①映画史に残る謎「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」
1980年代の終わりから90年代のはじめ、私は10代になったばかりで多感な時代、レンタルビデオ店が全盛期でした。そこへ足を踏み入れれば外国映画に映る未知の世界がありました。スピルバーグによる数々の冒険映画、ジャッキー・チェンの香港アクション、マイケル・ジャクソンのミュージックビデオ、80年代アメリカンホラーも全盛期でした。さらに、奥には18歳以上入場禁止のコーナーもあって、想像力を逞しくしました。
前置きが長くなりましたが、そんな中学2年生のころでした、私はレンタルビデオの片隅で見つけたのです。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」と書かれた2本組の弁当箱のようなパッケージを。
「え?ワンスアポン?なに?」
早口言葉のような英語、そしてなんとなく「ゴッドファーザー」を思わせるギャングたちの写真。中には、当時出演作にはずれなしの名優デニーロ。さらに、2本組の巨大なビデオパッケージだったような気がします。上映時間4時間弱。これは、壮大な叙事詩が期待できるはず・・・と14歳の私は胸を高鳴らせ早速速レンタルすることにしました。
ところが、見終わってもさっぱりわからない・・・。確かにアクションもロマンスも、サスペンスもドラマも全部入っています、映像詩のようにあえてノープロットなわけでもない。何かを伝えようとしているが、わからない。そんなざらつきのある読後感でした。
あらすじをおさらいしましょう。
「ニューヨークのユダヤ系ギャングたちの栄光と破滅を、少年期、青年期、老年期の3つの時代を行き来しながら描いた傑作ドラマ。1920年代初頭のニューヨーク。ユダヤ系移民の少年ヌードルスは同年代のマックスと出会い、深い友情で結ばれていく。彼らは仲間たちと共に禁酒法を利用して荒稼ぎするようになるが、ヌードルスは殺人を犯し刑務所へ送られてしまう。1931年、出所したヌードルスはマックスらと再会し、裏社会に舞い戻るが……。」(引用:映画.com ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を御覧になって困惑され、このページを訪れた方もいると思います。中2の私も、あなたに握手したいくらい同じ気持ちでした。
実は、この映画、まさにこのわかりにくさが元で後に「映画史に残る傑作」とも称されると同時に、編集時に揉めに揉め、アメリカでは監督セルジオ・レオーネの意図しない編集を施され、興行的・批評的に大失敗してしまうという運命をたどります。そのため、私が調べただけでも、構想段階・未公開のものを含めて様々な上映時間のバージョンがあります。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のバージョン
① 6時間版。未公開。当初の構想? 第1編段階?レオーネが撮影した素材は10時間近く。
3時間x前後編で上映しようと考えたが、却下されたそう。
② 4時間29分版。未公開。6時間版をあきらめて編集したバージョン。これも配給会社に短くするよう命じられる。(2012年のレストア版と同じ?)
③ 2時間19分版(アメリカ版)は同年アメリカ公開にあわせてプロデューサーが再編集。時系列に並べなおしたもので、興行・批評的にも失敗。
④ 3時間49分版(ヨーロッパ版)で1984年のカンヌ映画祭で絶賛。ヨーロッパでは公開。
⑤ 3時間25分版(劇場版) ヨーロッパや日本ではこれが公開された?
⑥ 4時間11分版「エクステンデッド・ディレクターズカット」。2014年未公開シーンを挿入してリマスター。
現在は、④や⑤はいろんなメディアで見られるものです。
そんないわくつきの映画である「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」と出会ってから30余年。私は折に触れては見直して、その意味を考えてきました。でも簡単にわからないから、ずっと惹かれてきたんです。
今年2024年は、なんと公開40年という節目の年。そこで、②、③、④の編集バージョンや、ネットで見つけた350ページを超える撮影台本も読み、さらに各シーンを書き起こしてみました。
そうすることで作品の構造を明らかにし、さらに削除シーンや台本の記述からテーマの解明に挑んでみました。
しかし、私はたまに映画みるくらいの素人です。映画評論家でも研究者でもありません。もちろん、間違っているところもあるかと思いますし、もっと詳しい方がたくさんいると思います。あくまでもわたしの解釈です。そして、映画の見方など正解などないと思っていますし、それぞれの解釈があってよいと思っています。
さあ、それでは、我流になりますが、20世紀を代表する叙事詩について妄想にお付き合いください!
これから先はネタバレです!