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短期思考から脱却するためのロードマップの策定フレームワーク。
こんにちは、にしむらじゅんです。
STORES株式会社でデータ領域のマネージャーを務めています。
普段は様々な部署と連携しながら、データを活用した施策の立案や実行を行っていますが、その中で痛感しているのが「長期的なゴールと、そこへ至るための具体的アクションをつなぐロードマップの重要性」です。
しかし実際には、「どのタイミングで、どんな施策を進めるべきか」を整理しきれず、日々の業務や短期タスクに流されてしまうケースも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、私自身の経験も踏まえながら、ロードマップ作成のステップや活用ポイントを整理してみました。短期的なタスク管理だけでなく、中長期的な方向性を共有し、チーム全体を同じ目標に向かわせるためのヒントとして活用いただければ幸いです。
なぜロードマップが重要なのか
前述しましたが、多くの組織・事業・プロダクトが直面する共通の課題の1つは、「どのタイミングで、どの施策を打つべきか」を明確にできず、日々のオペレーションに流されてしまうことです。日常業務や短期的なタスクに忙殺されると、長期目線の戦略が薄れ、結果として目指していたはずのゴールに近づけなくなることも少なくありません。
特に、データを扱う横断組織では、開発・営業・カスタマーサクセス・マーケティングなど、様々なステークホルダーからの要求が飛び交います。このような状況でこそ、組織として「中長期的な道筋」を明確に示し、常に全員が同じ方向を向けるようなロードマップが求められます。
本記事では、ロードマップ策定のステップと、それを有効活用するためのポイントをご紹介します。
※ 今回はあくまでも初期の仮説を作るためのフレームワークとして紹介します。
※ ロードマップを作ることが最終アウトプットではなく、アクションプラン + プライオリティを出すための手段であることも理解しておく必要があります。
ロードマップ策定の5ステップ
ここで紹介するステップは、業種業態を問わず応用可能な形で書いています。プロダクト開発、新規事業立ち上げ、組織改善、あるいはデータを軸にした横断組織の強化など、さまざまなシーンで使える汎用的なフレームワークです。
ステップ1:ターゲットとなる時期の状況を前提として設定する
まずは「将来のある特定時期」を想定します。今回は、2027年末をターゲットとしましょう。この時点で、組織はどのような状態になっているべきでしょうか。事業はどれほど成長し、プロダクトはどれぐらい市場に浸透し、さらに市場環境はどのように変化しているかを明確化します。
具体例(架空の例です):
組織面:社員数が現在500名から1,000名程度に増加し、専門性やスキルセットの異なる複数のチームが並行で新機能開発や顧客対応を行う。
事業面:売上は現状比2倍に拡大、新規顧客セグメントが3つに増え、地方展開・海外進出も進行中。顧客ニーズはより高度なカスタマイズ性やリアルタイム性を求め、市況は競合他社の参入が活発化。
プロダクト面:基本機能中心から、2027年末にはサブスクリプションモデルの課金体系や高度なデータ分析機能、AIによるレコメンデーションなどが定着。ユーザーは高品質なUXを当たり前とする市況環境へシフト。
市場・環境面:業界標準規格や法規制が進化し、データプライバシーやコンプライアンス要件は一層厳しくなる。技術的にはクラウドネイティブやAI/ML基盤が当たり前となり、データドリブン経営が市場の常識に。
こうした「2027年末の理想状態」を最初に固めることで、そこに至るために必要な課題やアクションを抽出しやすくなります。
※ 最終アウトプットの確度を上げるために、社内リソースに応じてこの時点の市場調査などに時間とお金をかけることが重要です。
ステップ2:ターゲット時期の前提に対し、起こり得る課題を洗い出す
設定した前提を実現するために、現在から見てどんな「壁」が想定されるでしょうか。これにはステークホルダーへのヒアリングやワークショップ、ブレインストーミングを活用します。
具体例(架空の例です):
組織拡大の課題:1,000名体制を支える採用とオンボーディングプロセス、教育・評価制度の整備が必要。
事業拡張の課題:従来のマーケ手法や販売チャネルでは新顧客セグメントや新市場への対応が困難。
プロダクト強化の課題:新機能群の安定稼働や、高度なUXを提供するための技術アーキテクチャが未整備。
市場変化への適応:競合製品との差別化、法規制対応、顧客ニーズの高速変化に追随するためのデータ分析力・意思決定スピード不足。
ステップ3:課題に対する解決方法を設定する
洗い出した課題に対して、完璧ではなくてもよいので、どのような方向性で解決していくかの仮説を立てます。
具体例(架空の例です):
採用・教育強化 → 採用ブランディング戦略の刷新、社内リファラル制度の強化、人事評価システムの改善
マーケティング手法拡張 → 新たなSNSやインフルエンサー活用、国際的なPR会社との提携、地方特化イベントの定期開催
技術的強化(UX・新機能群) → ユーザーヒアリングの定期化、A/Bテストインフラ整備、デザインガイドラインとコンポーネントライブラリの標準化
市場変化への対応 → データ分析基盤の内製化・高度化、顧客要望反映サイクルの迅速化、法規制対応ガイドラインの策定
ステップ4:課題-解決策を半年単位、またはQ単位で時系列に並べる
課題と解決策のセットを、2027年末までの期間を区切り(例えば2025年上期、2025年下期、2026年上期…といった形)でプロットします。半年~四半期といった区切りで、「いつ・何を」実行するかを整理します。
