Sanrio Virtual FesでVOCALOIDと人間の可能性を見た話
みなさんはVRchatをご存知だろうか
仮想空間にアバターでログインし、多人数でコミニケーションやイベントを行うことができるソーシャルVR、つまり今話題のメタバースだ。
2020年に同時接続数が20000人を突破したことで注目を浴びている。
そんなVRchatでサンリオが突然フェスを開催するという告知がされた。
本当に突然だった。サンリオには詳しくなかったので、音楽フェスとか開催するんだぁ・・・・と驚いたが、さらに驚いたのはその出演者の中に私がよく聴くボカロPであるピノキオピーがいたからだ。しかしそれだけではなかった。
初音ミク+ピノキオピーとしての出演だった。最初は意味がわからなかったのだが、出演者コメントにこのようなことが書かれていた。
「VR空間での初音ミクとの共演は初なのでワクワクしています。よろしくお願いします!」
つまりVRchatという仮想空間を利用して初音ミクと共演するということだった。
これを知った時、私は本当にワクワクした。
ピノキオピーは初音ミクとデュエットのような形式でライブを行なっていた。しかしステージの上に初音ミクは居ない。それは仕方ないことだった。
VOCALOIDたちのライブであるマジカルミライなどでも、モニターに映した初音ミクたちが歌い踊るのであって、人間とVOCALOIDが肩を並べてライブを行うというのは、夢のまた夢だった。
私はいつもそんな景色を妄想で補っていたが、そんな妄想が仮想空間で現実になるというものだった。私はいってもたってもいられずチケットを購入しようとした。
しかしVRchat版のチケットは6800円。高かった。買えることは買えるのだが、学生の私からすると手が出しづらい。
VRchatが使える環境がない人向けに、ライブの映像を配信するSPWN版のチケットもあり、こちらは4500円と手が出しやすい値段だった。
しかし、初音ミクとピノキオピーが肩を並べる姿を、映像だけで済ませたくなかった。その空間で直接見たい気持ちが勝ち、私は6800円のチケットを購入した。
そして12月11日、Sanrio Virtual Fesが開幕した。
初音ミク+ピノキオピーの出演は21時20分、最後の出演だったためかなり時間があった。なので他の出演者を見て、このフェスがどのような感じなのか確かめることにした。
まずパソコン音楽クラブのライブを見ることにした。
パソコン音楽クラブは、現在二人組のDTMユニット。アニメ「ポケットモンスター」に作詞、作曲、編曲をした“ポケモンしりとり”がエンディングで使用され、2ndアルバムの“night flow”はCDショップ大賞に入賞している。
私はパソコン音楽クラブのライブは動画投稿サイトにて何度か見たことがあったので今回のライブも楽しみにしていた。
まず最初に思ったのはステージと演者のギャップが凄いなというところだった。
サンリオ主催のフェスということだけあってステージはとにかくファンシーだ。
サンリオの可愛いキャラクター達がライブを行うような場所でパソコン音楽クラブのリアルな人間二人がステージに立っているギャップはとても面白い。
そして仮想空間での演出は凄まじいものだった。
なんでもありだと言わんばかりに光が縦横無尽に飛び、虹色の花火が上がり、とにかくキラキラに包まれていた。
これは現実のライブやフェスでは難しい仮想空間ならではのものだった。
しかしどうしても気になることがあった。それはステージの距離である。
私が撮影した写真は拡大したものであり、実際はもっと離れていた。
比較としてB3にて行われたVtuber達のステージを見てほしい。
Vtuber達が出演するステージはかなり近く、360度のステージになっている。手を伸ばせば本当に届くのではないかと思ってしまう程の距離である。
仮想空間ならもっと近くで見てもいいじゃないかと思うかもしれない。しかしこれにはある事情があった。それは実写でのライブ出演にある。
