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Y Combinator流:AIスタートアップアイデアの見つけ方

2025年2月現在、日和見主義的に事業探索していると「やりたいことが多すぎて、どうやって自分が取り組むAIスタートアップアイデアを選定するか」という悩みに直面することがあると思います。

スタートアップアイデアの見つけ方は人それぞれですが、先日、2025/2/8にYCombinatorが「How To Get AI Startup Ideas」というタイトルで公開した動画が非常に参考になりましたので、個人的メモを残しておきます。

YC流の普遍的で原理原則に則ったスタートアップ向けアドバイスもあれど、How To Get AI Startup Ideasというだけあって、いくつかAIスタートアップに特化したアドバイスや事例が紹介されています。
(あくまでメモですので、正確な情報は下記動画を閲覧ください)


悪いAIスタートアップアイデアの特徴

悪いAIスタートアップアイデアの典型的な例として、バンドワゴン効果に基づくものが挙げられます。

「Xでバズっているから」、「他の人がやっているから」、「この領域が今トレンドだから」といった短絡的な考えでアイデアに取り組んでいる場合、それは良いアイデアではない可能性が高いです。

特に創業者はプロダクトの最初のバージョンを構築しやすいアイデアに取り組みがちとのことです。

AIスタートアップアイデアを得る方法

では、良いアイデアを見つけるにはどうすればいいのでしょうか?

彼らは、創業者が今いる場所に留まるのではなく、「深く自己内省し、自身の経験や専門性からヒントを得る、内向的アプローチ」か「外に出て、実際に人や社会と交流し現実の問題からヒントを得る、外向的アプローチ」を取るべきとアドバイスしています。

具体的にどういった事例があるのか見ていきましょう。

専攻や職場をヒントにする

内向的アプローチの事例として、自身の大学時代の専攻をヒントにしたスタートアップがいます。

  • Diode Computers

    • 回路基盤設計をAIで自動化するサービスを提供しています。創業者の一人がハードウェア系の学位を取得していることがきっかけになったとのことです。

    • 素早い開発サイクル、再利用可能なコンポーネント、バージョン管理などソフトウェア開発的なアプローチによるハードウェア開発の実現に取り組んでいます。

また、以前いた職場での経験をヒントにした事例があります。創業者がいわゆる領域のリーディングカンパニーにいたことで、最先端の課題に直面できたことでアイデアを着想しました。

  • Salient

    • 自動車ローンの債権回収を行うAI Voice Agentを提供しています。創業者の一人がTeslaのファイナンスチームに在籍しており、テスラのリース契約時のプロセスが手作業になっていたのを発見し、現在のアイデアを着想したとのことです。

  • Datacurve

    • LLM学習用の高品質コードデータを提供するサービス。創業者の一人がカナダ出身でCohereで働いており、Cohereに必要なサービスだったので取り組んでいる。現在はARR数百万ドルとのこと。

    • 彼らはバッチ期間中に3回ほどピボットしている。最初はGPT Wrapper「UncleGPT」というアイデアでアプライ。素晴らしいデモだったが、実際にお金を支払ってくれる顧客は現れなかった。次に、プロダクトマネージャー向けのAIサービスを着想。これもダメなアイデア。なぜなら、創業者は19歳で、プロダクトマネージャーとしての経験がなかったにも関わらず、着想したから。いわゆる家を出ないで考えたアイデア。Cohereの上司からニーズを感じたため、現在のサービスに行き着いた。

取り組むべきアイデアか見極める質問

  • あなたの専門性に紐づいているか

  • なぜ他の人でなく、自分(達)が取り組むべきか

健全な欲望に従う

一方で、過去の経験にとらわれず、今自分がもつ健全な欲望・野心からヒントを得る事例もあるそうです。

あまりに野心的なアイデアから創業者は目を背けて、それっぽいアイデアに取り組みがちとのこと。YCでは目隠しと表現しています。

  • Can of Soup

    • AI版のインスタグラム。創業者はSubstackのエンジニアだった。

    • これもピボットしたスタートアップ。最初のアイデアをやめてからは、無理やり人工的にスタートアップアイデアを考えていて、当時はB2B SaaSなどそれなりにうまく行きそうなアイデアを思案していた。だが、どれも創業者本人が心躍るようなものでなかった。

    • SubstackのCEOと散歩に出かけたときに、いくつかのアイデアを話すと、「Who cares? Work on something that captures the human imagination.」と言われ、人生賭けて取り組めるくらい本人が興奮できる大きなアイデアを選んだ。

