【対談 勝田 紘史 × 城 勇太 × 堀島 行真】プロスポーツチームドクターの担う役割
選手の健康を総合的にサポート
「勝田先生には、チームとしてもう3年近くお世話になっています。チームドクターの大切さは、最初の1年目から実感しました。怪我や故障をする前から医師のフォローを受けられるのは、選手にとって大きなメリットです」と堀島選手は語る。
トレーニング中、怪我や故障を生じる選手は多い。そうしたリスクを避け、選手のパフォーマンスを維持・向上させるために、医学的な観点からさまざまなアドバイスを行うのが、チームドクターの役割の一つだ。
「例えば、『トレーニングの中でひざを怪我する不安があります』と相談すれば、『こういう練習方法ならリスクを抑えられますよ』と答えてもらえます。不安要素を取り除いていけるので、安心してトレーニングに集中できるというわけです」(堀島選手)
もちろん、治療の面でもチームドクターならではのメリットがあると城ヘッドコーチは説明する。
「選手の症状や状態、経過などについて、詳しい情報を医師から直接聞き、相談することができるため、チームとしてもより適切なフォローができます。また、薬の相談も重要なポイントで、風邪を引いた時や体に痛みがある時など、どのような薬を選ぶべきかアドバイスをもらうことができます。海外への遠征中などは、なかなか現地の病院にも行けないため、とても助かります」
治療の可能性は限界まで探る
選手たちを支えるチームドクター。勝田医師は、その役割を担うにあたり、心がけていることがあるという。
「いわゆるドクターストップをかけるのは、医師としてある意味簡単で責任も少ない選択肢です。しかし、選手の希望を実現するという意味では、試合や大会に出られるよう、ギリギリまで治療の可能性を探るべきだと考えています。これは、アスリートに限らず、全ての患者さんに共通する部分です」
とはいえ、ドクターストップをかけざるを得ない状況も当然存在する。そうした時、説明を尽くして選手を納得させるのも、チームドクターの重要な役割だ。
「最終的には、医学的な判断が優先されます。チームドクターとしては苦しい決断ですが、選手から『コーチやトレーナーからも出場を止められていましたが、先生から説明を受け、初めて心から納得することができました』と話してもらえることもあります」(勝田医師)
未来にわたる選手の健全な身体と、現在の試合や大会という限られた機会を天秤にかけなければならないチームドクターの仕事は、「答え」のない難しいものだ。そして、患者に寄り添う医師としての真摯な姿勢が問われるものでもある。
競技の未来へ長期的取り組みも
「勝田先生は、とても話しやすい方です。学生の頃からモーグルをされていたそうで、選手の気持ちもよく理解されています」(堀島選手)
「選手たちを、よく食事に連れて行ってもらっています。プライベートでの付き合いを大事にされる先生なので、選手たちとの距離も近いですね」(城ヘッドコーチ)
チームのサポートに全力を尽くす勝田医師。直近の目標は、もちろん日本代表を勝利に導くことだと話す。
「堀島選手が現在悩んでいるのは、同格のライバルがいないことです。もちろん、世界ランキング1位の選手はいますが、彼はその先を目指しています。彼の成長を後押しするかたちで、医学的なサポートをしていきたいと考えています」
競技の未来を見据え、長期的な取り組みも進めているという。
「チームドクターとして、選手たちの医学的なデータの統一と蓄積を進めています。こうしたデータは、選手のパフォーマンス向上につながるものです」(勝田医師)
目指すは2022年の北京大会。モーグル日本代表から目が離せない。
※好評を博した過去の書籍記事を【ARCHIVE】として配信しています