見出し画像

べサメムーチョ

ミュージシャンをやっていて良かったと思う瞬間のひとつに地方遠征がある。

東京に生まれて東京で育った僕にとって、田舎はまさに憧れの地だ。
山々に囲まれた大自然の風景、明け方になると聞こえてくる野鳥の変な鳴き声、なんの前触れもなく突然路上に現れる牛ガエルなど、どれも魅力的でたまらない。

僕は毎年夏になると、アコーディオン奏者・大塚雄一さんに誘われて長野の田舎町へ演奏の旅に出ている。そこで演奏するのは、フランスの伝統的なダンスミュージック「ミュゼット」。心踊るリズムと物哀しいメロディーが組み合わさったワルツである。

この大塚さん、アコーディオンを弾いている時はとても際立ってカッコイイのだが、演奏を終えるとたちまち癒し系キャラに変貌する。
口癖は「イェ〜〜イ」。乾杯の時も、ご飯が美味しかった時も、おはようからおやすみまで全ての感情を「イェ〜〜イ」のひと言で表現してしまう、なんともキュートな人なのだ。

そんな大塚さんとの演奏の旅なのだから、楽しくないわけがない。

旅行中、僕たちはとある野外のイベントスペースでライブをすることになった。
ミュゼットを数曲演奏していると、だんだんとギャラリーも集まってきた。中には一緒になってメロディーを口ずさんだり、演奏に合わせてダンスをしてくれる人もいたりして、まるで昔のパリの酒場にタイムスリップした気分を味わった。
大塚さんの「イェ〜〜イ」も、心なしか「セシボ〜〜ン」に聞こえた気がした。

ライブも終盤に差し掛かると、通りすがりの中国人観光客の人たちが英語で喋りかけてきた。どうやら僕たちに何か一曲リクエストしたいらしいが興奮していてなにを言っているのか全く分からない。すると彼らは冒頭のメロディーを歌い出した。

べサメムーチョだ。

メキシコの歌謡曲であるべサメムーチョは、「私にたくさんキスをして」という意味の情熱的なナンバー。ミュゼットとは全く関係ないが、最後はみんなで大合唱して終わった。
大塚さんの「イェ〜〜イ」が、今度は「カラム〜〜チョ、スッパム〜〜チョ」と言っているように聞こえた。

このように、ミュゼットはみんなでひとつになって楽しむ音楽だ。
今年の夏に発売予定の僕のNewアルバムにも『Flambée montalbanaise(モントーバンの火)』というミュゼット曲を収録している。これは僕がミュゼットの中で一番好きな曲だ。誰もが「イェ〜〜イ」と言いたくなるようなアレンジに仕上がったので、ぜひ聴いてみてほしい。

Newアルバム制作にあたってクラウドファンディング支援者募集中!
https://camp-fire.jp/projects/view/251174

いいなと思ったら応援しよう!