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【眼科医療最前線】ICLの先導者が語る「眼内コンタクトレンズ 視力矯正」の強み

近視矯正術の進化系ともいうべき「眼内コンタクトレンズ視力矯正(ICL)」に注目が集まっている。眼鏡やコンタクトレンズと違い、眼内にレンズを挿入するもの。角膜を削る必要がないので、従来の矯正術に抵抗感があった若い世代にも好評をもって迎えられた。

※『名医のいる病院2023 眼科治療編』(2023年3月発売)から転載

レンズを目の中に入れる視力矯正術に注目

「近年、注目を集めている ICL(インプランタブル・コンタクトレンズ)は眼鏡やコンタクトレンズと同様、レンズの力を借りて視力を矯正する方法です。ただし、眼鏡やコンタクトレンズとは違い、レンズを目の中に入れるところに大きな特徴があります」

と語るのは中京眼科(名古屋市熱田区)の市川一夫先生。白内障手術のエキスパートであり、「眼内コンタクトレンズ視力矯正(ICL)」の先導者でもある。現在でも白内障、ICLの年間執刀数は2000件以上に達する(2022年1~12月)。

行動力は抜群。国内外で手術の助っ人、技術指導に引っ張りだこで、国内では北は北海道から南は九州まで、海外ではモンゴル、中国、ベトナム、ミャンマーといった国々で腕を振るってきた。

新型コロナウイルス感染症の影響で海外渡航は制限されているものの、2023年1月にはモンゴルのクリニックでICL手術を実施、国内では相変わらず東奔西走の毎日を送る。

網膜にピントを合わせる「屈折矯正」

ICLは屈折矯正方法の進化系だ。外から目に入ってきた光は角膜と水晶体という2つのレンズで屈折され、網膜に像を結ぶ。角膜が目全体の屈折力の3分の2、水晶体が3分の1を担っている。

角膜や水晶体による光の屈折率が強すぎたり、角膜から網膜までの眼軸長が長すぎたりすると網膜でピントがあわない。こうした原因による近視に対して、凹レンズの眼鏡やコンタクトレンズなどを使用することで網膜に焦点を結ばせ、くっきりと見えるように調整することを「屈折矯正」と呼んでいる。

ただ、眼鏡やコンタクトレンズには特有の欠点があった。眼鏡はスポーツや運動をするときは邪魔になるし、入浴時などは外さなければならない。

コンタクトレンズは角膜上にレンズを装着し、屈折を矯正するもの。角膜に直接ふれることから、衛生管理が重要で、角膜を傷つける危険性もあった。着けたり、外したりが面倒で、ワンデーコンタクトレンズなどを使用すると購入費用がかさむ。

長い屈折矯正の歴史の中で、2000年代から普及したのが角膜をエキシマレーザーで削り、角膜の形状を変えることで視力を矯正するレーザー屈折矯正手術(レーシックなど)。ただ、角膜の厚さによって矯正範囲が制限され、角膜を削り、形状を変えることに抵抗感を持つ人も少なくなかった。

術前の検査とカウンセリングを重視

これらの屈折矯正方法に対し、「眼内コンタクトレンズ視力矯正(ICLは米国STAAR SURGICALの登録商標)」は角膜を削らず、虹彩と水晶体の間にレンズを入れて固定し、屈折を調整する。光学部を大きく確保できることもあって、シャープで、鮮やかな見え方が期待できる上、手入れが不要で、日常生活のわずらわしさが軽減される。

しかも、角膜が薄い人でも角膜後面から水晶体前面までの距離が原則3㍉以上あれば手術を受けることができる(その他の適応基準のクリアが必要)。

術前の検査とカウンセリングは慎重に行っている。ICLを希望する人に対しては屈折検査、視力検査、眼圧検査、角膜内皮細胞数検査、角膜厚検査、角膜径検査、前房深度検査、角膜形状解析検査などを行い、手術の適応基準を満たしているかどうかをチェックする。

適応基準を満たしており、「手術ができる」となったら、ふたたび屈折検査・視力検査・角膜形状解析検査を行い、調節麻痺剤を使用した屈折検査を行う。一日の行動スタイルや、どういう職業なのか、主に何を見たいのか、どういう見え方を希望するのかといったことを丁寧にヒアリングしながら、手術に使用するレンズの度数を決定する。

度数とレンズのサイズは慎重に決定

「特に度数の選択とレンズのサイズの決定は慎重に進めます」と市川先生は力を込める。近視度数を表す「D(ディオプター)」が-(マイナス)3.00D未満は「軽度近視」、-6.00D未満が「中等度近視」、-6.00D以上が「強度近視」とされている。

「たとえば普通に視力測定をして-5Dの近視だったとしても、調節麻痺剤を使用して検査すると、-4.5Dだったり、-4Dだったり、はなはだしい場合は-3Dの近視だったりします。その場合、-5Dに対応するレンズを使うと目の筋肉や腱に常に負荷がかかった状態になってしまう。患者さんは疲れますし、日常生活動作に支障がでるかもしれません。そうしたことが起こらないよう、事前の検査に力を入れています」

普段からコンタクトレンズを装用している場合、角膜の形状が変わっているケースも少なくない。正確な度数を測定するために一定期間、装用を中止してもらう。検査とカウンセリングには相応の時間がかかるわけだ。

レンズの大きさの決定も難しい。レンズは虹彩の背部、水晶体の手前の毛様体溝に固定するが、この部分の幅が検査では測定できないからだ。医師の経験で想定しており、ある程度以上の症例数を有するドクターを選ぶ必要がある。

角膜は削らないので角膜の形状は変化せず

市川先生は愛知県岡崎市出身。眼科医を志望した理由は「実家が眼鏡店だったから」。

愛知医科大学に入学、1期生として同大学の基盤づくりに全力を尽くした。卒業後は指導教員の勧めもあって名古屋大学大学院へ進み、その後、社会保険中京病院(現在のJCHO中京病院)に勤務。「白内障手術の市川」として知られ、眼科医長、眼科主任部長を務めた。

ICLに注目したのは米国で薬事承認された2000年頃。2002年には米国で STAAR認定 ICLインストラクターの資格を取得した。現在は日本に2人しかいないシニアエキスパートインストラクターを務める。

ICLの普及と技術向上に力を入れる「ICL研究会」を山王病院アイセンターの清水公也センター長らとともに引っ張る。

一般的な ICL手術の手順は別図の通りだ。

角膜は削らないので、角膜の形は変化しない。切開創が小さく、回復は早いため、入院する必要はなく、日帰りが可能だ。

医師選びのポイントは症例数の多さ

ICLのレンズは安定性に優れている。米国での最初の手術から20年以上が経っており、良好な成果を収めてきた。術後の早い段階から屈折は安定し、長期にわたって安定した屈折値を示している。

STAARの調べによると96%の症例で眼鏡などによる術前矯正遠方視力よりも良好な裸眼遠方視力が得られた。

最後に「ICL手術を希望する人の医師・医療機関の選び方のポイント」を伺ったところ、「きちんとしたライセンスを持っている医師・医療機関を選ぶこと。一定の症例数以上の執刀経験がある医師を選ぶこと」と即座に力強い答えが返ってきた。


中京眼科視覚研究所 所長
市川 一夫(いちかわ・かずお)

医学博士。1978年、愛知医科大学卒業。1983年、名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。社会保険中京病院(現 JCHO中京病院)眼科医長、主任部長を経て顧問。中京グループ会長。中国・大連医科大学客員教授。ハルピン医科大学付属第四医院客員教授。日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)前理事長。