狙った成果を生み出すマーケティング施策の全体設計「ABMマトリクス」
こんにちは、酒居です。
今回はぼくたちユーザベースのマーケティング組織で実践している施策の設計プロセスについて書きたいと思います。ターゲット企業の特定から各施策にいかに落とし込むかについて各プロセスに話していきます。
施策づくりでよくある3つの失敗
まず、戦略や施策を設計する・企画していく際に陥りがちな3つの失敗を挙げてみましょう。
①「手段ファースト」で考えてしまう
施策はあくまで「手段」であり、誰に何のために伝えるのかが何より重要です。しかし、手段であるはずの施策にもかかわらず、いつの間にか施策を企画する・実行すること自体が目的化してしまい、手段ファーストな状態になってしまうケースがあります。(例えば「今はオンラインセミナーが流行ってるから自社もオンラインセミナーをやろう」とか「Facebook広告が効果良いらしいから自社も広告配信やろう」等)
②ターゲットは決めたけど施策が思いつかない
自社でターゲット企業を特定し、ターゲットリストは作成したものの、それを施策にどう活かせば良いかが分からず、ターゲティングの効果を活かしきれていない。これはターゲティングから施策へとつなげる設計フローの解像度が上げられていないことが原因であるケースが多いように思います。
③施策の比較検討が客観的にできる環境がない
「やらないといけない施策は色々あるものの、どれから手を付ければ良いか分からない」や「施策を複数やっているけれど、思ったような成果が得られない」という悩みを抱えられているケースもよくあると思います。これは施策を判断する上で必要となる定量データの可視化が出来ていないことや、施策の目的を明確化できておらず、優先順位付けが出来ていないことが原因として考えられます。
施策設計プロセスを理解する
よくある3つの失敗を防ぐには、施策設計をプロセスに分けて考えることが大切だと考えています。
そこで、今日はマーケティングの全体戦略の設計から具体的な施策への落とし込むまでの一連の設計プロセスについて紹介したいと思います。
プロセスは大きく分けて5つの段階に分けています。
①ターゲティング
ターゲット企業を具体的な企業名で特定する
②ABMマトリクス
ターゲット企業と自社との接点状況でセグメンテーションする
③施策マップ
ABMマトリクスの各セグメントにおける施策目的と施策方針を決める
④施策実行
決めた施策方針と施策の優先順位に沿って企画・実行する
⑤分析・検証
ターゲティング・戦略・施策それぞれの成果検証を行い、改善サイクルをまわす
上記設計プロセスを順に紹介していきます。尚、本文では①〜③の設計プロセスに絞ってお話していきます。
手段ファーストでなく「ターゲティング・ファースト」
「手段ファースト」で考えてしまう失敗ケース。手段先行で考えても目的が明確でなければ効果的な手段にはなりえません。そこで、まずは自分たちが誰を対象にして事業をしているのかを明確にすることが重要となります。それが「ターゲティング」です。
ターゲティングの段階では、自社の成約確度が高い企業(自社の製品やサービスを必要としてくれている企業)がどの企業かを具体的な企業名まで特定します。本文ではターゲティングによって対象とした企業のことを「ターゲット企業」と表現します。
まずターゲット企業を特定することで、誰に向けてアクションするものかが自ずと明確になり、進む方向性がはっきりします。
まずターゲットリストを作成する
そこで、ぼくたちユーザベースではターゲット企業をby name(具体的な企業名)で特定し、その企業群をまとめたリスト「ターゲットリスト」を作成しています。
ターゲットリストは、企業を単にリスト化するだけでなく、優先順位別に3つのレイヤーに分類しています。最優先でアプローチするターゲット企業を「Tier 1(ティアワン)」と呼び、順番に「Tier2」、「Tier3」と続きます。
ターゲット企業の特定方法は、規模や業界、地域という属性だけで分けるのではなく、企業の特徴や興味関心などのデータを用いて、自社サービスとより相性の良い企業を特定しています。
施策設計プロセスとして最も重要なのが、最初のプロセス「ターゲティング」です。このターゲティングの精度が低ければ、その後にどれだけ労力と予算を割いて施策実行をしたとしても、効果的なアプローチはできません。
ご参考までに昨年5月時点でのFORCAS事業のターゲットリストはこんな感じです。約2,000社程度をターゲットリストとして決めていました。
ちなみに、ターゲットリストは四半期おきに全社で見直しをしています。ターゲットリストの作成はマーケティング部門だけで作成するのではなく、全部門が集って議論し、精度を高めています。(弊社では最近ターゲティングの取りまとめをインサイドセールス部門が担当してくれています)
尚、このように従来のマーケティング手法と異なり、まず最初に自分たちが狙う企業をバイネームで特定し、そのターゲットリストに対して、マーケティング及びセールス活動を通していかにアプローチしていくかを逆算して考えていく新たなマーケティング戦略を「ABM(Account Based Marketing)」と言います。
