情報量を考えながら絵を描く
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絵の情報=それが何の絵なのか理解するためのヒント
情報量をコントロールすると「意図が伝わる」「見やすい」絵になる + 作業時間が短縮できる
ヒントにも種類がある「立体のヒント」「光源のヒント」「前後関係のヒント」「質感のヒント」
自分なりのヒントの出し方はデッサン・クロッキーで体得し、他人のヒントの出し方は模写で学ぶ
「絵の情報」とは?
絵を描いていく中で「情報量が多すぎる」「この絵は情報量がコントロールされていて絵が見やすい」という言葉を聞いたことがないでしょうか。この「情報量」とはいったいなんでしょうか?
僕は、絵の情報とは「それが何の絵なのか理解するためのヒント・手がかり」という風に置き換えて考えています。
「絵のヒント」を体感する実験
突然ですが下の絵は何に見えるでしょうか?
これだけだと「六角形かな?」くらいしかわかりません。
ここで、線を加筆してみます。
ここで以下の候補が出たのではないでしょうか?
1. 立方体かもしれない
2.平面の記号かもしれない(地図記号的な)
おそらく1と考える方が多いと思いますが、ただ線を3本加えただけで「立体の絵」「平面の絵」と可能性が増えました。不思議です。
さらに手を加えます。
こうすると「立体の絵」説が濃厚になってきたのではないでしょうか。作業としては濃さの異なる灰色で塗りつぶしをしただけです。
さらに加筆します。線と塗りつぶしを増やしました。
こうなるともう「奥から光が当たっている立方体の絵だ」と思わない方が難しくなってきます。見る人が日常経験で「光の当たらないところは影ができて暗くなる」ことを知っている前提であれば、です。
ここで、最初に述べた絵の情報 =「それが何の絵なのか理解するためのヒント・手がかり」ということの意味が理解いただけたのではないでしょうか。上の実験で言えば、「立方体」だとわかるためのヒントは
立方体の形がわかる最低要素:立方体の輪郭線(Fig.1, 2)
光源がある(影ができる):濃さの異なる灰色の塗りつぶし、密度の異なるタッチ(Fig.3,4)
ということができると思います。加筆することで「そこに描かれている絵が立方体である」疑いがより強まるわけです。
情報量の「多い少ない」とは
では「情報量の多い少ない」とは何なのでしょうか?
下は立方体の輪郭線(Fig.1,2)に対し、段階的に描き込みを増やしていった場合です。
一番下は立方体には見えますが、デザインや記号寄りなシンプルな絵柄です。比べて一番上はかなり写実的(リアル寄り)な立方体になっています。真ん中は立方体であること(一番下)に加えて陰影の要素があり、リアルタッチに近くなっていますが、記号的な要素も残っていて漫画っぽい絵になっています。
こんなふうに、描き込みによって絵に情報が与えられ、「ああ、これはこういう絵なんだな」と見ている側に理解させるヒントが増えてきます。このヒントの量が「情報量」と言えるのではないでしょうか。
情報量のコントロールがなぜ大事か
絵を描いていると「この絵はどこまで描き込んだらいいんだ」と思う瞬間がないでしょうか。
もちろん絵自体に正解不正解はないと思いますが、「どんな絵を描きたいか」「ここで何を伝えるべきか」という基準に照らすと情報量のバランスの正解は見えてきます。
例えばFig.5の一番上では立方体を「セメント」「木」という質感を表したくて2個描いています。それぞれ「ざらざら感のあるノイズトーン・稜線の質感」「木目」という描き込みで描き分けています。もし背景を描いているとして「セメントでできた現代の建物を描きたい、世界観を説明したい」という希望があれば、セメントの質感をヒントとして絵に込めなければ理解してもらえませんよね。
そうではなく「四角い建物だとわかればいい、質感は今重要じゃない」のであればFig.5真ん中の情報量でも十分かもしれません。描き込みすぎると画面が乱雑になり、キャラよりも背景に目が行ってしまう恐れもあります。たくさん描き込んだのに「なんかゴチャゴチャしてるな」という無念な結果になってしまいます。
情報量をコントロールすることは「この絵のどの要素が大事なのか」を的確に伝えることにつながます。それはもっと言えば「絵の見やすさ、漫画の読みやすさ」に関わってきます。さらに情報量を考えると描き込みの必要/不必要のバランスが見えてくるため、作業時間短縮にもつながるとも言えます。
「ヒント」にもいろいろ
「絵のヒント=情報」にもさまざまな種類があります。大事そうなヒントを挙げてみました。
どんなヒントを出すかはその時その時で変わってきます。立体をわからせる時は立体に沿った線や影を入れることを、質感を分からせる時は質感の表現を重視します。
「どんなヒントを出せばそれっぽく見えるか」はデッサン・クロッキー・模写などで体得していくのが一番だと思います。個人的にはデッサンで光源と質感のヒントを、クロッキーで立体と前後関係のヒントを掴むことができると考えています。この「ヒント」の出し方・引き出しで作家性(個性)が出るということもでき、「他人がどんなヒントの出し方をするか」は模写によって盗むことができると考えています。
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