富士通株式会社はホワイト企業か?人的資本データから分析
はじめに
この記事では、富士通株式会社(以下、富士通)を「ホワイト企業」として多角的に評価します。
その企業を賞賛すべき点・問題点があれば指摘し、転職検討者や人的資本データを重視する経営者・人事部門にとって有益な情報を提供することを目的とします。
富士通の企業概要やパーパス
富士通は、情報通信技術(ICT)分野における日本のリーディングカンパニーです。「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを掲げ、ICTを活用した社会課題の解決に取り組んでいます。(富士通コーポレートサイト)
「ホワイト企業」の定義は、厚生労働省の「ホワイト企業認定制度」の評価基準に加え、下記の7つの項目を満たす企業とします。
健全な経営と優れたビジネスモデル
ワーク・ライフ・バランス
人材育成
ダイバーシティ&インクルージョン
労働安全衛生
高い平均年収
透明性の高い人事評価制度
データ分析
経営成績
富士通の2023年度の連結業績は、売上高3兆7,560億円、親会社株主に帰属する当期純利益2,544億円と、過去最高益を達成しました。(富士通 統合レポート2024)
高い収益性と安定した財務基盤を示す指標として、自己資本比率は49.9%、ROEは15.2%、ROAは7.5%と良好な水準です。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
従業員一人当たり売上高は約2.7億円と、高い生産性も示しています。(算出根拠:売上高3兆7560億円 ÷ 従業員数123,527人)
これらのデータは、健全な経営と優れたビジネスモデルを有し、競争力の高い企業であることを示唆しています。
待遇面
富士通の2023年度の単体の平均年間給与は約965万円です。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
賞与や各種手当などを含んでおり、日本企業の平均と比較しても高い水準です。男女間の賃金格差については、男性労働者の賃金に対する女性労働者の賃金の割合が76.9%と、他の日本企業と比較して低い水準です。
しかし、富士通は同一労働の賃金に差はなく、ジョブ(職責)レベルごとの人数構成の差であると説明しており、女性の管理職比率の向上が課題であることが示唆されます。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
2023年度の全社員を対象とした賃金テーブル改定では、月例給与を平均10%、最大28%引き上げ、年収ベースでは平均7%、最大24%の引き上げを行いました。
また、高度専門人材認定制度を設け、事業戦略上優先度の高い領域で高い専門性を有する従業員にはインセンティブとして、報酬のアドオンを行っています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
人事評価制度については、2021年4月よりグローバルで統一された人事評価制度「Connect」を導入し、透明性と公平性を確保しています。短期的な目標達成だけでなく、中長期的な視点での行動や成長も評価対象としています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
また、上司と部下の間で月1回以上実施している1on1ミーティングは、コーチングとフィードバックの重要な機会となっており、社員の育成やエンゲージメント向上に役立っています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
ワーク・ライフ・バランス
富士通は、従業員のウェルビーイング実現のため、場所や時間にとらわれることなく、生産性高く、創造性を発揮できる働き方「Work Life Shift」を推進しています。「Smart Working(最適な働き方)」「Borderless Office(オフィスのあり方の見直し)」「Culture Change(企業文化の変革)」という3つの要素から構成され、従業員一人ひとりが働きがいを感じ、成長を実感できる、柔軟な働き方を支援しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
Smart Working: テレワーク勤務制度を基本とし、業務の内容や目的、ライフスタイルに応じて時間や場所をフレキシブルに活用できる勤務体系を整備しています。フレックスタイム制勤務制度や、始業・終業時刻を社員自身で設定できるスーパーフレックス制度を導入しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
Borderless Office: 固定的なオフィスに縛られることなく、自宅やシェアオフィス、サテライトオフィスなど、働く場所を自由に選択できる環境を整備しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
Culture Change: 従業員一人ひとりの自律性と信頼に基づいたピープルマネジメントで、チームとしての成果の最大化や生産性向上を実現しています。上司と部下の1on1ミーティングを推奨し、相互理解を深め、業務の進捗状況や課題を共有することで、生産性向上やキャリア形成を支援しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