ポイント:
スプレッドシートなどで「期間(年/期)」を軸に、課題・施策を対応付け
視覚化により、全員が「この期間には何をやるのか」をひと目で把握可能にする(アクセスも容易にする)
ステップ5:ロードマップをもとに関係者と議論する
できあがったロードマップは、あくまでも関係者との議論のたたき台です。経営層、事業開発、開発チーム、マーケ、営業、人事など、幅広いステークホルダーからフィードバックを受け、必要に応じて修正・調整を行います。市場動向や新たな知見が得られれば、ロードマップもアップデートしていく柔軟性が求められます。
テーマを設けてわかりやすく伝える(ちょっとしたコツ)
ロードマップがまとまったら、各期ごとに「テーマ」を設定しましょう。個々の課題や施策名を並べるより、「この期は基盤整備の時期」「この期は海外進出準備の強化期」など、一言で方向性を示すテーマを設定すると、社内外への説明がはるかに容易になります。
テーマ例(2025年上期の中間目標として)
テーマ:プロダクト・事業のPDCAを回すための基礎作り
なぜこの時期にやるのか(背景):
2025年末には新規顧客セグメントが拡大し、プロダクトも多機能化すると見込まれます。そのため、2025年上期の段階でデータ分析環境を整備し、ユーザーフィードバックループやチーム間コミュニケーションフローを標準化しておくことで、その後の施策サイクルを高速かつ効果的に回せるようになります。
アクションプラン(ロードマップ簡略版):
データ分析基盤構築:ユーザー行動分析ツール、主要KPIダッシュボード整備
ユーザーフィードバックサイクル確立:定期的ヒアリングとフィードバックデータベース構築
チーム間プロセス標準化:情報連携プロセスの明文化、ドキュメントテンプレート共通化
このように「背景」「テーマ」「アクション」を明確にすることで、チーム全員が「なぜ、いまこの施策をやるのか」を理解しやすくなります。
実際の進め方イメージ
長期ロードマップ策定は、決して1人で抱え込む必要はありません。むしろ、上長や状況を深く理解している同僚と「壁打ち」をすることで、より精度と納得感の高いロードマップを導き出すことができます。以下の各ステップでは、定期的に関係者と対話しながら進めることをおすすめします。
現状把握:
まずは現行サービスや事業、組織の現状を数値(売上、顧客満足度、スタッフ数、データ分析能力など)や定性情報で整理します。
この段階で、上長や関係者に今抱えている課題や観測している問題点を共有しましょう。彼らが持つ知見や別視点の情報は、現状の精確な把握に大いに役立ちます。将来状況のピン留め:
2027年末の「ありたい姿」を明確にします。市場動向、技術トレンド、競合プレイヤーの動きなど、外部環境を踏まえたビジョンを描きましょう。
ビジョン検討時には、上長に確認し、経営戦略や中期計画との整合性を確認したり、同僚から「この技術トレンドは本当に自社にフィットするのか」などのフィードバックをもらうことで、現実味のある将来像を固めることができます。自部署の将来状態想定&不安洗い出し:
自チームが2027年末にどのような状態になりたいかを書き出し、その実現を阻む不安やリスク要因を洗い出します。
このフェーズでは、他部署との調整経験やナレッジを持つ同僚と話し合うと、想定しにくい課題や暗黙知を浮き彫りにしやすくなります。多面的な視点を取り入れることで、後々の見落としや手戻りを減らせます。課題設定:
将来像を達成するために必要な課題を特定します。「採用拡大」「市場拡張」「UX改善」「法対応強化」「データ分析強化」など、リストアップされた課題を整理しましょう。
この際、上長や関係部署のリーダーからの意見は重要です。彼らは組織全体の戦略やリソース配分、優先度などの視点を持っています。壁打ちを通して、各課題の妥当性や優先順位付けをより適切なものへと仕上げていきましょう。アクションプラン抽出:
課題ごとにアクションプランを洗い出し、優先度や必要リソースを考慮しつつ、各時期に何を実行するかを決めます。
同僚とアイデアを出し合い、実行可能性や現場における実際の負荷感を確かめましょう。こうした対話を通じて、現場感覚を踏まえた、より実行可能なプランへとブラッシュアップできます。タイムライン化:
アクションプランを半年または四半期単位でスケジューリングし、2027年末までにどこまで達成するかを明確にします。
この最終段階でも、上長やキーパーソンとロードマップ全体を俯瞰し、「本当にこのペースで行けるのか」「外部環境の変化に対して柔軟に対応できるか」といった問いを投げかけてもらうことで、計画をより堅実なものに調整できます。
このように、各ステップで上長や同僚との「壁打ち」を行うことで、異なる視点や経験則を取り込み、納得感と実行力を兼ね備えた長期ロードマップを策定することが可能になります。ロードマップは単なるプランではなく、組織全体で共有・改善し続ける「生きた戦略的ツール」なのです。
まとめ
(長期)ロードマップは、組織や事業を取り巻く市況環境を踏まえた「未来の理想像」を起点に、必要な課題と施策を洗い出し、時系列で整理するプロセスです。テーマ設定や前提条件の明文化、ステークホルダーとの議論を経て、実行可能で筋の通った計画へとブラッシュアップできます。
このフレームワークを活用すれば、単なる「やることリスト」を超えて、2027年末という長期的なゴールに向けた戦略的な航路が示され、組織全体が同じ方向を向くことができます。変化の激しい市況環境下でも、長期ロードマップがあれば、自組織の確かな指針を持って前進していくことが可能です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
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