣伝し、侵略の歴史を否定、美化する目的で歴史教科書を作り上げていることである。仮に修正を経たとしても、反動的でデタラメな本質は変えることができない。

 中国はすでに、あらゆるルートを通じ、日本側に厳正な立場を求め、懸念を伝えている。(中略)侵略の歴史を美化するいかなる教科書も登場することを阻止し、切に中日関係の大局を守るよう希望する。[8]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 わが国の特定の教科書について、他国が出版差し止めを要求するのは、あからさまな内政干渉であり、わが国主権の侵害である。この点、読売新聞社説は論旨明快である。

__________
 中国では、共産党独裁の下、歴史認識といえば国家・党公認の歴史観一種類しか存在せず、その歴史観に対する批判、言論の自由も許されない。当然、教科書は「国定」しか存在しない。

 そんな中国の国定歴史認識に合わないからといって、日本の特定教科書を不合格にせよと求めるというのは、日本国憲法の基本的価値観である思想・信条・言論・出版の自由への干渉に等しい。 [9]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

■7.3度目のお先棒担ぎ■

 朝日新聞が教科書問題で大々的な非難キャンペーンを行い、北京政府がそれに乗って、わが国に圧力をかける、というのは、これですでに3度目である。

 1度目は、昭和57年の教科書検定で「『侵略』を『進出』に改めさせた」というニュースを朝日新聞が一面トップで流し、それに基づいて中国政府が抗議してきた事件である。これは完全な誤報であることが、産経新聞などの報道で明らかにされたが、朝日はごく目立たない形でしか訂正を行わなかった。

 時の宮澤官房長官は、誤報であることが明らかになったにもかかわらず、「近隣諸国との友好・親善に配慮する」という談話を発表し、これをもとに教科書検定基準の一つに「近隣諸国条項」が加えられた。[a]

 2度目は昭和61年、朝日新聞が検定中の高校歴史教科書「新編日本史」の白表紙本について、「“復古調”の日本史教科書」「原稿本で教育勅語礼賛」などと批判的に報じたケースである。その後、審議会で新編日本史は検定に合格したが、中韓両国からの批判を受けて、官邸と外務省が介入し、異例の合格後4回の書き直しをさせられた。これを機会に、審議会に外務省枠が設けられ、今回、野田元インド大使の工作を許した。

 1度目は近隣諸国条項、2度目は審議会での外務省枠と、騒ぎのたびに、北京政府が教科書問題について口を出すルートが確立されてきているのである。

■8.「中国の友人」たち■

「中国の友人」という言葉を本講座42号で紹介した。文化大革命の頃、日本のマスコミの中でただ一人中国に残ることを許されて、北京政府の意向に沿った記事を流し続けた朝日新聞の秋岡家栄記者は、その典型である。[b]

 今回の野田元インド大使、白表紙本を盗み出して攻撃を加える活動家たち、そして検定中の教科書を批判するというルール破りをした朝日新聞、皆、まさしく「中国の友人」である。

 しかし、これら「中国の友人」たちを使って、歴史認識で日本国民に罪悪感を持たせ、それを圧力に援助を引き出すという詐欺的外交を北京政府が続ける限り、対中感情は悪くなる一方だ。平成11年の読売新聞社・ギャラップ世論調査では、中国に対して「悪い印象」を持っている日本国民の比率は実に46%、4年前の35%に比べても、大幅に増加している。政府開発援助で貰うものだけ貰って、感謝どころか謝罪要求では、いくら人の良い日本人でもうんざりするのは当然だ。[9]

 北京政府にいつまでもこんな外交詐術が続けられるという錯覚を与えている一因は、朝日新聞の「中国の友人」としてのお先棒担ぎにある。朝日新聞が真の日中友好を願うなら、このような事はもうやめるべきである。 (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(044) 虚に吠えたマスコミ
 朝日は、中国抗議のガセネタを提供し、それが誤報と判明して
からも、明確に否定することなく、問題を煽り続けた。
b. JOG(042) 中国の友人
 中国代表部の意向が直接秋岡氏に伝わり、朝日新聞社がそれに
従うという風潮が生まれていた。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)

  1. 新しい歴史教科書をつくる会公式ホームページ
    http://www.tsukurukai.com/

  2. 「教科書検定 “中国圧力”認める 外務省『対外秘の発言だ
    った』」、産経新聞、H12.12.08、東京朝刊、1頁

  3. 「教科書検定審議会 野田元大使外れる 他の1人も 
    外務OB姿消す」、産経新聞、H13.01.13、東京朝刊、1頁

  4. 「検定中の歴史教科書 コピー大量流出 本来非公開、集会で配
    布 図書名挙げ非難」、産経新聞、H12.12.04、東京朝刊、1頁

  5. 「『非科学的』と学者ら批判 『新しい歴史教科書をつくる会』
    教科書」、H13.02.16、産経新聞、東京朝刊、37頁
    6.「検定の行方を注視する 歴史教科書(社説)」、朝日新聞、H
    13.02.22、東京朝刊、2頁

  6. 「『朝日新聞』の教科書報道 何を意図するのか 外圧誘導と
    政府の政治介入?」、産経新聞、H13.02.22、東京朝刊、1頁

  7. 「検定中の特定歴史教科書 中国、不合格を要求 『日中関係に
    影響』言及」、産経新聞、H13.02.23、東京朝刊、1頁

  8. 「日中、互いの好感度ダウン/読売新聞社・ギャラップ世論調査」読売新聞、H11.09.30、東京朝刊、1頁

//////////// おたより ////////////松本さん(台湾在住)より

 私は半導体・液晶製造装置のエンジニアとして1年半近く前から台湾に滞在しております。台湾での「日本ブーム」は、既にブームと呼ぶよりも文化の一部として定着しているように感じます。
 翻って、日本での台湾に対する認識の弱さ、歴史的背景、現在の関係、これからの関係について本気で考えている人はどれだけいるのでしょうか。特に政治家にこの認識がないように思います。中国(大陸)一辺倒ですね。
 台湾集集大地震から数日経って電気の送電が回復し、テレビのニュースを見て、映っていたのは復旧作業に汗を流す日本の隊員でした。後にこの姿は郵便切手の絵柄に採用されました。それほど日本人は活躍したのです。そして先日の中米エルサルバドルでの地震を知った台湾の人達は、集集大地震の恩返しにとこぞって現地入りしたそうです。これが和の精神と思います。台湾には伝わっていました。
 ですから、日本に住んでいる日本人は、もっと自信を持って欲しいと思います。言うだけでなく、行動も伴って欲しいと思います。それが海外にいる一日本人としての小さな希望でもあります。

© 平成13年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.

いいなと思ったら応援しよう!