具体的なデータとして、育児休職取得率は男性86.2%、女性85.1%と高い水準です。育児短時間勤務制度の利用者数は674名、介護休職利用者数は24名、介護短時間勤務制度は14名です。(富士通 統合レポート 2024) これらのデータは富士通が仕事と育児・介護の両立支援に積極的に取り組んでいることを示しています。
また、月間平均残業時間は27時間弱でした。SIerはブラックと言われていた時代はもう過去のもの。かなり働き方改革は進んでいる印象ですね。
人材育成
富士通は、社員の自律的な学びを支援するため、オンデマンド型の研修プラットフォーム「Udemy」などを活用しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)研修制度の内容は、DX人材育成、キャリアフレームワーク、スキル開発など多岐に渡り、社員一人ひとりの成長をサポートしています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
2023年度の従業員1人当たりの平均学習時間は37.4時間/年、平均教育費用は73,900円/年です。(富士通 統合レポート 2024) 研修費用は増加傾向にあり、人材育成に力を入れていることが伺えます。年齢別の内訳は、20代以下94.2時間、30代30.7時間、40代24.9時間、50代以上18.9時間となっており、若手社員の育成に特に注力していることが分かります。レベル別では、一般社員が39.8時間、管理職が26.7時間です。(富士通 統合レポート 2024)
また、富士通は、リスキリングにも注力しており、社員のキャリアチェンジやスキルアップを支援しています。業務に必要な資格取得を推奨しており、会社が費用負担や報奨金制度を設けるなど、社員のスキルアップを積極的に支援しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
多様性(ダイバーシティ)
富士通は、「Empowerment(エンパワーメント)」「Growth(成長)」「Impact(インパクト)」という3つを人事部門のグローバル戦略テーマとして掲げ、多様な人材が活躍できるインクルーシブな企業文化の醸成を目指しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
女性活躍推進については、女性管理職比率15.8%と低い水準ですが、2025年度には20%、2030年度には30%に引き上げるという目標を掲げ、様々な取り組みを推進しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
キャリア採用比率は51%と比較的高く、中途採用を積極的に活用することで、多様な人材の獲得を促進しています。外国人従業員比率は約30%であり、グローバルな事業展開を反映した多様な人材が活躍しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
障害者雇用率は2.35%です。(富士通 統合レポート 2024) 法定雇用率は2.7%であるため、法定雇用率達成に向けて更なる取り組みが必要です。
労働安全衛生
富士通は、従業員の安全と健康を最優先に考え、「心と体の健康と安全を守る」ことを最優先事項として位置付けています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)心身の健康を維持・増進するための様々な取り組みを実施しており、健康経営の推進や、メンタルヘルスケアにも注力しています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
労働災害発生件数に関するデータは非開示でした。健康診断受診率は100%であり、全社員が健康診断を受診しています。(富士通コーポレートサイト)また、定期的にストレスチェックを実施することで、従業員のメンタルヘルス不調の未然防止、早期発見に努めています。(富士通 有価証券報告書 2023年3月期)
まとめ
富士通は、財務基盤が非常に安定しており、平均年収も高い水準です。また、「Work Life Shift」を推進するなど、従業員のワーク・ライフ・バランスやウェルビーイングを重視した企業文化を醸成しようと取り組んでいる点は高く評価できます。人材育成についても積極的に投資しており、多様な研修制度やリスキリング支援制度が用意されている点は魅力的です。
一方で、女性管理職比率や障害者雇用率の低さ、平均労働時間や有給休暇取得率などのデータの非開示は課題です。また、一部口コミサイトでは長時間労働を指摘する声もあるため、実態把握と改善が必要です。
総合的に見ると、富士通はホワイト企業としての側面を多く持っていますが、更なる改善の余地もある企業と言えるでしょう。
特に、ワーク・ライフ・バランスの更なる充実や情報開示の拡充は、企業としての透明性を高め、優秀な人材の獲得にも繋がるため、重要な課題です。富士通の今後の継続的な取り組みに期待が高まります。
富士通株式会社のホワイト企業分析は以上になります。参考になりましたら、スキ・コメント・フォローをお願いします!
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