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アドベンチャーツーリズムとしてのモトツーリズム

 モトツーリズムは競技性の高いものではなく、ツーリングやガイド付きのツアーなど走行自体を楽しむものである。国内・海外問わず未知のロードに乗り出せば、それはある意味冒険(アドベンチャー)である。そこで本稿では近年世界的に注目されているアドベンチャーツーリズムについて紹介し、モトスポーツツーリズムとの関係性について述べる。

(1)アドベンチャーツーリズムとは
 日本は海・山・川などといった「自然資本」や地域独自の食や暮らし、寺社仏閣、城(跡)、庭園などといった「文化資本」が豊かであり、それらのリソースを「強み」として活かさない手はない。それらの「強み」を活かす方法として「アドベンチャーツーリズム(以下AT)の推進」が近年注目されている。
 ATとは「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行」をいう(Adventure Travel Trade Associationによる定義)(図1)。もともとは1980年代に自然を活かしたアウトドアアクティビティ観光としてニュージーランドで発達した。自然をテーマとした観光にはエコツーリズム、グリーンツーリズムなどがあるが、アドベンチャーツーリズムは、アクティビティや異文化体験が組み込まれ、「学び」より「楽しみ」を重視したレジャー性の高さが特徴的である。

図1 アドベンチャーツーリズムの概念
出所:ATTA HP・データ、UNWTO 「Global Report on Adventure Tourism」、国土交通省「着地型旅行の市場概要」よりJTB総合研究所作成  

 ATは旅行者が地域独自の自然や地域のありのまま文化を、地域の方々とともに体験し、旅行者自身の自己変革・成長の実現を目的とする旅行形態である。“アドベンチャー”という言葉から、強度の高いアクティビティを主目的とすると連想されがちだが、アクティビティは地域をより良く知り、地域の方々との深く接する手段の一つであり、近年はハードなものより、むしろ散策や文化体験等のソフトで簡易なものが主流となってきている。ATは、自然や文化といった軸ではエコツーリズムやグリーンツーリズムと共通項を持つものだが、アクティビティを通じて地域の文化と自然を体験することで、自身の成長・変革と地域経済への貢献を実現することを目的とした新しい旅のあり方である。 
 モトツーリズムは、道路の込み具合から考えると都市部より地方部が快適に走行できる。地方部においては都市部よりも自然が豊かであり、文化資本も豊富である。したがって、バイクのライディングというアクティビティにより地域の自然資本や文化資本を楽しめるという観点から、モトツーリズムはアドベンチャーツーリズムでもあると言える。

(2)アドベンチャーツーリズムの経済効果
AT顧客の消費形態として、1万米ドルの経済効果を生み出すためには、マスツーリズム(クルーズ等)では100人が必要だが、ATでは4人の来訪で達成できるとされている(図2)。つまり、ATではより環境等へのインパクトを抑えながら、経済効果を生み出すことができる。

図2  10,000米ドルを地域経済にもたらすために必要な旅行者数
出所 : ATTA HP・データ、UNWTO 「Global Report on Adventure Tourism」、国土交通省「着地型旅行の市場概要」よりJTB総合研究所作成

 さらに、マスツーリズムでは消費額のうち、地域に残るのはわずか14%に留まるのに対し、ATの場合には実に65%が地域に残るという調査結果がでている。加えて雇用創出効果もATの方が、1.7倍大きいことも確認されている(図3)。

図3 アドベンチャーツーリズムが産みだす経済効果と雇用
出所:ATTA HP・データ、UNWTO 「Global Report on Adventure Tourism」、国土交通省「着地型旅行の市場概要」よりJTB総合研究所作成

 したがって、モトツーリズムによりライダーが地方においてツーリング(回遊)することで宿泊費や飲食費、様々な体験に関わる費用などが地域に落ちれば、地方経済を潤す可能性を秘めていると言える。

(3)アドベンチャーツーリズムの体験価値
 アドベンチャーツーリズムで顧客が得られるものとして「5つの体験価値」がある(図4)。①いままでにないユニークな体験②自己変革③健康であること④挑戦⑤ローインパクトである。①の「今までにないユニークな体験」は、その他の場所では味わえない、その地ならではの体験、である。②の「自己変革」は、体験を通じて、自己成長・変化していくことを感じることができる、である。③「健康であること」、は旅行前より心身ともに健康になった感覚を得ることができる、である。④「挑戦」は、身体的・心理的にさまざまな意味合いでの「挑戦」の要素が体験に含まれている、である。⑤「ローインパクト」は体験にあたって、文化や自然に対してインパクトを最低限に抑えていると感じられる、である。

図4 アドベンチャーツーリズムで顧客が得られる「5つの体験価値」
出所:「地域の自然体験型観光コンテンツ」/国土交通省 観光庁 観光資源課

 モトツーリズムには、未知のエリアへの走行へのチャレンジもあり、地方においてはそれぞれの自然や文化と触れ合うことができる。特にインバンドにとっては、日本の自然や文化は自国とは異なる魅力を体験することができるであろう。また、心身ともにリフレッシュもできることから健康的でもあり、オートバイは自動車で走行するよりも環境負荷は小さい。このような観点からもモトツーリズムはアドベンチャーツーリズムの体験価値を得られると言える。
 現在、アドベンチャーツーリズムは国の政策としても推進されている※1ことから、アドベンチャーツーリズムとしてのモトツーリズムの推進も期待される。

注釈
※1経済財政運営と改革の基本方針2024,P26
引用参考文献
ATTA HP・データ、UNWTO 「Global Report on Adventure Tourism」、国土交通省「着地型旅行の市場概要」よりJTB総合研究所作成
スポーツツーリズムハンドブック,学芸出版社,p78
「地域の自然体験型観光コンテンツ」/国土交通省 観光庁 観光資源課

文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部准教授)
(一社)日本モトツーリズム推進機構サイト