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旅仲間の教え

(前回に続き、僕が旅に出る理由について)

僕が思い描く旅の絵図。
そのきっかけをくれた友人がふたりいる。
あえて本名は明かさないが、彼らについて
話さずには先に進めない。

〜〜〜

ひとりは、僕より歳が4つほど上の旅人M。

彼は旅人界でもカリスマと言っていいほど
数々の経歴を持つ。

自転車日本一周
オーストラリアワーホリ
世界一周
アメリカ三大ロングトレイル踏破

僕は彼をSNSで知ったことがきっかけで
歩き旅や自転車旅に目覚めた。

M氏に会うまでは、憧れるあまり自分も
日本列島を縦断してやろうと考えていた。
彼は自転車で周った、なら僕は徒歩だ。

その時の自分は、何か誇れるものが
欲しかったに違いない。
精神的な理由で好きだった建築設計の
仕事を辞め、無職。
生きる目的や他人からの承認欲求に飢えていた。

M氏は大阪でバーを営みながら
毎年、どこかしら旅をしている。
僕は自転車で東京から大阪まで会いに行った。
少しでも同じ目線で話せたらと思い、
チャリンコでだ。

いざ直面すると、彼はなんてことはない
気前の良い関西のお兄ちゃん。
どこか話しやすく、全くのおごりがない。
かといって、僕が自転車で来たことに
なんら驚きもしない。ただ、よく来たねと。

話をしていて、ふとこんな質問を投げかけた。

「次に僕は日本を旅すべきでしょうか?
それとも海外に出るべき?」

M氏は選択に迷ったときコインを投げると言う。
投げてやろうか?と言われ、
僕はすぐさま彼の手を遮った。

もう既に答えは出ていた。

〜〜〜

ふたりめは、大学生のY。

彼との出会いは僕が日本海→太平洋を
徒歩で横断したとき。
その初日の剱岳山頂で出会った。

Y氏の方から話しかけられ、話を聞くと
僕とは逆の太平洋から歩いてきたらしい。
旅の始まりに、まもなく旅を終えんと
する人物に出くわした。
似たようなことをするやつがいるもんだと
地元も近かったこともあり、その場で意気投合。
およそ10齢差を感じさせない
どこか不思議な気持ちにさせる青年。

彼も若いながらなかなかの経験の持ち主。

学業の傍ら、某有名アウトドアメーカーの
スタッフをしている。
高校時代は山岳部。
暇を見つけては、西表島に行ったり
アフリカやインドに行ったり。
見ていて、自分の学生生活を
一からやり直したくなるほどだ。笑

僕にとってY氏は、気軽に相談できる
山旅の師匠である。
何かと旅のルートや道具の良悪しなど話す仲だ。
(いまや僕のギアの殆どは彼譲りの物ばかり)

〜〜〜

さぁ、だいぶ前置きが長くなったが
僕とこの2人には共通点が一つある。

それは

2022年夏、同じ時期に
太平洋〜日本海を横断していたこと。

おこがましいが、僕はこれに
何かしらのシンパシーを感じていた。

と同時に、妬んでもいた。

僕のルートは、いわゆるTJARという
日本アルプスを繋いで縦断するトレイルレース
そのコースを調べ、線を引いたに過ぎない。

彼らは、もっと自由に
行きたいところを繋いで
アルプスや富士山、八ヶ岳と
より豊かな軌跡を描いていた。

僕もいつか、そんな歩き旅が
そしてそれが海外で
国境を跨いでできたらと、ずっと考えていた。
そうして今日の旅の構想に至る。

さて、そんな彼らはいま、何の因果か
お互い独りでアイスランドを歩いている。

そして僕もまた、旅の準備のため
イギリスへ出稼ぎに来ている。

図らずも3人とも欧州に揃った。

何はともあれ、
僕の地図もようやく動き出すときが来ている。

プロローグ 完

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