取り組むべきアイデアか見極める質問

  • 残りの人生をかけて取り組みたいか

実際に働く

では、内発的動機に基づかない場合や自身に専門性がない場合はどうすればいいのでしょうか?YCでは外向的アプローチを推奨しています。つまり実際に社会に出て働いてみることです。

とはいえ、実際に働くにしても、どうやってその働き口にアクセスするのでしょうか。いくつか事例を見ていきましょう。

  • Egress Health

    • 創業者の家族経由で業界に入り込めた事例。創業者の母親が小さな歯科医院を経営していて、創業者は母に頼み込んで内部に潜入したとのこと。現場を観察していると、バックオフィス業務に煩雑な作業が多く課題感を感じたため現在のアイデアを着想したのこと。

  • Happy Robot

    • 創業者の人柄で業界に入り込めた事例。トラック運転手の物流調整のためのAIエージェントを提供している。創業者はトラック業界の出身ではないが、非常に親しみやすくフレンドリーな性格だったため、業界の中に入り込むことに成功した。

  • とあるAIスタートアップ

    • 公開されている採用枠に応募した事例。医療機関の請求担当者のリモートワークとして応募し採用された。2台のMacBook Pro上でLlama3を使用して自身の業務を自動化するソフトウェアを構築した。

一方で、その業界に勤務せずに、業界向けプロダクトをローンチすることで専門知識を獲得していく事例もあります。

  • Juicebox

    • 当初はフリーランス向けのマーケットプレイスに取り組んでいたが、うまくいかずにピボット。ただ、フリーランサーや彼らを雇用する企業と働く過程で、リクルーター向けの人材検索ニーズを見つけた。創業者は人を雇用したことも、リクルーターだったこともないが、とにかくプロダクトをローンチしたことで専門知識を得ることができた。

では、どうやってAIスタートアップのアイデア探索に適した業界をさがせばよいのでしょうか。

  • ひとつは、ソフトウェアエンジニアやAIエンジニアがいない業界。

    • テクノロジーが浸透していないため、AIによって提供できる価値が大きい。

    • テクノロジーが浸透していない業界は、既存のスタートアップが存在しないことを意味するが、必ずしも、その業界がスタートアップに不向きであるとも限らない。なぜなら、AIによってスタートアップのビジネスモデルの変化が起きているから。今までのソフトウェア販売だと、業務の一部の代替になるが、AIを活用したSell Workモデルでは業務の完全代替が可能になり、より大きな予算を獲得できる可能性がある。

  • もう一つは、製品を機能させるためのコンサルタントがいる業界。

    • RPOでは、製品の導入・運用にコンサルタントが必要。AutomatではUIPathより良い製品を開発している。

今、AIスタートアップに取り組む理由

完璧な正解が明確でない今だからこそ、実際に取り組み探索することで、技術力を活かした独自の価値を発揮できる可能性があるからとしています。(YCがアクセラレーターであるためポジショントークに聞こえる可能性があることは理解しつつも、個人的に共感できる内容だと思います。)

ピボットをしつつも、テクノロジードリブンで競合に勝った事例があります。

  • GigaML

    • 当初はFine tuning as a Serviceを提供していたが、ビジネスモデルを確立できずピボット。そこでカスタマーサポートをに狙いを定めたが、その領域はすでにHotで、競合との差別化要因が明確でなかった。

    • だが、結果としてZeptoと大型契約をとれた。なぜなら、GigaMLの技術力が高く、実際にカスタマーサポートチームの人間を代替できるレベルのサービスを提供できたから。

    • カスタマーサポートの人間をAIで代替すると口で言うのは簡単だが、それを実際にデリバリーするのは難しい。AIスタートアップでは、技術力がコアな差別化要因になり得る。

    • とはいえ、GigaMLも結果が出るまでに1年かかった。そして1年という期間は、AIスタートアップにとって極めて一般的な期間である。

さいごに

明確なアイデアを持ち合わせずに、プロダクトドリブンなAIスタートアップを始める場合、VCや銀行からの資金調達、顧客への営業、共同創業者や社員の人材採用などの、広義な意味での営業活動が必要になるのが一般的です。

これらの活動に共通して重要視されているスキルが、説得力のあるストーリーテリングです。この観点から、内省的なアイデア選定プロセスが有効かもしれません。

この内省的なアイデア選定プロセスを経たからといって、成功できるとは限りませんが、スタートアップに必要な基盤作りの一つとして重要なのかもと個人的に感じました。

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