上の写真を比べるとわかるかもしれないが、パソコン音楽クラブの二人はアバターではなく映像である。おそらく専用のスタジオで撮影しているものをリアルタイムで仮想空間のステージに映しているのだ。
なので横から見ると立体的に見える工夫はされているが、少し薄っぺらく見える。これは他のアーティストも同じで、実写での出演となるとこれが限界なのだろう。
しかしこのライブ形式で初音ミクとピノキオピーが肩を並べて歌えていると言えるのかと心配したのだがそれは杞憂だった。
https://twitter.com/SANRIO_Vfes/status/1466708795976003585
上のリハーサル映像を見てわかるように実は今回のライブのためにピノキオピーには実写のアバターが用意されていた。
サポートメンバーであるRKさん(DJ)とサガットさん(ドラム)は映像だが、アバターである初音ミクとピノキオピーが肩を並べて歌えていると言える。
そして21時20分、ライブが始まった。
「初めましての人は初めまして!ピノキオピーと!」
「初音ミクでございまーす」
この挨拶だけで少しウルっときてしまった。
初音ミクとピノキオピーが、VOCALOIDと人間が肩を並べてステージに立っている。今まで夢見てきた景色が仮想空間で実現したのだ。
そして今回のVOCALOIDと人間とのライブならではのよさも多くあった。
“内臓ありますか”という曲ではライブの時にはピノキオピーが「内臓あるっていう方ははいと言ってください!」と言うのだが、その時初音ミクが「はい!」と元気よく返事した時は、周りが少しざわついたのはこのライブならではだ。
“アルティメットセンパイ”では二人で一緒に踊り、“君が生きてなくてよかった”のサビで向かい合って歌っている姿は、まさに夢見た通りの景色だった。
「This is VOCALOID & HUMAN music」
これはピノキオピーのライブで定番になっている言葉だ。
普段のライブでは人間達だけが立っているステージでの言葉が今回のライブでより、この言葉に意味が含まれていたと思う。
もちろん全く問題がなかったと言えばそんなことはない。
ピノキオピーのアバターは人型のアバターに現実の姿を貼り合わせているものだ。そのせいですこし口が動く程度で、表情がない。目がずっと開いてる姿はかなり怖かった。
そしてモーションキャプチャーの問題なのか右手のマイクの位置がずっとズレていたのは少し気になった。
この仮想空間のライブは言ってしまえば現実世界のライブの代替案にすぎない。
確かにライブの様子を配信しているものよりかは、周りの客の姿は見えるし、反応もある程度わかる。仮想空間ならではの演出もよかった。しかしライブならではの熱を感じられると聞かれたらそこまでではない。
VRchatの性質上、声を出すのはボイスチャットになるので、常に周りの客の声が聞こえるわけではない。大声で楽しんだら近所迷惑や家族の目も気になってしまうかもしれない。私もこのライブで大声をだす楽しみ方はできていない。
しかしこの初音ミク+ピノキオピーのライブは仮想空間でしかできない良さがあった。
ピノキオピーが”HUMAN”のアルバムを発表した頃にインタビューでこんなことを言っていた。
「ボカロと人間が同じ目線で一緒に肩を組んで歌うみたいなイメージが理想的だなって思うんです。」
この言葉から分かる通りピノキオピーのスタイルはボカロと人間が共存して歌うというコンセプトだ。
このライブではそのスタイルをより表現することができたのではないかと思う。
私はこのライブにVOCALOIDと人間の新たなライブスタイルの可能性を感じた。
仮想空間だからこそできる光景。VOCALOIDと人間が肩を並べて歌い、踊り、表現し合っていた。現実世界にVOCALOIDを呼ぶのが難しいのならば、人間が仮想空間に向かえばいい。
VOCALOIDと人間が同じ目線で肩を組んで歌う姿はきっと遠くない。
写真提供
亜空間ゼウス様 https://twitter.com/HyperspaceZeus
NAT(ナット)様 https://twitter.com/nat0468