J.マルコフ「人工知能は敵か味方か」
人工知能は人間の能力を拡張するのか
IA: Intelligent Assistance/Amplifie
VS
人工知能は人間に置き換わるのか
AI: Artificial Intelligence
人工知能は人間の能力を拡張するものであるという考え方を、IAといいます。
これに対し、人工知能は完全に人間を置き換えるものであるという考え方を、AIといいます。
このIA対AIの図式というのは、実はAIの歴史がスタートした時からありました。
AIが好調のときは、IAの考え方は盛り上がりません。AIが頓挫すると、IAの方が実用的だというので盛り上がるようになります。一般的に言って、IAとAIはそういう関係に、相互的な関係にあります。
本書の入りの話として、AIブームについてごく簡単に解説しましょう。
この波は、今までに3回ほど繰り返しています。
第1次AIブーム
1964年がAIのスターティングポイント だと言われています。
ダートマス会議というのが開かれて、AIという言葉が作られたのが1964年です。その後が 第1次AIブームでした。
人間と同じような能力の計算機を作ろうというのが当時でした。ところが、当時の計算機は低水準ですから、幾らがんばっても作れない。
仕方がないので、それでも人間に役立つものを作ろうよ というので、IAの時代になりました。
第2次AIブーム
1970年代ぐらいになりますと、どういうふうに人間の知識をAIに教えていくかという方法が分かってきました。こういうときはこうしなさいという、if-then タイプです。if •••、then •••という if-then タイプのルールをたくさん作れば人間っぽい動きができるでしょう
医師の診断に近いこともできるというようなシステムを作ったのです。1970年代後半のことです。
この時に、これはかなりの仕事がAIで取って代われるのではないかと議論され始めました。
しかし、それが10年くらいで盛り下がりました。人間が、このようなたくさんの if-then タイプのルールを書いていくなんてことは非現実的だったのです。
少し考えれば分かるのですが、すぐにルールの数が膨大になってしまう。そうすると、人間の意思を超えて、整合性があるのか、矛盾がないのかなんて分からなくなってしまいます。
それで、ルールを取り込むということが機械的にできなかったことによって、第2次AIブームは盛り下がりました。
しかし、盛り下がったと頓いっても、予算が足りなくなっただけで、研究者は研究を進めていました。
ルールを自動的に学習するにはどうしたらいいのかというような研究の方向を考えていきます。しかし、これはうまくいかない。
そうではなくて、ルールはなくてよいという方向性での検討を始めます。if -then ルールではなくて、相関型という方法で発想することに成功したのです。例えば、ビールを買う人は、ついでに近くに売っているアイスを買う、といったような相関関係から考えていくというものです。これをかなり大きなデータでできるようになりました。
しかも、コンビニなどの売上データというのも電子的に入手できるようになったので、それを使って、非常に役に立つデータを取り出せるようになりました。このような機械学習ができるようになってきたのが大きなところです。
しかし、これもIAで、AIとはいえません。
第3次AIブーム
AIは現在、第3次AIブームをむかえています。
深層学習、ディープラーニングというのが出てきました。これが非常に人間の考え方、人間のニューロンというのか、脳の構造に近いようなことをやっているの ではないかというふうに言われています。
2005年前後までは、これまでの機械学習の方法で出していた相関関係に対して、出てくる結果の正しさの程度を、少し上げるのにも相当な苦労が伴いました。それをパーセンテージで正しく予測できるかというと、85パーセントくらいまでは行ったのですが、そこからは0.1パーセント刻みであげるのに、全然上手くいかなくなったのです。
しかし、そこでディープラーニングなるものが出てきて、適用したら、そこで一気に5パーセントか ら10パーセントもドーンと上がりました。それでディープ ラーニングがすごい、ということになったのです。言語の理解や画像の理解で、今まで頭を打ってしまってどうしようもなかったのが、一気に動いたのですから。
ここから、ChatGPTの登場で、現在盛り上がっているのは、ご承知のとおりです。
IAとAIの違い
人間がシステムの内側に自分自身が入り込むか(IAの考え方)
VS
外側から見て命令するだけか(AIの考え方)
というのが明確な差です。
それがIAとAIの 差だというふうに見ると理解しやすいと思います。
IAというのは、ChatGPTのように、昔に比べるとはるかに賢くなっているし、能力も高くなっているので、人工知能との付き合い方が単にお任せというのではなく、自分がどういうふうなコミット の仕方をするかということがものすごく重要といえます。
おわりに
今回は、マルコフの本に従って、IAとAIについて見てみました。
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