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【進化する整形外科ロボット 4】MISとロボットの融合 ROSA Hipの可能性

2022年10月、アジアで初めてROSA Hipを導入したのが、藤田医科大学ばんたね病院(藤田医科大学病院と同時)。本邦一例目の人工股関節置換術を担当したROSA Hipの伝道師・金治有彦医師に話を伺った。


関節包靭帯を温存するMISの魅力

 藤田医科大学ばんたね病院・人工関節センター長を務める金治有彦医師は小児から大人まで幅広く対応する股関節疾患治療のスペシャリスト。患者一人ひとりの背景や骨格、筋力ボリュームなどを分析し、オーダーメード治療を追求する。

 人生100年時代、加齢に伴う運動器疾患は大きな課題だ。股関節の軟骨がすり減り、痛みや炎症を引き起こす変形性股関節症もそのひとつ。平均年齢40〜50歳と若くして発症するため、その後の人生に大きな影響を及ぼす。

 「変形性股関節症にはMIS(最小侵襲手術)による人工股関節置換術が有効です。

 ひと口にMISといっても、実際は侵襲の程度によって3種類あります。第一世代は皮膚の切開創が小さい、第二世代は筋肉や筋腱を温存、第三世代は関節包靭帯の温存と修復をするもので、我々は第三世代の関節包靭帯温存手術をメインにしています」

 股関節は筋肉に覆われ、関節包という柔軟な組織に包まれている。従来の手術では関節包靭帯を切断していたが、これらを残すことで股関節の安定性が高まり、脱臼リスクの低減が期待できる。股関節の可動をサポートする筋肉、安定をもたらす関節包靭帯などの組織を温存することによって、軟部組織の回復が促され、早期回復も望める。

 第三世代のMISはケガをしたスポーツ選手・愛好家にも有用な治療法。金治医師は、これまでゴルフ、テニス、ボルダリング、バレエなど、さまざまな競技復帰の希望を叶えてきた。

MIS withロボットROSA Hip導入の物語

 金治医師がMISとともに、重要視するのが正確な人工関節の設置。コンピューターアシストサージェリー(CAS)が備わる手術支援ロボットはマニュアルでは困難な緻密な手術へと導く。

 「MISと正確な設置は両輪。どちらか一方ではいけません」と力説し、その2つを同時に実現してくれるロボットを探し求めていた。

 「整形外科領域に初めて手術支援ロボットが登場したとき、その正確性には驚きました。ただ、私の理想は手術精度に加え、第三世代のMISができること。『患者さんのため、MISとCASが融合したロボットを、なんとか作って欲しい』と、医療機器メーカーのジンマー・バイオメットに懇願しました。まずひざ用ロボットROSA Kneeが発売されました。

 2022年5月コロナ禍にも関わらず、オーストラリアから名古屋まで開発担当が来て『ついに股関節用も発売が決まった』と教えてくれました。意気投合し、治療データや考え方を共有しながら、ロボットの課題や懸念事項を指摘し、最終的にはアルゴリズムについてまで、熱く語り合いました。

 ロボット導入は自分一人でどうこうできるものではありません。紆余曲折ありましたが、ジンマー・バイオメットの協力もあってアジア(オーストラリアを除く)で初めて2022年10月にROSA Hipを導入し、本邦一症例目を担当させていただきました」

MIS withロボットで行う人工股関節置換術

ゆるぎない情熱でロボットとともに未来をつくる

 ROSA Hipは金治医師の夢を叶えるMIS with ロボット。マニュアルでないと難しい関節包靭帯温存手術を、より正確に安全性高く実行する。出血量も少なく、感染症や合併症のリスクの大幅低減が期待できる。

 「ただし、高度な臼蓋形成不全や脱臼度が高い症例では関節靭帯温存手術は難しい。その場合、骨から軟部組織を剥がす必要があります。状況に応じて治療法を選択できるのもROSA Hipの魅力です」

 2023年3月、金沢市で催された日本CAOS研究会学術集会という整形外科のコンピューター支援外科領域の臨床的・基礎的な学術情報交換イベントに出席した。

 「設置精度という点ではMako(ストライカー社)が素晴らしいことは明白ですが、遜色のないデータをROSA Hipで発表し、MIS with ロボットの手応えをつかみました」

 科学が発展する中でトラブルはつきもの。整形外科ロボットの歴史はまだ浅い。金治医師はデジタル化されたデータを集計し、日進月歩改善を進めている。現在は米国クリーブランド大学と共同研究を行っている。

 「ROSA Hipはシューベルト作曲『交響曲第8番 未完成』のように美しく、可能性に満ちています。情熱を持って明るい未来をつくります」

 対して、「股関節の前方アプローチ手術は筋肉を切らず、小切開。低侵襲といえますね」と高津医師。「手術の合併症に股関節の脱臼があります。後方アプローチ手術は正座や車の乗降時など、後ろに外れやすい動作が多い。前方アプローチ手術での脱臼危険肢位は股関節を伸展させて内側に入れる動作になります。そのため、前方アプローチで股関節手術をした患者さんには『イナバウアーは禁止ですよ』と言っています(笑)」

ROSA Hhip

※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載

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