ぼくたちユーザベースでもこのABMを実践してマーケティング戦略を進めています。昨今ABMはアウトバウンドで新規開拓することだと誤認識されることも多い概念ですが、このnoteがABMの誤認識を変え、理解促進の一端になれば嬉しいです。
ターゲティングを施策に落とし込むには道筋を可視化する
ここで冒頭のよくある失敗の「②ターゲットは決めたけど施策が思いつかない」について見ていきましょう。
たしかにターゲティングをして、自分たちが対象とする企業を特定すれば、どの方角に進めば良いかの方向性が明確になります。しかし、方向とゴールは決まったとしても、そこにどうやって到達すれば良いのか、具体的な道筋がはっきりしないままだと、進む道が分からないということになってしまいます。その結果として、せっかくターゲットリストをつくっても、それを施策立案に活かせないということになってしまいます。
そこで大切なことは「ターゲットリストに新たな観点を加えて、プロセスを細分化し、進むべきステップを見える化していく」ことです。それが、設計プロセスの「ABMマトリクス」と「施策マップ」になります。
まずはABMマトリクスの構成から説明していきましょう。
ターゲットリストに「横軸」の観点を加える
ターゲットリストとは、成約確度が高い企業を特定し、アプローチしていく優先度をTier1, Tier2, Tier3と順に決めたものです。つまり、これは「縦軸」の観点と言えます。
しかし、このままだとあくまでターゲットリストを優先順位によって分けただけで、具体的にこのリストをどう活用していけば良いのか悩むところです。
「ターゲットリストをつくって後は代表電話にコールしてアウトバウンドしていくんだっけ?」ABMがアウトバウンドだという間違った認識はターゲットリストの縦軸での判定だけに留まってしまっているケースが多いことが理由にあるでしょう。
では、ここからより効率的かつ戦略的にターゲティングを施策へ落としていくにはどうするか。
ここで重要となるのが、ターゲットリストに「横軸」の観点を加えることです。
ここに加える「横軸」は何か。それは「ターゲット企業と自社との接点(つながり)の有無」です。
ターゲット企業だといっても、自社との接点(ここで言う「接点」はつながり・関係性の強さの意味)の状況は異なります。例えば既に顧客になってくだっている企業もあれば、現在商談中の企業もあるでしょうし、まだ一度も接点を持てたことがないケースもあるでしょう。
そのように自社とのつながりの状況が異なる企業をひとまとめにして施策を考えようと思っても、いったいどんな施策が妥当なのか、何を目的にすれば良いのかは決めることができません。だからこそ、接点の状況に応じて、さらに対象をセグメンテーションしていくことが重要となります。
では横軸の観点をふまえてみていく場合、どのようにセグメンテーションできるでしょうか。まずは上記の図のように、「対象企業とのつながりの有無」で大きく2つに分けることができます。そして、「つながりがある」領域は、そのつながりの強度によってさらに3つに分けています。
ターゲティング×接点状況でつくる「ABMマトリクス」
横軸、つまりターゲット企業(対象企業)と自社との接点状況で分けた4つのセグメントをそれぞれ紹介します。
まず一番右端のセグメント。ここは「対象企業とのつながりが最も強い」セグメントです。つまり、すでに顧客になってくれている等の「既存顧客・既存ユーザー」の領域になります。
次に、右から2つ目のセグメント。このセグメントに入るのは、「既存顧客ではないものの、すでに自事業でつながりがある企業」です。つまり、自事業のハウスリード(すでに保有している見込み企業のリード群のこと)が相当します。
この象限は、さらに細かく言えば、既に営業が商談中であり、案件化している企業群と、未商談または一度失注した企業群(マーケティング部門で展示会やセミナー、Webで集客して未商談のリード群などが該当)とに分けることができます。それによって対応も異なるものの、話が複雑になってしまうので、今回は簡易的にひとまとめにしてお話します。
そして、3つ目のセグメントは「自事業ではつながりがないけれど、他事業や子会社等、グループ全体ではつながりがあるセグメント」です。
全社的にCRMや顧客データを一元化している場合はすぐに確認できる状態にありますが、多くの企業で事業や会社ごとに個別で管理していると思います。なので、保有するリードや接点情報がすぐには分からないかもしれませんが、少なくとも自社全体で見ればつながりがあるといえる企業群が該当します。
最後に、一番左のセグメント。このセグメントに該当するのは、グループ全体をみてもつながりがない企業群、つまり完全に新規対象となる「ホワイトスペース」です。
ちなみに、ABMを実施しようとする企業で、ターゲットリストをこのホワイトスペースセグメントに該当する企業群のみを対象にしている場合が多く見受けられます。しかし、ホワイトスペースに該当する企業群は、Whoを定義する上で、自社との接点状況によってセグメンテーションした一部のセグメントにすぎません。ここだけを対象とするのは機会損失となる一方で、全体の施策設計のバランスを整備できません。
