お部屋探し
僕は30歳の独身男。憧れの東京転勤が決まったので今日は内見予約をしていた物件をわざわざ新幹線で見に来た。やっぱり東京は街がオシャレで美人も多いなあ。この街に住めるなんてとても嬉しい。時間もないからあまり悩まず今日1日でスパッと決めたいと思ってるんだよね。
スーモで気になる物件を問い合わせたら「スピード力が売りです」とうたっている不動産屋から連絡がきたのでさっそく内見予約をしてみたのだった。
・新宿三丁目駅から徒歩7分
・家賃8万円
・2LDK、30平米
・築5年
・風呂トイレ別、独立洗面台つき
このエリアの他の物件と比べて半額近い家賃だ。安すぎる。メガネの真面目そうな担当者に
「これ事故物件なんじゃないんですか?」とおそるおそる聞くと「いえ、そんなことはないですよ。オススメ物件です。さっそく内見に行きましょう。」と言われすぐに車に乗せてくれた。
マンションに着いた。外観は悪くない。エントランス前にある小庭も気に入った。清潔な空気のエレベーターに乗り、深緑に金で縁取られた洋風のドアをあけると、白い床のキッチンと廊下があった。
不動産「備え付けの洗濯機が置いてありますが、不要でしたら弊社で引き取ることも可能です」
もう既に気に入った、ここにしよう、と思いながら靴を脱いで入ると
壁一面に、赤い字でいろんな人の名前が書いてあることに気づいた。
「光朗、博之、真美、茂、愛莉、ゆるさないゆるさないゆるさない」
「これはなんですか!?」
「壁のシミ...まぁ模様ですかね?お気に召さなければお客様ご自身の負担でクロスの張り替えをしていただくことも可能です」
「いやこれはシミとかじゃないですよね!」
「うー...ん。まあそれは感じ方はどうしても個人差がありますからね。ロールシャッハテストみたいなものですから。」
「いや、テキトーなカタカナで煙に巻こうとしないでください!東京の人の悪い癖ですよ!!」
怒りながら浴室のドアを開けるとなんと鏡に赤い五芒星が鏡に書いてあった。
「これはなんですか!?」
「バスミラーのデザインがお気に召さなければお客様ご自身で変更していただいて。」
「いやこれデザインじゃなくてなんか儀式やってますよね!?絶対おかしい。もうこの不動産屋信じられない。」
呆れながら洋室のドアを開けるとなんと、白骨化した人間が服のまま倒れていた。
「これはだれですか!?」
「こちらは前の入居者様です。もし不要でしたら弊社で引き取ることも可能です。」
「いやこれ死体ですよね!?備え付けの洗濯機みたいに言わないでください!もちろん不要ですよ!しかもどうして遺体がまだある状態で次の入居者をもう探してるんですか?」
「弊社はスピードが売りでして。前の入居者様がお亡くなりになった連絡が入った瞬間からもう次の入居者様を探しております」
「そっちのスピード!?誰もそのスピード求めてないですよ!!そもそも、最初に事故物件じゃないと言ったじゃないですか!!!」
「2021年の国土交通省のガイドラインによると、 入居者の死亡の発生や発覚から3年が経過するまでは、入居者や入居希望者にその事実を告知しないといけません。しかし逆に言うと、もう3年経ってるので事故の告知義務はないんですよ!(ドヤ顔)」
「いや不動産さんが告知してくれなくてもご遺体がここでずっと身体を張って告知してくれてますよね!?しかも、えっ、3年間片付けなかったんですか!?」
「クリーニング代が勿体なかったので…クリーニングは入居者様に入居前にご負担いただくことになっております」
「ちなみに初期費用は総額いくらなんですか!?」
「敷金なし礼金なし仲介手数料なし、前の入居者様はお亡くなりなので鍵は交換しません。クリーニング費用のみ2万円いただきます」
「わかりました、ここに決めます!」
2ヶ月で退去しました。
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