-山を舐めるな- 凡ちか番外編 箱根の家5
箱根で住み込みバイトをしていて
せっかく観光地にいるのだからと
ホテルの従業員割引を使って
たくさん観光した。
強羅公園
ガラスの森
星の王子さまミュージアム
仙石原のすすき草原
海賊船や地獄谷
箱根は魅力のつきない場所だった。
だが、
あまり本などに書いていない
観光スポットで
私には1つ
行ってみたい場所があった。
「大文字山」だ。
夏、花火が上がったその日、
山に「大の字」に燃えて浮き上がった。
住んでいる寮から大文字は
いつも見えていて
「いつか、あの大の文字の上に、
大文字に寝てみたい。」
と思っていた。
しかし
「山登って、大の字のところで
大の字に寝ようぜ!」
と言って付き合ってくれるほどの友達は、
まだいなかった。
地図を持ち、フラっと山へ出かけた。
ホームステイとかで住んでいる家ですら
迷子になる私は案の定、迷子になり
地元民っぽいおじさんに道を尋ねた。
「あの山登りたいのですが、
どこから登ればいいですかね。」
「お姉ちゃん、今から行くの?」
「はい。」
「そんなサンダルじゃ登れないよ。
山を舐めちゃダメだよ。」
と忠告を受けた。
私は、何故か、その時
「おじさんこそ、私を舐めたらダメだよ。」
と根拠のない自信に包まれており
教えてもらった場所から登り始めた。
すると木に
遭難して行方不明になった方の写真が。
ゾッとしながらも登る。
そしてちょっとした違和感に気づく。
誰にもすれ違わない。
その辺りからやらかした事に気づき始める。
なんと、
水を持ってきていなかった。
そこそこ暑い日に
山を登ればそれは喉も乾く。
登り切ってもいないのに、
汗はだくだく、喉はカラカラだった。
夢中で登りきって
大文字に無事到着。
予想より少し急な坂で
焼け跡からか少し黒く
汚れた場所だったけれど
「大」の中心で「大」になって寝転んだ。
太陽が近くに感じて、
より一層干からびそうだったけれど
心は達成感で満たされた。
しかし、遠足は家に着くまでが遠足。
まだ終わりではない。
下山中
着替えも上着も持たないで来た私を
狙っている奴がいたのだ。
大量の蚊である。
急にどこから湧いてきたのか
汗だくな肌を晒しながら、
山を降りる私に群がってきた。
更に、なんと日が暮れてきた。
喉カラカラ
汗だくだく
蚊むらがる
日おちかけ
遭難者の方の写真が頭によぎる。
一刻も早く
下山しなくてはならなくなった。
この時の私は野生の猿か、
はたまた天狗かのような
人間離れしたスピードで
下山していただろう。
下るというより、
走り飛び降りながらの下山だった。
麓にたどり着いた頃にはまだ、
ほんのりと夕日の光が残っていた。
た、助かった。
み、み水。。。
麓近くのカフェに入った。
実は登る前に、
看板をみてこのカフェの
食べたいアイスを
下山後の楽しみに
チェックしていたのだった。
水を頂いてから、お目当ての
アイスを頂こうとすると
「たった今、売り切れたんですよ。」
え?そんな事ある?
親切なおじさんの「山を舐めるな」の
忠告を無視した報いなのか。
広くはない店内だったので、
最後に注文されたお客さんが
気まずそうにこちらを見ていて
目が合う。
とても親切な方で
「よろしければ、ひと口、
口つけていないところ
食べますか?」
と言って、分けてくださった。
しかも
店主さんが
「申し訳ないし
代わりに、新作があるので
食べてみませんか?」
と新作のスイーツを何個か
一口サイズで無料提供して下さった。
神様のいるカフェ。
優しさの集まるカフェ。
1人で出かけると
こういった出会いがある。
お一人様も悪くないよなと
思う。
でも、これだけは言いたい。
山を登る時は
1人でも何人でも
山を舐めたらいけない。
番外編にお付き合いいただきありがとうございました。
次回のお話は本編に戻ります。
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