【コラム:近代医学・生理学の幕開け】顕微鏡を使って血液循環論を証明-マルセロ・マルピーギ
顕微鏡が「隠れた世界」をあらわにしていった
ガリレオは望遠鏡という、遠方の物体を拡大できる優れた道具を発明したことで、驚異的な発見を次々に成し遂げました。顕微鏡の原理も望遠鏡と同様で、レンズを組み合わせることで、さらに物体を拡大することが可能になりました。
顕微鏡に関する光学理論はケプラーらが確立、17世紀半ばになると顕微鏡は医学・生物学の第一線で、こぞって使われるようになりました。「顕微鏡の父」と呼ばれるマルセロ・マルピーギ(イタリア)は顕微鏡を使った研究の第一人者でした。マルピーギもボローニャ大学で医学を学んだ医師です。
1650年代に顕微鏡を使い、カエルの肺の研究をスタート。次々に「隠れていた世界」があらわになっていきました。1660年、血液が肺の表面にある、きわめて細い血管を流れていくことを発見しました。このことから肺の中の空気が血液に取り込まれ、体の各部分に送られていることが明らかになりました。呼吸が、どういう役割を果たしているかが見えてきたわけです。
ほぼ同時期にオランダの博物学者、スワンメルダムは血液中に空気中の必要成分を運ぶ役目をするもの、すなわち赤血球を発見しました。
微細な血管が動脈と静脈を結んでいることを確認
マルピーギは最も細い血管を、ていねいに観察しました。肉眼では、はっきり見えませんでしたが、顕微鏡を通してなら、はっきり見ることができました。後に毛細血管と呼ばれるようになる、微細な血管が動脈と静脈を結んでいることを確認しました。
1628年にハーベイが発表した血液循環論を裏付ける実証的な証明がなされたわけです。残念ながらハーベイは数年前に亡くなっており、自分が唱えた血液循環論の「勝利の日」を見ることはありませんでした。
マルピーギら顕微鏡を使って生物に迫っていった研究者らは、生物組織の中に、ガリレオが望遠鏡を使って「天体」「太陽系」「宇宙」に見いだしたのと同様の壮麗で美しい世界が広がっていることに気づきました。
※『病院の選び方2023 疾患センター&専門外来』(2023年3月発行)から転載