地下アイドルに”お馬さん”させられた話
①アイドル。
それは応援することを通じて自分もエールを貰える不思議な存在。
②お馬さん。
それは親が子供を背中に乗せ乗馬体験させる遊び。
今回は地下アイドルにお馬さんをさせられたという思い出話。
きっかけはチームしゃちほこ
僕が学生時代で一番力を入れていたのはアイドルの応援である。彼女ができたことをきっかけに急激に熱が冷めていったが、約2年間ほどは食費を削ってでもお金を捻出してライブに行っていた。
特にお気に入りのアイドルは「チームしゃちほこ」(今はTeam SHACHI)というアイドルで、ももクロの妹分としてデビューしたアイドルだった。今振り返ってみても異常な熱狂っぷりで、お正月にライブの為に鈍行列車で群馬に行ったり、部活をさぼって握手会に行ったりと非常にバイタリティ溢れる生活を送っていた。
その熱狂度は進むところまで進み、ゲリライベントがあれば大雪の中でも原付で現場に向かい、1つで十分なカレンダーを3個購入したりと周りからも少し心配されるほどでだった。
地下アイドルを進めてくるMさん
僕にはアイドルを通じて仲良くなったヲタクの知り合いが何人かいた。神奈川在住の動けるデブことDちゃん、プログラマーのKさん。アイドルだけが共通の話題だったので、お互いが普段何をしているかは不可侵の領域だった。自ら話す内容以外は基本的にはお互いのことを全く知らず本名や詳しい年齢も知らなかったので愛称で呼び合っていた。
でもお互いが同じアイドルを応援する者同士で、アイドルについて他愛もないことを話す関係はとても居心地がよく、また大学や部活、バイト以外のコミュニティがあるというのがその時の自分にとってはなぜかステータスのように思えた。Dちゃんは鳩に餌をやる仕事をしていると言っていたが、今考えると多分無職だったのではないかと思う。当時は内心馬鹿にしていたけど、今は僕が無職なのでDちゃんに合わせる顔がない。ごめんね。Dちゃん。
中でも印象深いヲタクの知り合いにMさんと言う方がいた。本当かどうかは知らないが俳優の卵らしかった。いつでも推しのカラーの服を纏っていたので遠くからでもその存在が良く分かる人でもあった。ある日MさんからTwitterで「地下アイドルのライブに来てみない?」との誘い。自分にはディープすぎかな?と避けていたが、興味はあったので良い機会だと思いライブに向かう事にした。
強烈なオタクたち!
初めて地下アイドルのライブに行った感想は「本当に地下でやるんだ!」と言う感想だった。会場が階段を下った地下にありドリンク代とチケット代を払うとそこには不思議な光景が広がっていた。寝ころびながらゲームをするヲタク、ダミ声を発しながらMixの練習をするヲタク、アイドルさながらの可愛い女ヲタク、まさしくヲタクのダイバーシティでZ戦士なみに濃い奴が集まりに集まっていた。
正直帰宅しようか迷ったがMさんの「慣れるから、大丈夫よ。」の一言でとりあえず残ることにした。果たしてこの場に慣れる人はいるのだろうか。
お馬さんとおまいつの言葉
地下アイドルの名前が全く思い出せないが、華奢な体でステージ所狭しとパワフルなパフォーマンスを行っていた。それを横目にヲタクを見ていると相変わらずゲームをするヲタク、おしゃべりをするヲタク、熱心にMixを打つヲタク、見守るヲタク、それぞれのスタイルがそこにはあった。後ほどMさんに聞くと「これが普通だ!」みたいなことを言っていたが、実際普通だったかは今もよく分からないし、というかこの場での普通とは何だ?
そのアイドルには鉄板曲があった。この曲になるとさすがに全てのヲタクがステージに集中し、みな必死にコールを繰り返していた。一方僕は初めての地下アイドルの現場に疲れてしまい、端の方でひっそりと座っていた。
しばらくするとアイドルは鉄板曲の大サビ前になると突然ステージを降りヲタクたちの中から誰かを探し始めた。現状を把握できていない僕にさらに混乱することが起きた。
アイドルが座っている僕の所に来てお馬さんをしろと言うのだ。全く訳が分からずMさんを見ると観客席の中央部にヲタクが作ったサークルを指差している。
それでも困惑して少し渋っているとおまいつ達が早くしろとのジェスチャー。そこで初めて状況を理解した。中央のサークルでアイドルが大サビを歌う時にお馬さんの体勢をしろという事なのだと。。。
嫌々ですがアイドルに引き連れられ、サークルの中に入りお馬さんの体勢をする。すると突然私の背中を痛みが走る。「痛っ。」アイドルが背中に乗ってきたのだ。しかも靴ありで。単なるアイドルとオタクのノリでお馬さんを大サビの間だけすれば事が済むと思っていたのだが、どうやら私の背中の上で大サビを歌うようであった。その時ある強面のおまいつが言ってきた一言が今でも印象的である。
「なんでこんなこと言われなあかんねん、、」と思いながらも、全てを把握した僕はただひたすらにお馬さんを継続し、背中の痛みに耐え続けた。
しかしヲタクの熱量がこの時最高潮を迎え、全員がアイドルめがけてケチャをしている姿はさながらバリ島のケチャにも負けない美しい光景だったと記憶している。
ライブ終了後にMさんから「グッジョブだったよ!」と言わた。何がグッジョブだったのかは分かっていないし、そこからMさんとは一度も会っていない。
自分が熱量を注いだ趣味って中々忘れられないものである。僕にとってはそれがアイドルの応援だった。
今考えると失ったお金や時間もたくさんあったが、その時はそれが全てと思っていたからあんまり後悔はない。むしろこうしてネタになっているので悪くない経験に入るのではないかと思う。思い返してみると今よりもずっと「その瞬間を生きる」ということにフォーカスしていたと感じるのである。