ワンルームマンション投資の真実:節税と資産形成の虚実
前回、ワンルームマンション投資という商品について紹介した。節税と将来の資産形成につながるというが、本当なのだろうか。今回はその続きだ。
さて、まずは節税からだが、私はこのロジックは何度聞いても理解できない。サラリーマンとして支払わなければならない税金は、基本的に所得税と住民税だ。個人として所得がある以上は、これらから逃れることはできない。ここに今、仮に別のビジネスを個人で営むことを考える。いわゆる副業というやつだ。ここで黒字が発生してしまうと、雑所得として課税対象になってしまう。一方でもし残念ながら赤字になってしまった場合は、サラリーマンとして支払った税金の一部が戻ってくる。これが「節税」といわれる所以だ(損益通算と呼ばれる)。
しかしよく考えてみれば分かるが、副業ビジネスで赤字が出ているということは、ほとんどの場合において貯金額自体も減っている、つまり手元から現金が失われている状態だ。そのような「可哀想な」状況だからこそ、本業の方のサラリーマンビジネスの税金を少しオマケしてあげよう、というロジックである。であるならば、そもそもはじめから副業などしなければよいのだ。そうすれば貯金残高が減ることもないし、その分をNISAなどで運用すればもっと儲かるかもしれない。
(なお細かい論点として減価償却が考えられるが、ワンルーム投資でそこまで考慮する必要はないのではという気がする。細かいキャッシュフローのシミュレーションは、いつか機会があったらやってみたいと思う)
そもそも副業というのは儲かると信じているからやるのであって、最初から赤字がでることが確定していることを副業にしようと考える人などいない。しかしこれが不動産投資になると、なぜか節税というキーワードに惑わされてしまうのである。実際、確定申告をすると税金が還付されて銀行口座にお金が振り込まれる(しかも初年度は諸経費が計上されて赤字額が多いため、還付金も大きくなるはずだ)ので、なにか得したような気分になるのであろう。
サラリーマンは節税など気にせず、しっかり勤労して気持ちよく国と地方自治体に納税すべきだ。
もう一つの方、つまり資産形成についてはどうだろうか。
35年のローンの支払いが終わると、その物件は晴れて「自分のもの」になる。ローン支払いもなくなり、家賃収入がそのまま懐に入る。つまりキャッシュフローが改善する。しかしそれは35年という年月をかけて元本を減らしたからであって、つまりはワンルームマンションという預金通帳に貯金したに過ぎない。実際は金利の支払い分だけ余計な支払いも発生している。いわば手数料を払って定期預金したようなものだ。しかもこれはワンルームの資産価値が35年前と変わらないこと、つまり35年後の物件価格が購入価格と変わらないことを前提としている。
ただし逆に考えれば、35年後の物件価格が購入価格を上回ることができれば大きく儲けることができることにもなる。この儲けをキャピタルゲインという。不動産投資の醍醐味は、売却時におけるキャピタルゲインだという人さえいる。
このように考えれば、ワンルームマンション投資をすべき唯一の理由は、キャピタルゲインが狙えるからだ、ということになる。しかしこれは本当だろうか?
買った時点で損が確定している
ふたたび滝島さんのYouTubeに戻ろう。滝島さんいわく、ワンルームマンションは買った時期によっては確かにキャピタルゲインが出ることもあったという。具体的にはリーマンショック以降、2010年代初頭の物件を持っている場合、含み益が出ることもあるという。不動産価格が上昇したからだ。
逆に2010年代後半にワンルームを買った場合、ほとんどの場合は含み損が出ている。例えば2,000万円で買った物件について、毎月赤字が出ておりどう考えても儲かりそうにもない。そういった人が滝島さんに物件売却の相談をするのだが、売値は1500万円程度にしかならない。一方でローンはほとんど減っていないため、物件を売った金で借金を返そうにも、まだ300-400万円足りない。そのため、自分の貯金から現金を補填しないと足を洗うことができない。物件を所有していても売却しても、結局手元の現金がどんどん減っていくのだ。
そもそもなぜこんなことになってしまうのか。答えは単純で、ワンルーム販売業者の販売価格が最初から相場より高いからだ。1500万円のものを2000万円で買ってしまったら、どうやっても儲けようがない。逆に業者は販売した時点で多額の利益を得ることができる。つまり、購入者が被った損がそのままワンルーム業者の利益となっている。
こうやって考えると、キャピタルゲインを得ることができたという物件についても本当に「正しく」儲かっているのか怪しい。購入価格は相場よりも割高であるのだから、基本的な収支構造は変わらない。それでも儲かったように見えているのは、たまたま不動産価格が上昇したからに過ぎない。買った時点で出た損を売却時に取り戻したということだ。であるならば、最初から適切な価格で物件を購入すればもっと儲かっていたことになる。
つまり、相場より割高なワンルームマンションは、購入した時点で損が確定している商品といえる。
(続く)