バナナワニ園のレッサーパンダ
昔はさ、レッサーパンダがパンダで、白黒パンダはあくまでジャイアントパンダだったんだよ。それが今ではジャイアントパンダがパンダで、パンダは小さいという意味のレッサーを頭につけられ、レッサーパンダになった。
私はどっちのパンダだろうな。いや、パンダだなんて贅沢か。
東京にきた私は、主演にも助演にもなれず、動物園の隅に生える木にすら遠く及ばなかったんだよな。バナナワニ園の在り処さえまだ分からないや。
消えたい。いなくなりたい。そんなことを考える卑怯な自分が一番嫌いだ。どうせ死ぬ勇気なんてないくせに。居心地の悪いこの場から今だけ逃げたいだけなんだ。分かってる。だから死にたいなんて思わない。でも今は消えたい。居心地が悪いんだよ。何もしたくないし何もできない。
きっと、何でもかんでも他人と繋がりすぎた。SNSは最たる例だ。居場所を作りすぎた。好きな人を増やしすぎた。認めてほしい対象を増やしすぎた。好きに囲まれるのが幸せだと思っていたけれど、それは同時に自分の首を絞めていたんだなということに、息苦しくなってからやっと気付いた。好きな相手が振り向いてくれないことの辛さなんて小学生でも知っているのにな。
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全く関係ないが、東京に来てから誕生日を2回迎えた。どちらも平日だったのが独り身としては救いだった。
1回目の誕生日は、仕事で疲れが限界だったので休暇をもらって病院に行った。いつも通りの低血圧だったと思う。翌日は元気に働いた。
2回目の誕生日は、終電ギリギリまで働いた。弊社は残業管理がかなり徹底されているのでこういうことはあまりない。東京で初めてフロアで最後に退社した記念すべき日にもなった。ただ、こともあろうに誕生日は木曜日だったので、翌日もちゃんと出勤をして死に物狂いで働いた。多分。
そんな日々が、続くと思っていたんだよな。
今思えば到底無理な話なのにな。
当たり前のように体調不良は増えていった。定時出社が困難な日も少なくなくなった。所属部署(というか直属の上司や同僚)が遅出や午前休に寛容だったのはおそらく奇跡だった。当日の休暇取得を夕方になってやっと連絡した日もざらにあった。目を覚ませたのが夕方だったんだもの。
休暇の翌営業日に出社すると未読メールが200~300通たまっていて、前営業日にあった重要事項の把握と自分が対応すべき案件の仕分けで午前中が潰れた。平行して電話応対もあるので仕方ないといえば仕方ない。そんなあほみたいに大量なメールの中にも、他部署からの私あて対応依頼メールの最後に「無理しないでね」の一言が添えられていることが少なくなかった。「東京の人は冷たい」だなんて馬鹿みたいな都市伝説だなと本気で思った。
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弊社は、社内試験を受ける際に提出する履歴書に「健康状態」の欄がある。他社がどうかは知らないが、これは確かに重要な事項だし、必要な欄だ。でもね、合格したいなら「健康」としか答えられないんだよな、これが。
私は上京する前に、地元でも一度社内試験を受けて合格している。その時は「健康状態」の欄を「少し良くない」とかそんな、真ん中の回答で提出していた。無知だったし、素直だった。実際に、当時は仕事のストレスで何を食べても食後は腹痛に襲われていたし、牛肉の脂は匂いだけで具合が悪くなっていた。ステーキはフィレなら食べられた。贅沢な話だ。
社内試験には面接があり、面接時にこの「健康状態」については当然のように突っ込まれた。あ、ダメなんだなと気付いたので、細身で体力に自信がない程度だとやんわり笑顔で誤魔化した。その後、面接の流れで「将来的には東京本社を目指している」と伝えると、「その時には必ず『健康』で提出するように」との有難い助言をいただいた。そりゃそうだなとは思った。
そりゃそうなんだよ。健康な人の方が合格する。でもそれが自己申告なら、合格したい人は「私は健康です」と言うしかない。とんだ茶番だ。
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健康ってなんなんだろうな。パンダは笹だけを食べていて、それで本当に健康に生活できているんだろうか。ペットとして買われている犬猫だって、普段は毎日同じペットフードを与えられて生きているんでしょう?
こんなにも毎日食事に気をつかって生きているのは人間だけなんじゃないだろうか。雑食なんだからさ、もっと効率の良い生き方があるんじゃないのかな。マンモスのお肉は栄養満点の完全食だったのかな。完全食と言えば餃子が食べたいな。王将の餃子、美味しいよね。外食がしたいな。適当に友達とさ。そんなことも出来ないで何が「健康」だよな。お酒だって適度に飲みたいよ。そんな夜があったって良いじゃんね。いや、今の私はだめなんだけどさ。まぁ、今日はそんな夜だったよ。
おやすみ。