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片頭痛を知ってほしいカッパ

穏やかな日差しが心地良い、18歳のある春の日、片頭痛を発症した。
あの日から16年、カッパの人生から片頭痛の恐怖が消えた日は1日もない。
心の底から笑い、リラックスした日も。

おいしいもの食べている時、楽しい場所にいる時、心が動かされる映画を観ている時、どんな時でも、頭の片隅には片頭痛の発作の恐怖が存在している。
頭の中に小型の爆弾を埋め込まれ、その爆破スイッチを、まったく知らない誰かが握っている状態といえよう。
こちらの都合はお構いなく、その誰かが気まぐれで爆破スイッチを押したが最後、脳内で爆弾は炸裂し、その痛みに、ただ耐えるだけの数時間が始まるのである。

発作のパターンには個人差があるだろうが、カッパの場合は、だいたい以下のとおりである。

① 視界に突如、虹が出現。徐々に虹は面積をひろげ視界の8割ほどを奪われる。(20分)
② 首、肩が尋常ではないほど、緊張し、重く、固くなり始める。猛烈な吐き気も始まる。
③ 虹が消失し、視界が戻った直後から、目の奥を中心に激痛が始まる。(4~6時間)
④ 痛みが治まるも、違和感(名残とでもいおうか)と疲労感だけが残り終了。

もし発作が起こっても、我慢すれば何事もないかのように振る舞える程度であれば、それで済む話だ。
だが片頭痛は、そんなことを言っていられるレベルではないのだ。
身体を動かす、ものを見る、匂いを嗅ぐ、音を聞く、風にあたる。これらの単純なことすら困難になるのである。
発作が始まったとき、それは日常生活に別れを告げるときでもある。

片頭痛の発作が起こりやすくなる要因は多くあるが、例えばこのようなものがある。
・ストレス
・過労
・睡眠不足
たしかに、その通りである。これらのうち、どれか一つを多く抱えたとき、もしくは重なったとき、発作はおこりやすい。
しかし、現代の日本で仕事をする人間に、これらと無縁の生活を送れる者はいるのだろうか。
いたとしても、一握りの存在であろう。
フルタイムでの労働、通勤、家事。最低限必要なことをやっただけでも、既に睡眠不足は確実。ストレスのない仕事など存在せず、日々の睡眠不足から疲労は蓄積。
片頭痛が起こりやすくなる環境に身を置かねば、衛生的で文化的な最低限度の生活を送ることは不可能なのである。
ストレス、過労、睡眠不足が重なると発症しやすくなる――言い換えると、仕事が忙しくなれば、なるほどに発症リスクが高まるということでもある。
これが片頭痛の最も憎たらしい特徴といえよう。
想像していただきたい。忙しさで社内がピリピリとした雰囲気になり、普段はサボっているような、ぐうたら社員ですらもバリバリのモーレツ社員の如く働くなか、発作が起こってしまったときのことを。
吐き気と痛みに耐えて、耐えて、大の大人が本当に涙を流しながら耐えて、それでもどうしようも出来なくて、上司に片頭痛であることを告げたところ、キョトン? という表情をしていた。
どうやら、片頭痛のことを二日酔いの頭痛程度のものだと思っているらしい。
「頭痛くらい誰でも少しは抱えながら仕事している。そんなことで休んでいては切りがない。若いのにこらえ性がないなあ」といった具合である。
そもそもカッパは、入社前に片頭痛持ちであることは伝えていたし、いつ発作が起こってもいいように、どのような症状なのかは折に触れ、伝えていたのだ。
それでも病名が頭痛であるというだけで、上司からは“二日酔いの頭痛と同じ”程度の理解しか得られていなかったのだ。
なんとか別室で休む許可をもらったが、発作が終わるころには終電に近い時間になっていた。
忙しくなればなるほど、発症リスクが高まるわけだから、その後も忙しいときに、このようなことが続いた。
そうすると社内では「あいつは忙しくなったら逃げる卑怯な奴」という認識になる。当然だ。カッパだって病気の知識がなく、彼らと同じ立場だったら、同じことを思ったに違いない。
協調性がない社員と認識されストレスは溜まる一方で、忙しいときに休んでいたのだからと、残業や休日出勤を命じられて睡眠時間が減る。こうして片頭痛が起こりやすくなる悪循環に入ってしまったのだ。
そしてある日、カッパは会社で過去最大級の発作を起こし、救急車で運ばれて、気が付いたら病院のベッドで酸素吸入器を付けていた。
上司は、忙しいとサボる困った奴が、いよいよ癇癪を起して救急車を利用して逃げたという認識だった。
カッパは会社を辞めた。その後も正社員として2社に転職したが同様の理由で、どちらも退職し、今は派遣社員として働いている。
コンプライアンスやハラスメントという言葉が一般的に浸透し、様々な情報を誰でも容易にネットから得られるような時代になり、片頭痛に対しての理解は前より少しだけ得られるようになったと感じている。
それでも一度、派遣先で正社員としての内定が決まった直後に、また救急車で運ばれる発作を起こしてしまい、健康と安全上の理由から内定を取り消されてしまったことがある。
カッパはまだ、片頭痛に人生を左右されている。

このように人生を支配されてしまうような病気は片頭痛に限らず、たくさんあると思う。
安倍晋三前総理大臣の潰瘍性大腸炎なんかは有名だ。
きっと有名じゃないけど、同じような苦しみを与える病気を抱えた人はたくさんいる。
その人のせいではなく、病気のせいなのに、人格を否定されるような誤解を受けて悲しんでいる人が大勢いる。
今も会社で崖っぷちで闘っている人もいるだろうし、家に引きこもり自分の殻に閉じこもることで身を守っている人もいるだろう。
カッパが、片頭痛のことを発信したのは、世の中の仕事をしている人たち全員に、こうして苦しんでいる人がすぐ身近にいるのだと知ってほしかったから。
特に部下を預かる役職の人には、こういう病気があるのだと知ってほしい。
コンプライアンスやハラスメント教育するのが一般的になったように、突発的な発作により、日常生活すら困難になる病気について理解を深める教育も一般化してほしい。
ただの頭痛、腹痛などで済ませていい病気ではないのだ。
会社、上司、同僚から病気の理解を得られるかどうかは、その人の人生を左右するといっても全く過言ではない。
ここまで書いて気づいたが、この話は会社生活に限ったことではない。学校生活においても同様だ。家族という単位でもそうだ。複数の人間が集まるコミュニティが形成されたなら、全員に周知されるべきことだと思う。
具合が悪いと言う人がいたなら、舌打ちするのではなく、その人が最も早く楽になる状態を、周りの人全員で作ることが当然の世界になることを心から祈っている。
祈るだけで変われば、世界はハッピーだが、そういうわけにもいかないので、微力でも行動を起こそうと思い立ち、情報発信を決意した次第である。

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