“STAY HOME“ REC音源 『STAND ALONE』の 使用機材をただ見ていくだけのnote(終)

三曲目の「酔いの宵」。

日本酒に浸り、とろけ、やがて溺れていってしまう
甘美で危険な酔いの世界へ、ようこそ。

こちらも適当な打ち込みのリズムをもとに
ベース重ね、ライブ時とは役割を分けた、
メロディーとスラップの二本を入れる。
(どちらも、いつものジャズベ使用)

フレーズを分解して弾き分けてみると
こういうコード進行だったのかぁ、
と曲の構造を改めて理解するきっかけになったり、
理論的に整合が取れているのかは不明だが
弾いていて気持ちが良いので、良しとする。

で、リズム差し替え。
まずは「STAND ALONE」で登場した洗濯板に
ビニール袋を重ねたものを、手で叩いて、爪で滑らせる
という合わせ技を試してみる。

居酒屋の引き戸がガラガラと開けられるような
はたまた厨房から聞こえてくる調理の物音のような
ぼうっと湯気が湧き上がるような、心がざわつくリズムが録れたので
よしよし。リズムのヨレはなるべくそのままに。

それだけでは若干寂しかったので
刺身のツマのようなもう一つ何か
居酒屋、飲みの席、日本酒とくれば
お猪口で乾杯ね、ということで
お猪口をいくつか試してみると、
これが一番いい音で鳴った。猫。

画像1

乾杯、のつもりがちょいと寂しげ
そんな響きが加わることで賑やかさから遠く離れ
カウンターで一人、
燗をつける女将さんの指先に見惚れて酔う宵っぽさ
が増してくるから不思議。

次第に心地よい酔いが進んで
背景霞んでく部屋
体の輪郭が不確かになって
ただの点と線の集合体
不安も恐れも全部解け去って
落ちてった先は
ぽっかりと空いた純真無垢な童心の洞穴

はい、これ、叩いてみてね。

画像2

はぁ、癒し。

8年前に、ベース・マガジン編集部Kさんよりいただいた木琴。
ここへ来て、まさかの出番です。

ピアノで言うところの”黒鍵”部分がないため
メロディー全部をカバーし切れず、
頭の部分だけにしか出てこない
という奥ゆかしさが、また良し。効果的。
展開部に出てくるポロロロロロ…は
お酒を注ぐ時の、トクトクトクの音をイメージ。
似てるような、似ていないような。

画像3

そこからさらにエンディングへ向け、
酩酊したい
羽ばたいていきたい、翼をください

そこで、チェロの登場。
こちらは2008年、
当時のベース飲み会でたまたま宅を囲んだ
くるり佐藤さん&ソイル秋田さん&コントラバス奏者小谷さん
そして私で結成されたベース弾きによるチェロ四人衆
その名も、「摩擦」

画像4

飲みの席での話にとどまらず、
皆が律儀にチェロを購入し、
一時期は先生にまで来てもらってチェロを擦る
そして、リハのたびに飲んで散財する
という熱心なサークルであったにも関わらず
未だオリジナル曲ゼロ、ライブ経験ゼロ
ただし年に一度の新年会はなるべく開催する
そんな生粋の飲み仲間に揉まれて築き上げたチェロの腕前や
この度、いざ録音となるともう大変で
YouTubeで一から構え方やビブラートのかけ方を勉強
鏡の前でフォーム確認、指板に印も付けてしまう

画像5


いい演奏はまず表情(パッション)から
なるべくヨーヨーマ氏のような表情を意識して弾いてみる。
(逆に、いいイメージで弾けているときは
 ヨーヨーマ氏のような表情になっているということが理解できた)

入り込んでしまう、その音色に、引き込まれる
恐るべきチェロの魔力。

フレーズを考え始めればそこはもう底なし沼。
理論はそっちのけ、あくまでイメージと勘が頼り。

自分の力量をごまかすために何本かテイクを重ねて
重厚な音像にする方法も試しつつ、
その凜とした孤高さを損ないたくなかったので
結局ダブルはやめて、それぞれ一本ずつ、
粗さが出る、頼りないくらいがちょうどいい。

何日もチェロ録りを繰り返しながら
上手い人に頼めば一時間くらいで終わるんだろうなぁ
と、技量や知識の積み重ねの大事さを身に染みて覚えつつ
一人でなんとか目標までたどり着く、その根気、諦めの悪さ
それはそれで、バンドマンっぽいのか。
結果、「STAND ALONE」
ヒーヒー言いながら漕ぎ着けた孤島の岸辺に寝転がって
やっと辿り着いた…とカラッポになった一升瓶のごとき我が想像力
そこから生み出された創造物は、一晩の酔いに似た底知れぬ陶酔。

今宵は盃を交わしましょうぞ
自然に表情がほころぶ、滑らかな時間。

そんな和やかな日常は、きっとそう遠くない未来。

「のめり込んだのは、あなたの罪でしょ」


画像6

(昨年10月、ツアー途中。柏崎駅前の酒場にて一献、の図)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?