3c なにはなくとも「ピント」は合わす!
⚫意図しないピンボケ写真は救済できない「失敗写真」。
⚫ピントは「ポイント(点)」ではなく「面」であることを理解しよう。
⚫同じ二次元上の面なら無数にあるピントを利用して、カメラのオートフォーカスを助けてあげることができる。
⚫あえてのマニュアルフォーカスを試してみよう。「フォーカスアシスト」を利用することで、「被写界深度」までもビジュアライズすることができる。
「ピンボケ写真」は 「失敗写真」
あなたにとって「失敗写真」ってどんな写真ですか?
もちろん、手応えのあった写真以外は全て失敗である、というストイックな考え方は素敵ですが、現場で削除ボタンを押すのはちょっと待ってくださいね。
実は、あなたご自身が「失敗した!」と思っても、後日見返してみると「もしかして、これはこれでアリじゃね?」ってこと、けっこうあるんです。
じゃあ逆に、何が「失敗写真」なのでしょう? 「失敗写真」とはどんなものか?
もとはし的基準では、失敗写真とは「フォーカスの合ってない写真」すなわちピンボケ写真です。
シャッターチャンスがずれた、構図がおかしい、露出の設定をミスった、などなど、様々な失敗写真のパターンがあると思いますが、これらは視点を変えれば救える可能性があります。それは価値観や審美眼の問題だったりするので、そこには別の見方をしてみる余地があるのです。
しかし、ピンボケ写真だけは救えません。もちろん、フォーカスの合ってない写真が全てダメだとは言いませんが、少なくとも意図したアウトフォーカスでない限り、被写体にピントの合っていない写真は、後で見返したところでダメ。あれ、このピンボケ意外にお洒落じゃね?なんてことにはならないのです。
なので、ここで言い切ってしまいます。「失敗写真」とは、「フォーカスの外れた写真、ピンボケ写真」のことなのです。
ピントは「面」である
では、ここでまた「そもそも論」を展開してみましょうか。そもそも、ピントって何でしょう?
「ピント」って言葉はそもそもオランダ語から来てるもので、「brandpunt(焦点)」が語源の日本独自のカメラ用語となっています。ドイツ語や英語じゃなくてオランダ語ってところが意外ですが、おそらく幕末の蘭学ブームのときに入ってきた言葉なんじゃないでしょうか。あくまで想像ですが……。
いずれにしても、その意味は「焦点」です。英語の「focus」もやはり1点に集中するようなイメージですよね。
カメラのオートフォーカスの設定の際にも、フォーカスを合わせたい場所(フォーカスポイント)を1点で設定します。その画像の中で「ココ!」という1点がビシッと合焦していてほしいものですし、ピントというのは点である、というイメージが一般的なのではないでしょうか。
しかし、ここで覚えておかなければならない大切なことがひとつあります。
それは「ピントは面である」ということです。
構えたカメラのレンズの前面、それと平行にピント面は存在します。厳密に言うと平らな面ではなく半円状なのですが、距離をおくほど巨大な球面になるので、カメラマンの感覚としてはそこで厳密じゃなくても大丈夫です。ほぼ平らな面だと思っていいでしょう。
昔の特撮映画であった、ウルトラマンを守る平らなバリア。もしくは最近だとエヴァンゲリオンのA.T.フィールドのようなイメージでしょうか。
空間にある、目に見えない平らな壁、それがピント面です。
ピントが「面」であることを表したイメージ画像です。
被写体である大小のハロウィンのカボチャ、それを輪切りにするように半透明の「面」が広がっています。これがピント面のイメージで、フォーカスを前後に調整することで、この面が前後に移動します。
面であることがなぜ大切なのか。それは、フォーカスを合わせた1点ではなく、等距離の二次元上であればフォーカスの合ってるポイントは無数にある、ということを意味しているからなのです。
オートフォーカスを助けてあげる
普段デジカメでカメラを構えて写真を撮ろうとしたとき、フォーカスポイントで指定した「ココ!」というポイントに限って、オートフォーカスが合ってくれないということ、あるのではないでしょうか。
光の状態や被写体の色、被写体の表面の反射率などから、どうしてもフォーカスが合ってくれないポイントというのはあるものです。この一瞬、という時間のないときに限って、カメラはフォーカスを迷ってジージーと鳴るばかり……。
こんなときに思い出してほしいのが、ピントは面である、ということなのです。
ピントを合わせたい点と等距離の(同じ二次元上にある)、オートフォーカスが合焦しやすいポイントを見つけてそこに合わせてあげれば、必然的に目的とするフォーカスポイントにもピントが合っている、というわけなのです。
