【疾患センター解説】一分一秒が命に直結する 脳卒中センター
脳卒中センターとは 医師を中心とした多職種チームが、超急性期からリハビリテーションまで対応
脳卒中に特化したチーム医療を実践
脳卒中は一刻を争う疾患。発症から治療開始までをスムーズに行うチーム医療が大切です。脳卒中センターでは脳神経内科と脳神経外科の医師が診断・治療を伴うことはもちろん、放射線科や脳卒中治療に特化したメディカルスタッフと緊密に協働します。
脳卒中を発症した際に大切な指標が「ACT-FAST」。顔や腕、言語などの異常があれば迅速に救急車を呼びましょう。中には医師と直通でつながる脳卒中ホットラインを設けている医療機関もあります。
突然、言語障害や半身まひなどの症状が現れ、すぐに消える一過性脳虚血発作(TIA)は脳卒中の前兆といわれ、要注意です。搬送後は限られた時間内で適切な診断が求められます。脳卒中のスペシャリストがCT、MRI、MRAなど画像診断を用いながら脳の状態を確認し、経過観察、薬物療法、血管内治療、開頭手術など治療方針を決定します。日頃からカンファレンスを実施し、搬送から治療に至るまで詳細な症例の検証を行い、治療の精度向上に尽力しています。
発症早期の治療やリハビリテーションが、後遺症や回復具合を左右します。そこで重要な役割を務めるのが脳卒中ケアユニット(SCU)。脳卒中に特化した病室を用意し、初期治療を効率的に行います。医師や看護師、リハビリテーションスタッフ(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)ら多職種が連携し、質の高い医療を提供します。
日本脳卒中学会から認定された施設を「一次脳卒中センター(PSC)」といいます。「24時間365日の患者受け入れ、SCUの設置、患者搬入後可及的速やかな診療」など複数の基準項目を満たすのが条件です。
関連施設にはパーキンソン病など脳神経疾患治療も行う脳神経センターや、カテーテル治療に注力する脳血管内治療センターなどがあります。
脳卒中とは 発症の予測が困難な脳血管の障害、命に関わります。
脳の血管が「詰まる」か「破れる」
脳卒中は脳の血管の病気のひとつ。血管が詰まれば脳梗塞、破れれば脳出血となります。
脳梗塞は脳動脈自体に動脈硬化が起こり、それが原因で脳の血管が詰まる疾患です。主に3種類。細い血管が詰まるのがラクナ梗塞。血の塊(血栓)が血管を閉塞することを血栓症といい、太い血管に血栓ができるのがアテローム血栓性脳梗塞です。心房細動(不整脈の一種)を原因に心臓から血栓が飛んでくる心原性脳塞栓症は患者数の多い疾患です。脳梗塞の中には原因が特定できないものもあり、そういった判別が難しいものを ESUS(塞栓源不明脳塞栓症)と呼んでいます。
脳出血は脳実質内(大脳・小脳・脳幹など)で起こる出血です。多いのは高血圧性のもので、血管に圧力がかかり血管の壁が薄くなって破れます。主に脳実質内の被殻、視床、橋、小脳の4カ所が好発部位です。高齢者に多いのが、アミロイド(たんぱく質の一種)が脳血管に沈着し、発症するアミロイド血管症由来の皮質下出血。アルツハイマーにも関与する疾患です。
脳血管内にできる瘤破裂は命に直結
くも膜下出血も症例数の多い脳出血の一種です。動脈硬化などを原因に脳血管が枝分かれする部分に血流の負荷がかかって瘤(脳動脈瘤)が生じます。それが破裂し、脳の外側にあるくも膜下腔という隙間に血が流れこみます。
症状はバットで頭を殴られた衝撃に例えられます。家族歴など遺伝要素もある疾患で、脳梗塞や脳出血が70代で好発するのに対し、40〜50代と比較的若い世代でも発症しやすい疾患です。
脳動静脈奇形(AVM)と呼ばれる脳内の動脈と静脈の間にできる破れやすい異常な血管の塊や、もやもや病などを原因にくも膜下出血を発症することもあります。
治療法について 薬物療法、脳血管内治療、開頭手術、状況によって経過観察を選択することも
早期の治療が大切な脳卒中近年、脳血管内治療が普及
脳梗塞の発症後4.5時間以内であれば、まず薬剤(t-PA)で血栓を溶かす静注血栓溶解療法を検討します。 t-PAの効果が不十分や投与が難しい場合、足の付け根などの動脈からカテーテルを挿入し、血栓を取り除く血栓回収療法を検討します。血栓回収療法は脳血管内治療専門医の資格が必要です。 t-PAや血栓回収を行っても必ずしも、うまくいくわけではありません。脳保護薬、腫れを抑える薬(グリセオール)など薬物療法も行います。また心原性脳梗塞には抗凝固薬、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞には抗血小板薬を用い、急性期の段階から再発予防に取り組みます。
脳出血は小さな血腫には血圧を下げ、腫れを抑える点滴など薬物治療が中心です。出血が拡大し、症状が悪化していくときは手術を行います。
くも膜下出血の発症原因のほとんどは脳動脈瘤です。血管造影で瘤の位置を確認し、治療を行います。頭を切開する開頭クリッピング術、またはコイル塞栓術を検討します。体への負担を考慮し、近年は侵襲の少ない脳血管内治療が増えていますが、瘤の位置などから開頭手術を必要とする症例もあります。
脳ドックなどで未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、瘤の大きさや年齢によっては経過観察を選択することもあります。5mm以上の大型脳動脈瘤に適応となるフローダイバーターステント治療もあります。