『キャラクター』
またまた漫画原作の作品かと思いきや、浦沢直樹作品に深く関わっている長崎尚志の構想10年の原案を元にしたオリジナル脚本のサスペンス映画『キャラクター』。SEKAI NO OWARIのFukaseが大役抜擢で大丈夫かと思いきや、意外にもシリアルキラーがハマっていて、独特なサスペンス映画に仕上がっている。
まずはなんと言ってもシリアルキラーを演じたFukaseである。とにかく不気味で自分本位な行動はサイコパスという言葉がぴったり。いつの間にかに間近にいたり、かなり目立つ格好をしているのに薄い存在感というのがさらに不気味さを高めていて、その生い立ちまで巧妙に作られていて、キャラクターの深さがある。
最初は実際に起こった殺人事件をたまたま目にした売れない漫画家が模写して漫画にしたが、以降は漫画先行で、殺人が漫画を模倣する奇妙な作りのサスペンス。しかも、最初の殺人事件ではいきなり別の人物が逮捕される不可解な現象が起こるが、ちゃんと意味があり、その作りが深い。
また、刑事のバディとしての行動以外にも刑事と山城の関係や山城と夏美のカップル、山城と両角の関係など共助という作りが隅々まで行き届いたテーマになっている。原案・脚本の長崎尚志が浦沢直樹と共助の関係にあったことがこの原案と脚本に上手く生かされている。
サスペンスとしてだけでなく、菅田将暉が演じる漫画家・山城圭吾周辺の漫画家映画としても楽しめる。序盤のインクやスクリーントーンを使ったアナログな作成から、複数名のアシスタントを使った大家先生の製作現場、パソコンを使ったデジタルな漫画製作など漫画家の舞台裏が目立っている。また、出版社での編集者と漫画家の打ち合わせもリアリティがあり、この辺は小学館で漫画雑誌の編集者や編集長を経験した長崎尚志らしく、小学館版またはサスペンス版の『バクマン。』とも言いたい。
一見、良くできたサイコパスのサスペンスだが、殺人の様子を漫画に載せているのに全国指名手配も出来ない警察や、手袋もはめないで行う凶行なら指紋やDNAが現場に残りまくりで現実ならすぐに真犯人が捕まりそうなものだし、そもそも返り血を浴びたジャージを着替えずにずっと着てるから周りの一般人だって怪しいと思うんじゃないかな? それ以外にもつっこみ所が多く、意外にも穴だらけな脚本。漫画に描いたことが現実の殺人事件に模倣されるというアイデアに酔いしれたのだろう。ヒッチコックの『裏窓』のオマージュもまるで焼け石に水で、Fukaseを中心としたメインキャストの好演がただただ惜しい。
評価:★★★★