非日常がもたらす幸福感「マスカレード・ホテル」
僕は非日常が好きだ。まず旅行。やはりこれ以上の非日常はないだろう。何度も観た名作映画も飛行機で観るのはまた違う。セリフも覚えてしまっている「ショーシャンクの空に」なのにこれほど感涙してしまうとは…!単に「ショーシャンクの空に」が傑作というのもあるが、それを昂揚させてしまうのが非日常の優雅さだ。キャビンアテンダントさんから手渡されるキットカットもそう。いつも食べているものとは決定的な違いがある。ほのかに高揚感、高気圧感(?)のようなものを感じるのだ。
オシャレな街を歩くときもそれは感じられる。フォーマルな格好で銀座を闊歩すると自分が自分でなくなったような気分になるし、ハイブランドの店舗に入店なんてしたときはもう異世界。値札のないセカンドバッグを見て(うわあ、あれはいくらぐらいするんだろうなあ…)とか考えながら目が泳いでしまう。
さらには都内を車で移動するだけで誰に対してのものなのか全くわからないが優越感を感じる。ここまで聞いた時点で僕の日常がいかに庶民的かがおわかりいただけることだろう。
「マスカレード・ホテル」は犯行予告のされたホテルで潜入捜査をする刑事の物語。キムタク演じる刑事の新田はホテルマンとして潜入する。長澤まさみ演じる優秀なホテルマン山岸は新田の教育係に任命されるが、相反する職業を理解できず衝突を繰り返してしまう。そんな凸凹コンビのふたりも次第に互いの信念を尊敬しあい、事件の真相に近づいていく…。
全編を通して描かれるのはゲストを満足させるためにホテルマンが全力でサービスする姿だ。宿泊客はホテルでは普段受けられないようなサービスを受けられる。ひとときだけセレブに変身できるのだ。「マスカレード」とはよく言ったものである。
そんなVIP待遇を受けて勘違いをしてしまう客もいる。ホテルマンを見下して無理な要求をし、明らかに自分に非があるのにも関わらずフロントでわめき散らす…そんな迷惑な客に対しても一流ホテルの対応は変わらない。それでいてその場にいる他のゲストも不快にさせないよう配慮しながら真摯に対応するホテルマンたち。新田だけではなく映画を観た我々も彼らのプロフェッショナルに心打たれたはずだ。
映画を観たあと思い出したのは数年前に行ったバンコクのホテルだ。ATMでキャッシングしようとするも僕の持っているカードが認識されず、壊れているんじゃないかとホテルマンに聞いてみると自分のカードで実際におろして「できるよ!」と確認してくれた。対応のカード会社じゃなかったようで、別のカードでおろすと無事に1,000バーツが出てきた。手数料もかかってしまったのでホテルマンにチップを渡すと「いいよ、だいじょうぶ」と受け取らなかった。チップ社会のタイでチップを受け取らなかったのは彼だけだった。またバンコクに来たときはここのホテルに泊まろう、と決めた。
ホテルはコロナ禍でまだ健在だろうか。ホテルマンの彼は職を失わずに働き続けているだろうか。あのホテルに泊まったときが、僕の中での収束宣言ですね。