もちろん、目測で等距離なところを探すのはそれなりに経験が必要な話かもしれませんが、どうしてもフォーカスが合わないときにカメラに当たり散らす前に、フォーカスは面である、ということを思い出して対処してあげれば、貴重なシャッターチャンスを逃すこともなくなりますし、結果としてピンボケ写真でがっかりすることも少なくなるというわけなのです。
ふたたびピント面のイメージ画像です。カメラマンが写そうとしている大きなカボチャ、向かって右側の大きな方のカボチャの、ヘタの部分(画面の★印)にフォーカスを合わそうとしています。
その場合、半透明イメージのピント面上の、⚫で表したそれぞれのポイント、どこにフォーカスを合わせてもカボチャのヘタにも合焦するのです。
ときにはあえてマニュアルフォーカスを試してみる
デジタルカメラであれば、9割のユーザーが当たり前にオートフォーカス設定で撮影していることでしょう。
しかし、ここでは、ときにはマニュアルフォーカスにトライしてみることを提案してみたいと思います。
最近のたいへん性能のいいデジタルカメラに頼ることなく、自力でフォーカスを合わせてみるのです。
一度は親元を離れて一人暮らしをしてみよう、みたいなものですね。
手動の世界にはさまざまな気付きがあるのではないでしょうか。
さて、レンズをモーターで駆動するオートフォーカス以外にも、現代のデジタルカメラには便利なフォーカス機能があるのをご存知でしょうか。
ほとんどのデジタルカメラには実装されていると思いますが、フォーカスアシスト機能のことです。
ユーザーが手動でレンズを動かしてフォーカスを合わせようとしたとき、もしくはサードパーティーレンズ、古いフィルム時代のレンズをマウントアダプターで使うときなどのために、ファインダーの中の実像の見え方でピントを合わせるだけでなく、何らかのデジタル的補助を用いてフォーカス合わせを容易にする、便利な機能がフォーカスアシスト機能なわけです。
なぜなら、いまどきの一眼レフ以外のデジタルカメラ(ライカのレンジファインダーは除く)のファインダーは、だいたいEVF(エレクトリックビューファインダー)です。要するに小さな液晶画面をのぞいているわけで、実像のアウトフォーカスを見分けるのが意外に難しいんですね。それぞれの液晶画面の性能にもよりますが、やはり光学的ファインダー(OVF)の方が圧倒的に見分けやすいわけです。
それを何とかしようとするのが、各種フォーカスアシスト機能で、メーカーごとにいろいろありますが、主にフォーカスピーキング(合焦してる部分に色をつける)、デジタルスプリットイメージ(フィルムカメラで一般的だった、合焦するとズレが重なる上下二重像をデジタルで再現)、ボタンひとつでフォーカス面を拡大する画面拡大機能などがあります。
富士フイルムX100Vのフォーカスアシスト機能、”フォーカスピーキング”の例です。X100Vの背面液晶を撮影したものですが、画像に赤い色が付いているのがおわかりいただけると思います。
これがフォーカスピーキングで、いわゆるフォーカスの「ピーク」(ピントが合っている範囲)に色を付けて分かりやすくしてくれる機能です。
この場合は赤く色が付いていますが、もちろん自分の好きな色が選べるようになっています。
被写界深度が「目に見える」
どれもたいへん便利なもので、それぞれ一長一短ありますので、試してみて自分の好みに合う機能を使っていただくといいと思いますが、ここで私がひとつお勧めしたいのがフォーカスピーキング機能です。
フィールドのちょっと開けた場所で、被写体の前後に空間があるようなところを見つけて、フォーカスピーキングでマニュアルフォーカスしてみてください。
驚くべきことに、そこにはデジタルで色付けされた「ピント面」が目に見える形で存在しているのです。
というのは、被写体前後の地面にも、面としてのピントが存在していて、それがデジタルで色付けされて見えているのです。フォーカスリングを回してみると、面としてのピントが地面を前後に動く様子がはっきりと見てとれます。
そこには前後に一定の幅もあります。そうです、それこそがまさに「被写界深度」で、絞りを操作することでその幅が変化する様子がつぶさに見えるのです。
概念として理解していたことでも、そこにビジュアルイメージを持つことで、理解に具体性が生まれます。理解が実感になったとき、フォーカスの仕組みをさらに自分のものとして実践してけるのではないでしょうか。
まさにデジタル時代のバーチャルラーニングの一例というわけです。