オーロラからの贈り物
列車音に混じる聞き馴染みのない言葉。
彼らはアルファベットに加え、
「Å」「Ä」「Ö」を含む29文字に発音を与えて
意思疎通をしている。
スウェーデン最北、Abiskoからの帰り道。
僕は結局オーロラを目にすることはなかった。
どうやら地球はまだ僕に楽しみを
とっておいてくれるらしい。
僕はまだ彼のことをよく知らない。
時に大らかな空と海が僕たちを包み込み、
時に険しい大地が僕たちを律してくれる。
彼は本当に丸いのか。
色は緑青いのか、茶色いのか。
僕は彼に少しでも近づきたくて
旅をするのかもしれない。
気づけばほとんどが列車移動で
この国のことを全く知らない。
この小さな旅に僕は地図帳を携えた。
Google Mapで見るスウェーデンはかなり大きい。
だが実際、面積が正しく全体として歪みが小さい
ランベルト正積方位図法で描かれた地図を見ると
日本とさして変わらないことに気づく。
ノルウェーとの境目に
スカンディナヴィア山脈が広がる。
そこから水脈がいくつも流れ
半島を潤しているのが見てとれる。
国のエネルギー資源の割合を見ると
日本は火力発電が7割を占めるのに対し
この国は水力だけで4割を占める。
地図帳はこんなことまで教えてくれるから良い。
ネットで調べればすぐに情報が手に入る現代。
それに踊らされて実は間違っていることも多い。
特にSNSでは皆、図らずも自分を
よく見せようと大袈裟に描写する。
じゃあ本はどうか。
参考文献を調べ、情報を正しく精査し
語弊のないようにしたうえで1冊にする。
それだけ大人が時間と労力をかけて
作った結晶なのだと思う。
僕がシルクロードを歩き通してみたいと
思ったのも、ある一冊の本からだった。
もっといえば、自分の目で見て
体験することにこそ最も信憑性がある。
僕の場合、自分の足で日本や
イングランドを横断した。
歩くという時間をかけるやり方で
その土地の風土や文化、人を知る。
大陸の幅を知る。
インスタや観光ブックには
載っていないであろう事実。
そこで気づかされることは多い。
地図帳の面積が少し歪んで違って見えるように
実際はもっと近くに感じたり、密度濃く感じたり。
歩き旅は、今までになかった自分の物差しを
深めていく1つの方法なんだと思う。
オーロラを見ることは叶わなかったが
この時間が僕にまた、旅に出たいという
欲を掻き立ててくれた。
ロンドンへ帰ろう。