JOG(782)iPS細胞・山中伸弥教授と「はやぶさ」川口淳一郎博士が示す道
国を背負って立つ二人が「創造の国」に向けて示した道とは。
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■1.「日の丸を背負った学者として」
世界で始めて小惑星からサンプルを持ち帰った探索機「はやぶさ」[a]と、 ノーベル賞受賞に輝いたiPS細胞研究。この二つは「失われた20年」で元気を失っていた国民を大きく勇気づけた近年の快事であった。
そこに「はやぶさ」のプロジェクトマネージャー川口純一郎博士と、山中伸弥教授の対談本が出たと知って、これは本誌にすぐ取り上げなければならない、と考えた。致知出版社の最新刊『『夢を実現する発想法』である。
二人の歩む姿勢に共通するものがあるのでは、という期待感から読み始めると、案の定、共通点はすぐに見つかった。
まず第一は、国を背負っているという使命感である。山中伸弥教授は、受章したばかりの文化勲章を胸にして、ノーベル賞授賞式に出席した。今回の授賞式にあたっても「日の丸を背負った学者として臨みたい」と、胸を張っていたそうだ。
文化勲章は天皇陛下から直接授与される文化・学問分野では国内で最高の栄誉である。その文化勲章を胸にしたということは、まさに「日の丸を背負った学者」としてノーベル賞も受けたということである。
■2.「実際にはまだ一人の患者も治せていません」
「日の丸を背負って」という使命感は、山中教授にとって研究の原動力になっているようだ。次の言葉が胸を打つ。
自分の研究成果で救われるはずの多くの患者たちが待っている。国民全体がそれを期待している。患者や国全体の期待に応えなければ、という使命感が山中教授を動かしているのだ。
ここで思い出すのは、平成6(1994)年にノーベル賞を受賞しながら、文化勲章は拒否した小説家の大江健三郎だ。この人は在日朝鮮人を北朝鮮に送還する事業[b]のドラマに涙を流し、「自分には帰るべき朝鮮がない、なぜなら日本人だから」などという思いを書き留めている[c]。
日本人であることをハンディだと思っている以上、その日本が与える文化勲章を受け取ることなど、チャンチャラおかしい、という所だろう。しかし、この言葉には「日本人だから」という個人的な不平不満はあっても、他者を思いやる心はない。
在日朝鮮人たちが地上の楽園と騙されて帰還した北朝鮮は、食料もろくにない地獄であり、その中でも在日という烙印を押されて差別を受けながら生きていくしかなかった。
大江健三郎が帰国した在日の人々の事を本当に思っているなら、自らの不明を詫びて、彼らの救出活動に取り組んでも良さそうなものだ。そうでもしていれば、それらの人々を思う心から、さらに深みのある作品を書けたかも知れない。
しかし、大江健三郎に関して、そんな話は聞いたことがない。北朝鮮で苦吟する人々を知らんぷりして、自分だけ我が国の安全で豊かな社会生活を今も享受しているだけではないのか。
結局、日の丸を背負って、国民のために尽くそうとしている人と、国家に背を向けて自分個人の不平不満をかこつだけの人とでは、それほどに人品の違い、そして国家社会への使命感の違いが出てくるのである。
■4.国を背負っているというプライド
「国を背負う」意識は、川口博士の発言にもにじみ出ている。博士は自身の経歴をこう振り返っている。
アメリカに託して述べているが、この「はやぶさプロジェクト」も、博士の「国を背負っているというプライド」が原動力となっている。
■5.「はやぶさ」計画をスタートさせた意地
川口博士は、「はやぶさ」プロジェクトの発足時に、こんな内幕があった事を披露している。
博士の「国を背負っているというプライド」からくる、良い意味での「意地っ張り」がなければ、そもそも「はやぶさ」プロジェクトは計画さえされなかったのである。
■6.チームメンバーをいかに「熱く」させるか
しかしリーダーだけが意気込んでもプロジェクトは進まない。「はやぶさ」のプロジェクトでは、大事な決断をする会議では50人から60人が出席するという規模のチームワークが必要だった。川口博士はこう回想する。
これに呼応して、山中教授も、こう語る。
リーダーが私利私欲で動いていたら、チームのメンバーたちはついていかないだろう。リーダーが、国を背負ってやっているんだ、という無私利他の思いに徹した時に、メンバーたちとも「心が繋が」り、その志が「プロジェクトの中に埋め込まれ」る。
その結果、チーム・メンバー一人ひとりが「燃えている」「熱くなる」状態になって、大きなプロジェクトが動くのである。
■7.「足下ばかり見るんじゃない。時には顔を上げて上を見ろ」
二人のもう一つの共通点は、誰もやっていない事に乗り出そうというチャレンジ精神だ。それが世界初の「はやぶさ」プロジェクトやiPS細胞研究に結実した。二人は超一流の科学者、技術者だが、この点は我々一般人にも見習うべき点がある。
川口博士は子供の時から、父親に聞かされてきた「足下ばかり見るんじゃない。時には顔を上げて上を見ろ」という言葉をこう紹介している。
自分の仕事や勉強、生活の中でも、自分で自分に紐をつけて、限られた範囲の中で、足下だけを見て、黙々とやっている事はないか、と自問してみよう。
そして、時には、顔を上げて上を見てみよう。そこには何か、今まではあえて見ていなかった目標が見つかるかもしれない。川口博士は、それが「独創」につながるという。
■8.ビジョンとハードワーク
山中教授は、アメリカに留学していた際に、恩師から教わった「VW」の二文字を大事にしているという。
一生懸命実験や勉強をしているだけでは、下だけ見て、足下の草を黙々と食べているのと同じで、ビジョンなきハードワークである。
時には顔をあげて上を見ることで、はじめて遠くの目標が見つかる。そして、それに向かって、懸命に努力を重ねていくことが、「VW」であり、それができれば、その一念はかならずかなう。
■9.「これからは創造の国に変わっていかなければなりません」
川口博士の「やはぶさ」成功と、山中教授のiPS細胞研究でのノーベル賞受賞は、日本国民を大きく元気づけた。しかし、その成功を喜んでいるだけでは、もったいない。二人の示した道を、我々自身も参考にしていかなければならない。
とは、川口博士のあとがきの結びの言葉である。「創造の国」とは科学技術の分野に限らない。教育、政治、国防、農林水産業、福祉、文化、芸術など、すべての分野で「創造の国」でありたい。
現状の中で、足下だけ見ていたのるのではなく、時には顔を上げて上を見る。そこで見つかったビジョンに向けて、ハードワークを積み重ねていく。国を背負っているという気概と、そこから生まれるチームワーク。そういう国民が増えていくことで、我が国は「創造の国」へと変わっていくであろう。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a.
b. JOG(271) 「地上の楽園」北朝鮮への帰還
「地上の楽園」とのプロパガンダに騙されて、9万3千余の人々が北朝鮮に帰国していった。【リンク工事中】
c. JOG(008) Intellectual Honesty
大江健三郎と北朝鮮【リンク工事中】
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
1. 川口淳一郎、山中伸弥『夢を実現する発想法』★★★、致知出版社、H25