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___Ep1.やりきれない日常を過ごす女がウェディングフォトを撮ってみた



私のやりきれない日常


言葉ではどうにも表しきれないような胸のモヤモヤ。
私は常にこれを抱えて日々を生きている。

会社へ行く朝、清々しい晴れた気持ちで体を起こした事は一度もない。


学生の頃から、アルバイトなど『働く』ことが苦手だった。

人と話すのが嫌いとかじゃない。
『職場』という環境に身を置くと、必要以上に萎縮してしまうのだ。

身なりや言葉遣い、社会人としての最低限のマナーを守れるのは当然だし、
人と関わって生活をしていくうえで必須だ。

でも、そこまで自分を、個性を、殺す必要はないはずなのに、
一つの一つの行動に『責任』を強く感じすぎて、私は限界を迎えてしまう。

毎日ぎりぎりの状態で会社へ行っている。

やめたい、やめたい、

ちがうどこかで、ちがう職種でなら
なんとかして働いていけるだろうか。

もういい大人なのに、いま人生で一番
この先の働き方、生き方について日々悩んでいる。

これまでの人生

社会人になるまでの私の人生は、
自分でも断言できてしまうくらいに順調で平凡で、そこそこに恵まれていた。

幼い頃から好きな習い事をして、
いやになったら正直に伝えて、
大学受験は大成功とは言えなかったけど、それでも希望の高校や大学へ進学した。

言い換えれば、綺麗に敷いてもらったレールの上を、そのまま走り続けてきた。

だから社会人生活もこのまま、晴れた気持ちで
いや、せめて普通の気持ちで送れるものだと思ってしまっていた。

「就活は人生を決める」とかそういう言葉はまったく信じていなかったし、むしろ嫌いだった。

そんなの、「お金があれば幸せ」の謳い文句と同じくらいにしか思っていなかった。

でも今は、環境を変える勇気のない者にとって、就活はある意味本当に人生を左右すると思っている。会社選びだけじゃない、職種や働き方という大きなカテゴリで。

そこに現れたウエディングフォト

そんなやりきれない日常を過ごす私の前に、『ウエディングフォト』を撮る機会が訪れた。

最初は軽い気持ちで、
「せっかくなら可愛い背景で撮りたいかも」とか「地元の海辺で撮るのもいいかな」とか考えていた。

そして、最終的に私が選んだロケーションが
横浜の夜景を一望できる『大さん橋』だった。

私が大さん橋を選んだ理由

まだ自分が学生の頃、父母とここ横浜のみなとみらいを訪れたことがあり、その時の記憶が脳裏に焼き付いていた。

当時の私は横浜のことを何も知らず、

「なんだこの整備された未来都市は・・・」

と、田舎から出てきた娘感満載で、左右を見渡しながらみなとみらいを歩いていた。

ちょうどその時、両サイドから大きな鐘の音が鳴り響いたのだ。

鐘の音とともに風船や花びらが舞うのを見て、結婚なんて遠い憧れか幻だった私でも、
「あ、これは幸せの鐘だ」と悟った。

「こんなところで結婚セレモニーができる人って、おそらくめっちゃ幸福な部類なんだろうなー。」
なんてことを思いながら、その時の鐘の音と景色が頭から離れずにいた。

その後の人生でも、横浜には何かと縁があり、
「せっかくならここで撮りたい」という思いに至った。

知れば知るほど奥が深い世界

写真で大切なのは場所だけじゃない。
カメラマン、それからヘアメイク。
これが知れば知るほど奥が深かった…。

撮る人によって同じ場所でもまったく異なる画になる。
分かっていたつもりだけど、想像以上だった。

気が付けば、あんなに無気力な日常を過ごす自分が、久しぶりに興味を持って、ワクワクしながらその世界をのぞき見していた。

そして迎えた撮影当日

スタジオでヘアメイクと着替えを完了させ、タクシーに乗り込む。

その道中、「あ、花嫁さんだー!」という声が聞こえて、
そうか自分のことかと不思議な気持ちになったのを覚えている。

そして、大さん橋に無事到着。

当日の大さん橋

7月のまだまだ暑い時期だった。
撮影の開始時刻は夕方5時頃だったが、暑さと、実は何よりも天気を心配していた。

なぜなら自分は『自称雨女』だから。

いつも、大事なイベントなどの前は何週間も前から天気予報を見てしまう。
でも、今回はあえて何も見ないでおこう!と決め、ずっと我慢していた。

それでも結局、2週間を切ったくらいから我慢しきれず、「みなとみらい 天気」と検索しては一喜一憂をくり返していた。

当日は、カメラマンも驚くほどの快晴!!!

こんな日は本当になかなかないですよと言われ、本当に嬉しかった。

そして何よりも、憧れだったあの場所で、自分がドレスを着て歩いている。
この事実がとても不思議で、感慨深かった。

撮影は順調に進んでいった。

夜景がメインと思っていたが、美しすぎるマジックアワーにも遭遇した。

ほんのわずかな時間しか訪れないマジックアワー

久しぶりの高揚感、感慨深い気持ち。これだけでも胸がいっぱいだったのに、カメラマンさんがこれまた最高だった。

ポーズの指示や写真のクオリティはもちろんだが、それ以上に、
一瞬一瞬を大切に切り取り、何よりもカメラマンとしての仕事を心から楽しみ、誇りに思っていると、その表情や様子からとても伝わった。

特に、夕日やマジックアワーは時間との勝負。
ましてやウエディングフォトスポットとして人気の大さん橋は、場所とりも重要。

カメラマン、そしてヘアメイク、思っていた以上に体力仕事だと痛感した。

____次第に日が落ち始める。

絵画ですか?という一枚

「大さん橋は景色として本当に綺麗だから、正直、被写体がいなくても成り立つよなぁ」なんてことを思いながらも、私はその時間を本当に楽しんでいた。

それと同時に、夢中で撮影するカメラマンとヘアメイクさんを見て、
自分が普段見ている世界は本当に狭いな、ほんの一部なんだな・・・
自分も、こんな風に熱くなれることは何かあるのだろうか・・・

そんな事が頭の中を巡っていた。

そんなこんなで撮影は続き、なんと私たちは最後の一組になるまで残っていた。

カメラマンさんの「ラストです!」が、ずっとラストではなくて、
でもそれがまた最高で・・・。

私達しかいない大さん橋。
ずっとここにいたい、なんて思ってしまいそうな時間だった。

最後に

あれから1か月以上が経ち、美しすぎるデータが私の手元にも届いた。
そして私はまた、元通りのやりきれない日常に戻っている。

でも、少なくともあの時間や体験が、私の心を動かしたことは間違いない。

自分にはまだ知らない世界があり、そこで生きている人々がいる。

写真はいつでも見返せるけど、そこには残らないあのときの感情たちを今ここに留めておく。


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ツナエッセイ🥪
平凡な人間ですが、よろしければ応援よろしくお願いします。書いて書いて、生きていきます。