見出し画像

伊藤忠商事はホワイト企業か?人的資本データから分析

はじめに

本noteは、伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)の「ホワイト企業度」を評価することを目的に執筆しました。

読者としては、転職を検討している方や、人的資本データを重視する経営者や人事部門の方を想定し、それぞれにとって有益な情報提供を目指します。

伊藤忠商事は、1858年の創業以来、繊維、食料、機械、金属、エネルギー・化学品、住生活、情報・金融、第8カンパニーなど多岐にわたる事業を展開する総合商社です。

「三方よし」の企業理念のもと、国内外で事業を展開し、2024年3月期の連結純利益は8,018億円と、高い収益性を誇っています。

就活人気ランキングでも上位常連の一流企業ですが、有価証券報告書や企業が公開するESGデータなどを読み込むと、他の大企業とは違う意外な一面(弱み)も見えてきました。

それでは早速分析と評価をはじめましょう。

経営成績

財務状況

2024年3月期の連結売上高は14兆4,897億円、連結純利益は8,018億円と、高い収益性を維持しています。自己資本比率は37.5%と安定しており、財務基盤は強固です。

従業員一人当たり売上高

単体従業員数は4,098人ですので、従業員一人当たり売上高は約35億円と非常に高い水準です。これは、効率的なビジネスモデルを構築し、高付加価値を生み出していることを示唆しています。

「人に頼らない儲かる仕組み」を持っている企業はホワイト化しやすいです。商社は、近年、エネルギー事業などの上流の利権を獲得した、権利ビジネスの側面を強くしていますから、ホワイト化が進んでいます。

ワーク・ライフ・バランス

月平均残業時間

月平均残業時間は12.4時間と、厚生労働省が過労死ラインとする月80時間を大きく下回っています。ワークライフバランスの確保に配慮していると考えられます。

有給休暇取得率

64.7%と高い水準です。休暇を取得しやすい環境が整っていると考えられます。

育児休業取得率

女性は100%、男性は53%と、特に女性の取得率は非常に高い水準です。男性の育児休業取得日数は25日と増加傾向にあり、仕事と育児の両立支援に力を入れていることが伺えます。

人材育成

研修費用

人材育成投資額は22.7億円、一人当たり55.5万円と、人材育成に積極的に投資しています。社員の成長を支援する体制が整っていると考えられます。

「マーケットイン」の発想を重視した人材育成

変化の激しい現代社会において、顧客や市場のニーズを的確に捉え、「マーケットイン」の発想で新たな価値を創造できる人材育成こそが重要であるという考え方が根底にあります。

グローバル人材育成

入社8年目までの海外派遣比率87.3%という高い数字は、グローバルな視点と経験を重視していることを示しています。海外現地法人・事業会社への出向、海外研修、語学研修等を通じて、グローバルに活躍できる人材を育成しています。

多様な研修機会の提供

新入社員研修、階層別研修、専門スキル研修、語学研修といった階層別・職能別の研修に加え、事業管理研修、短期ビジネススクール派遣、海外短期語学派遣等の選抜型研修も実施しています。個々の能力やキャリアステージに合わせた研修機会を提供することで、多様な人材の育成を目指しています。

オンライン研修の充実

約13,000講座もの選択型オンライン研修プログラムを提供しており、場所や時間を問わず、社員一人ひとりが主体的に学ぶことを支援しています。DX、ファイナンス、マーケティング、語学など、幅広い分野の講座が用意されており、社員の多様な学習ニーズに対応しています。

伊藤忠朝活セミナー

早朝時間を活用したユニークな取り組みです。ビジネスの進化や健康をテーマとしたセミナーを定期的に開催し、社員の知見を広げ、活力増強を図っています。

キャリアカウンセリング

国家資格を有するキャリアコンサルタントが、キャリアに関する相談や将来設計の支援を行っています。守秘義務を徹底した環境で安心して相談できる場を提供することで、社員の主体的なキャリア形成を支援しています。

チャレンジキャリア制度・キャリアマーケット制度

社内公募制度を通じて、カンパニーや職種の垣根を越えた異動を可能にすることで、社員の「やりたい仕事に挑戦できる」機会を創出しています。キャリアマーケット制度では、匿名の情報開示によるスカウト機能も導入し、社員主体の適材適所の実現を目指しています。

バーチャルオフィス

組織横断的なプロジェクトに、本業以外の時間を活用して参加できる制度です。多様な部署の社員が協働することで、新たなアイデアやイノベーションの創出を促進すると同時に、参加者自身の成長やキャリア形成にも繋がるユニークな取り組みです。

若手総合職ローテーションガイドライン

若手社員の育成方針を明確化し、早期の段階から多様な経験を積ませることで、将来のキャリア形成を支援しています。「原則8年以内に海外派遣」という方針は、グローバル人材育成を重視する伊藤忠商事の姿勢を明確に示しています。

