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ツーリズムとしてのモトツーリズム

 モトツーリズムは「バイクによるツーリズム」として、前号ではモトツーリズムにおけるバイクについて解説した。本号では、モトツーリズムにおける「ツーリズム」について概説する。

ツーリズムとは?
 ツーリズム(tourism)の定義について溝尾ら(2009)は広義には「通勤・通学以外のすべての旅行がツーリズム」であり、ツーリズムには、自宅・職場と関係のない地域への一時的な移動、その目的地での活動、目的地において旅行者の欲求を満たす施設・事業体、以上3つの意味がある、と述べている。
 また、「ツーリズム」と「観光」の際について様々な議論があるが、まず「観光」については世界大百科辞典第2版によると「観光という語は、観光行動を指す場合と、関連する事象を含めて社会現象としての観光現象を指す場合とがある。観光行動と解する場合、狭い意味では、他国、他地域の風景、風俗、文物等を見たり、体験したりすること。広い意味では、観光旅行とほぼ同義で、楽しみを目的とする旅行一般を指す。観光に対応する英語はツーリズムtourismであるが、厳密にいえば、ツーリズムの概念は観光より広く、目的地での永住や営利を目的とせずに、日常生活圏を一時的に離れる旅行のすべてと、それに関連する事象を指す。」と述べられており、観光はツーリズムに含まれると述べている。
 ツーリズム、観光、旅行の定義の関係性について溝尾(2009)は「観光はツーリズムの一部」であり、レジャーで移動のあるものをツーリズムとすると提言している(図1)。
したがって、モトツーリズムはレジャーの一種であり、移動を伴うものでレクリエーションや観光の諸活動を含むものと言える。

図1  観光とツーリズムの関係 出所:溝尾 良隆,観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻),2009, 原書房,p37より筆者作成

国、国際機関による観光の定義
 観光政策審議会における答申(1970)において、「観光とは、自己の自由時間(=余暇時間)の中で、鑑賞、知識、体験、活動、休養、参加、精神の鼓舞等、生活の変化を求める人間の基本的な欲求を充足せんとするための行為(=レクリエーション)のうちで、日常生活圏を離れて異なった自然、文化等の環境のもとで行おうとする一連の行動をいう」と観光を定義している。
観光政策審議会における答申(1995)において、観光の定義を「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行う様々な活動であって、触れ合い、学び、遊ぶということを目的とするもの」(図2)と定義している。
 UNWTO(世界観光機関)は、「旅行をして、定住場所以外を訪れるもの、ただし滞在が1年以内のもので、しかも滞在先で報酬を得ることのないようなレジャー目的、ビジネス目的、その他の目的を持ってなされるもの」と定義している。
 以上を踏まえると、モトツーリズムはバイクにより余暇時間の活動として行い、触れ合いや学び、遊びがあり、非日常生活を体験できるものと言える。

図2  観光の定義
出所:中尾清他編著『観光学入門』見洋書房,2017,p3より筆者作成

モトツーリズムと他のツーリズムとの違い
 モトツーリズム(Moto Tourism)は、オートバイを使って旅行する形態のツーリズムの一種である。近年、冒険心を満たしつつ自然との一体感を味わえるアクティブな旅行スタイルとして、世界中で人気が高まっている。モトツーリズムの特徴には以下のような点が挙げられる。
まず、移動の自由度の高さが挙げられる。オートバイを使うことで、車や公共交通機関ではアクセスが難しい場所にも容易に行けるため、旅行者は自分のペースでルートを設定し、観光地だけでなく風光明媚な田舎道や山岳地帯も楽しむことができる。景色などを観たければ容易な停車も可能である。さらに、駐車スペースの心配が少ないため、都市部の観光もストレスなく行える。
 次に、モトツーリズムは冒険心を満たす要素が強い。オートバイに乗ることで、風や気温の変化、匂いや音など、五感をフルに活用して旅を楽しむことができる。これにより、車内からの風景とは異なる、より直接的で臨場感のある体験が可能となる。なお、ガイドツアーにおいては訪れる地域の自然や文化について更に深く楽しむこともできる。
 また、モトツーリズムはコミュニティの形成にも寄与する。オートバイ愛好者は共通の趣味を持つ仲間と出会いやすく、ツーリングクラブやイベントなどを通じて新たな友人を作ることができやすい。多くのライダーは、道中で出会う他のライダーと情報交換をしたり、共に走行したりすることを楽しんでいる。ヤエー(ライダー同士がバイクですれ違う時に行うハンドサイン)もライダー特有の文化であろう。
 さらに、モトツーリズムは持続可能な旅行形態としても注目されている。オートバイは燃費が良く、CO2排出量も少ないため、環境負荷が比較的低い。特に電動バイクの普及が進む中で、さらに環境に優しい旅行スタイルとして期待されている。
 しかし、モトツーリズムは安全性の確保が重要である。オートバイの操作にはバイクのサイズによっては高度な技術と経験が必要であり、また天候や道路状況によるリスクも大きいため、ライダーは十分な準備と装備を整えることが求められる。
 モトツーリズムは、自由と冒険を求めるツーリストにとって魅力的な選択肢である。環境への配慮と安全運転を心掛けることで、今後も多くの人々に支持される旅行スタイルとなるであろう。

モトツーリズム推進のために産官学がやること
 モトツーリズム推進のために産業界、政府・自治体、学術機関などがそれぞれの役割を果たし、協力することが重要である。
まず、産業界が果たすべき役割としては、ツーリングに適したバイクや装備の開発と改良が挙げられる。オートバイメーカーは、燃費が良く長距離走行に適したバイクや安全性を高めるための装備を提供し、関連企業はモトツーリズム関連のイベントやフェスティバルを共同で企画・開催する。また、オートバイのメンテナンスや修理技術の提供、安全運転講習会の開催などを通じて、ライダーが安心してツーリングを楽しめる環境を整えるなどがある。
次に、政府・自治体の役割としては、モトツーリズムを推進するための政策支援と規制緩和が必要である。例えば、観光地へのアクセス道路の整備やオートバイ専用の駐車場の設置などのインフラ整備を支援する。また、交通安全キャンペーンの展開や道路標識・安全施設の整備を通じて、安全なツーリング環境を整えることが重要である。さらに、モトツーリズム向けの観光情報を提供するためのポータルサイトやガイドブックを作成し、観光地やツーリングルートの情報を発信する、などがある。
 最後に、学術機関はモトツーリズムに関する研究とデータ分析を行い、その経済効果や社会的影響を分析する。これにより、効果的な政策立案やビジネス戦略の策定が可能となる。また、モトツーリズムに関する教育プログラムを開発し、学生や一般市民に対して普及活動を行う。安全運転や環境保護の重要性を教育することで、持続可能なモトツーリズムの実現に寄与する。さらに、産業界や政府との連携を強化し、共同研究やプロジェクトを推進することで、実践的な知見を提供する、などがある。
 これらの取り組みを通じて、産業界、政府、学術機関が一体となってモトツーリズムを推進することで、地域の経済活性化、観光資源の充実、交通安全の向上、そして持続可能な観光の実現が期待される。
詳細な内容をさらに今後述べていく。

引用参考文献
溝尾 良隆,観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻),2009, 原書房,p37
世界大百科辞典第2版
観光政策審議会における答申(1970)
観光政策審議会における答申(1995)
中尾清他編著『観光学入門』見洋書房,2017,p3

          文責 林恒宏(岡山理科大学経営学部准教授)

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