小室圭の世界にいた時の僕は、危うく金銭感覚が狂うところだった

小室圭がいるような法律事務所に在籍していたことがある僕は、給与と金銭感覚の面で随分と波乱万丈な道を歩んできている。

実は僕は、キャリアを公務員として始めた。いずれは企業法務に携わるつもりでロースクール時代に法律事務所から内定を貰っていたのだが、少しは「人のために尽くす」という弁護士の本来の姿を経験した方が自分のためになるだろうと思い、1年間だけ、ニュージャージー州で裁判官の助手であるロークラークという仕事に就いていた。

この仕事を通じて僕は判例の下書きを作成するなど、とても有意義な業務をさせてもらえたのだが、給料の面で言えば、新卒の地方公務員の月給など日本でもアメリカでもたかが知れてる。当時は実家に住んでおり家賃も食費も浮いていたはずなのに、貯金できた覚えがまったくない。

しかし、その給料は、ロークラークとしての1年の任期を終え、ニューヨークの法律事務所に入所した途端、数倍に跳ね上がった。まさに、毎日金の心配をしている生活から、金の心配を一切しなくて済む生活に一転したのだ。

そして、入所した数週間後のある日、社内便で封筒が回ってきた。開けてみると、なんと小切手が入っている。詐欺かと思ってじっくり観察してみたが、間違いなく事務所が切った小切手だ。

そこで気付いた。これが噂で聞いていた「ロークラーク・ボーナス」なのだった。

事務所は僕のロークラークとしての経験を事務所での経験として勘定してくれたので、僕は新卒ではなく2年目として入所していた。ボーナスは「1年間、安月給でお疲れさま」という労いだったのだが、たまげたのは金額だ。なんと、ボーナスの額(それも手取り)がロークラーク時代の年収(それも税込)より高い。

この瞬間、とんでもない世界に入ってしまったものだと思ったが、驚くのはまだまだ早かった。

その数ヶ月後、ある案件で届出のために3万円弱の費用が発生することが判明した。つい最近まで公務員だった僕からしたら3万円は結構な大金だったので、これを支払っていいものか上司に相談しに行ったら、「そんな少額で相談に来るな!」と怒鳴られながら追っ払われてしまった。よくよく考えてみたら、この人はクライアントに対して1時間8万円請求しているのだ。その感覚からしたら、確かに3万円は大した金額ではない。

そんな僕も、すぐに人のことは言えない立場になってしまった。当時の僕の主な仕事は、大企業による社債発行案件を仕切ること。こういった案件では最後に必ず、社債を購入する銀行から社債を発行する会社に対して送金する必要があるのだが、銀行への送金の指示はペーペーの僕が出していた。所詮、送金の前提が満たせていることの確認やメールの送信自体は事務作業だからだ。

初期の頃こそ僕はビクビクしながら送金指示を出していたが、日常沙汰になると、4000億円でもまったく金額を意識しないようになってしまった。

3万円がはした金の世界。数千億円が日常の世界。これでは、金銭感覚が麻痺しないほうがおかしい。

一旦ずれてしまった感覚はそう簡単には元に戻らず、こんな金銭感覚の世界なんぞ世間にはほとんど存在しないだろう。そのことに気がつき、このままだと法律事務所以外に転職できなくなってしまうことに危機感を抱いた僕は、ファイナンシャルプランナーに対して「いつでも公務員の生活に戻れるよう、ライフプランニングを立ててほしい」と頼んだ。

そのおかげで数年後、僕は給料が半減しながらも一般企業に転職することができた。だが、あの時にあの環境であの金銭感覚が当たり前になってしまっていたら、と考えると、今でも恐ろしくなるのだ。

[注:この記事は2023年7~8月に自分のブログに載せた投稿に微修正加えた上で再掲したものです]

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