1on1面談

上司と部下が定期的に面談を行い、業務上の課題やキャリアに関する相談など、双方向のコミュニケーションを促進することで、部下の育成や成長を支援しています。

女性活躍推進

女性活躍推進委員会を設置し、女性役員比率の向上や女性社員のキャリア形成支援に取り組んでいます。育児休業取得率100%、女性の海外駐在員増加など、具体的な成果も出ています。

研修を通じた多様性理解の促進

Femtech、LGBTQ、介護等に関するワークショップを開催し、多様な属性の社員に対する理解を深めることで、インクルーシブな職場環境づくりを促進しています。

2024年度より新・人事制度を導入

2024年度から、成果主義を更に強化した人事制度を導入し、個人の頑張りに応じた報酬体系を構築しています。公正で透明性の高い評価を行うため、多面観察や評定者研修を実施し、評価者の能力向上に努めています。

人材育成については、かなり充実した印象を受けました。研修費用も1人55万円かけているということで成長したい人にとって、素晴らしい環境と言えるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョン

女性管理職比率

8.8%と低い水準であり、更なる改善が期待されます。女性活躍推進に関する具体的な取り組み内容や数値目標等を明らかにすることで、企業の姿勢を明確に示すことが重要です。

キャリア採用比率

キャリア採用比率は約15%(2023年度実績)と低い水準です。新卒採用が男性82名、女性53名、キャリア採用が男性19名、女性5名でした。中途採用者の活躍推進やキャリア採用数の拡大など、多様な人材の活用を促進する余地があると考えられます。

外国人従業員比率

外国人従業員比率に関する具体的なデータは開示されていませんでした。グローバル企業として、外国人雇用の現状や今後の計画等を開示することで、企業の多様性への取り組み姿勢を明確化することが重要です。

障害者雇用率

2.43%と法定雇用率を満たしています。法定雇用率遵守に加え、障害者雇用に関する具体的な取り組み内容や今後の目標等を明らかにすることで、企業としてインクルーシブな職場環境づくりに取り組んでいることを示すことが重要です。

労働安全衛生

労働災害発生件数

休業災害発生件数は3件(うち通勤災害3件)、死亡災害0件でありますが、「電車通勤中に階段で転んで骨にヒビが入った」も通勤災害です。

伊藤忠のような大企業なら労災で社員と揉めたらニュースにもなりますから、大きな事故はなかったと言って良いのではないでしょうか。

健康診断受診率

健康診断再検査受診率が100%と高いのは素晴らしいですね。

人事部門にいると分かるのですが、全員を受けさせるのは結構大変なんです。だらしない社員もいますから。

待遇面

平均年収

平均年収は1,754万円と、文句なし。総合商社の中でも高い水準です。

入社して、浪費せず、ちゃんと積立投資などもしたら、相当な資産が貯まるでしょう。

賃金格差

男女間賃金格差は58.5%でした。

この数字は、日系大企業だと低いことが多いです。その理由は、管理職比率の男女間格差によるものがほとんどです。40〜50代社員の女性が少ないんですね。

それは当時の「男が稼ぎ、女は家を守る」という社会通念の遺産であり、これを是正するのは時間がかかるんですが、日系大手企業はここの是正に必死です。

伊藤忠もここの是正は今後の課題ですが、株主の目がありますから、改善に向かうのではないでしょうか。

まとめ

伊藤忠商事は、財務基盤の安定性、ワーク・ライフ・バランス、人材育成への投資、労働安全衛生への配慮など、ホワイト企業としての魅力を多く備えています。

しかし、女性管理職比率の低さやキャリア採用比率の低さ、など人材の多様性において、まだ競合他社より後塵を拝している印象でした。

これは私の仮説ですが、伊藤忠は、岡藤会長の独裁体制が長く続いている企業であり、合議制よりも岡藤会長の経営方針や価値観が色濃く出る体制になっています。そんな中で、キャリア採用や女性活用については、少し遅れをとっているのかなと予測しています。

キャリア採用数の少なさから、そもそもの転職成功の難易度が高いこと、さらに入ったとしても、キャリア入社組のよそ者度が強いことから、転職を考えている人には、正直オススメできない企業かなと思います。

以上が伊藤忠商事のホワイト企業分析レポートでした。

参考になりましたら、スキ・コメント・フォローをお願いできると嬉しいです!

ここで宣伝です。このようなホワイト企業185社の平均収入・残業時間・有給取得率・女性管理職比率・有価証券報告書リンク・採用情報などをまとめたホワイト企業データベースを公開しました。

転職検討している方、HR担当者、人的資本経営に興味がある経営層の皆さまに有益なデータになっていますので、ぜひチェックして見ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?