「私、中身おっさんだから〜」
1ヶ月通っているジムのヨガのクラスで知り合った由希子さんと、流れでお茶をすることになった。
由希子さんはヨガは2年目。お互いアラサーでお互い猫を飼っており住んでる沿線が同じ。勝手の分からない私に親切にいろいろ教えてくれる由希子さんとは、自然と仲良くなった。
細身だが適度に筋肉もある由希子さんを見て、私もヨガを頑張ればこういうふうになれるのかしら、と憧れていた。
由希子さんはカフェではヨガのクラスのときにいつもしているポニーテールをおろしていて、ふわふわの髪が新鮮だった。手入れされた愛玩犬のような愛くるしさに女の私でもつい見惚れてしまっていた。
「美希さんはキャラメルラテ?可愛いわね。このカフェは焼酎はないのかしら?クッキーよりスルメが食べたいのよ。私、中身おっさんだから〜」
とメニューを見ながら由希子さんが言ったので
「ああ、そういうこと言っちゃう系なんですね」と私は返した。
よくあるやつ。個性に憧れる小綺麗で平凡な女性が個性を出すために自分におっさんというラベルを貼るあれね。クールな由希子さんに憧れていた私は勝手に少しがっかりした。
「言っちゃう系ってなによ〜」と言いながら由希子さんは出てきた冷たいおしぼりで顔をゴシゴシ拭き始めた。おしぼりについたマスカラやグロスや肌色のファンデから慌てて目を逸らした。
おしぼりを持ってきた20代と思われる雰囲気イケメンの店員男性のおしりを、由希子さんが一瞬見つめたのを私は見逃さなかった。
そのあともカフェで由希子さんは「小泉が日本をダメにした」だの「今の若い子はハングリー精神がない」「日本はもう終わり」「古き良き昭和の日本を取り戻したい」など、爪楊枝で歯の間に挟まった肉を取りながら一方的に話をしていた。痰がからむのか、たまに周りの女子たちが振り返るほどの大きな咳払いをする。
ヨガのときには気づかなかったなぁ。私は割れたクッキーと冷めたラテを飲みながら適当に相槌を打ってその場をやりすごした。
「じゃあ1人千円で」と私が言うと「いいからいいから」と、指をペロっと舐めて五千円札一枚取り出した。「いや悪いですよ」というと「一応年上だからさ」と言う。店員さんにも「お釣りは要らないからとっておいてよ、長居してごめんね」と会釈。
カフェを出ると由希子さんは「じゃあ私はここで」とくわえていた爪楊枝をやっとしまったと思ったら道端に痰を吐き、向かいのパチンコ店に消えていった。
由希子さん、ちょっと思ったのと違ったけど実直で頼りになる人かもしれない。驚いて話せなかったけれど、今度はもっと私の話も聞いてもらおう。
来週のヨガのクラスも楽しみだ。
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