ターゲット企業と自社との接点状況に応じて、ターゲット企業群を横軸で4つのセグメントに分けることで、対象企業と自社との現在の距離感を可視化し、対象企業に向けて個別化して目的設定と施策設計を考えられるようになります。つまり、自分たちの置かれている状況の「見える化」によって、より具体的なマーケティング戦略へ落とし込みができるようになります。
ぼくはこの状況可視化を「ABMマトリクス」と名付けています。
ABMマトリクスでターゲット企業の分布を「見える化」する
自社のターゲットリストをABMマトリクスに適用するために、まずABMマトリクス内の各セグメントに、ターゲット企業がそれぞれ何社該当するのかを「見える化」していきます。
ここで例を用いて解説していきます。例えば、ある企業で下記のようにターゲットリストを作成したとします。Tier 1に該当する企業は300社、Tier 2は500社、Tier 3は1,000社の合計1,800社がターゲット企業です。
このターゲットリストに該当する企業群をABMマトリクスにマッピングします。
社内のCRMやSFAの企業リストとTier情報を突合させた上で、各社との接点状況のデータを取得し、そのデータによって対象企業をセグメンテーションしていきます。
データを取得してマッピングするというと難しく考えてしまいますが、そのような必要はなく、下記を見ていけばデータがとれるでしょう。(もちろんある程度工数はかかるので最初は大変かもしれませんが)
①既存顧客:事業で保有する既存顧客リスト
②ハウスリスト:自事業で用いているCRMやSFA、見込み企業リスト
③自社全体でつながり有:他事業部やグループ会社で使用しているCRMや既存顧客リスト
④ホワイトスペース:全体のターゲット企業数から①〜③を差し引いた数
ちなみに、ぼくたちユーザベースでは下記のようなデータ環境をつくっています。
通常から流入してきたリードやハウスリストに対して、企業名を名寄せし、企業リストを整備するとともに、MarketoとSalesforceを連携した上で、Tier情報をSalesforceにインポートし、ターゲットリストに該当する企業にTier情報を付与しています。そしてリードの行動データや接点情報をSalesforce上で管理しているので、その情報を用いてマッピングを実施しています。
さて、社内で保有するターゲット対象企業との接点情報を取得して、ABMマトリクスにマッピングすると、下記のようにターゲット企業との関係性が「見える化」できます。
各セグメントには、該当するターゲット企業数と合わせて、全体の企業数に対する該当企業数の比率(「カバレッジ」と呼んでます)を記載しています。
尚、上記は分かりやすいように画で表現していますが、実際はGoogleスプレッドシートやExcel等で可視化して共有する等がいいと思います。
ちなみに、FORCASに備わっている機能「顧客分析ダッシュボード」を用いれば、ターゲット企業の分布を見える化できます。切り口は「既存顧客」「商談」「リード」で、それぞれに該当する企業カバレッジを可視化できます。CSメンバーの発案で開発し、ユーザーさんと一緒につくった機能です。FORCASユーザーの方はぜひご活用ください。
ABMマトリクスから施策の妥当性を検証する
ABMマトリクスの各セグメントにターゲット企業の該当企業数、該当カバレッジをマッピングすることで、ターゲット企業の中でもどのセグメントを優先的に対応すべきか、どのような施策を選択すべきかの見極めが可能となります。そして、これは現在進めている施策の妥当性の検証にも役立ちます。
上記の仮数値の例で、施策の検証を考えてみましょう。
Tier 1該当企業への施策検証
これまで「Tier 1は最優先で対応すべき企業なので、マーケティング部門としてもTier 1に向けた企画コンテンツを制作し、新規リード獲得のためにSNS広告配信をやろう」としていたとします。しかし、上記のABMマトリクスのマッピングを見ると、Tier 1のホワイトスペースに該当する企業群は全体の10%、30社しかありません。であれば、大きな工数や予算をかけて新規を獲得しようとしても、すでにホワイトスペースはある程度開拓済みで、効果的ではありません。
逆にTier 1のハウスリストセグメントには50%に該当する企業群がすでにある状況だとわかります。ハウスリストであれば、すでに何かしらの形で自社の製品やサービスを知ってくれていたり、自社のメンバーと接点を持ったことがある企業がほとんどでしょう。そうであるならば、ハウスリストの企業を対象にしてナーチャリングを目的とした自社セミナーや資料を作成する方が効果的な可能性が高いでしょう。
Tier 2該当企業への施策検証
また、Tier 2の場合、自分たちの事業領域だけで顧客との接点を考えると、既存顧客は15%、ハウスリストは15%と、合計でも全体の30%(150社)しかつながりがないように見えます。そうなると、「やはり接点を増やすために新規獲得に向けた施策をやるしかない」と考えてしまいがちです。
しかし、自社のグループ全体を見渡してデータを可視化すれば、実は他事業ですでに45%に相当する225社との接点が社内であることが分かります。例えば、自分たちは新規事業として新サービスを開始した場合、自分たちの事業としてはスタートしたばかりでハウスリストはほとんど保有していないけれど、既存事業でこれまで接点がある企業群がたくさん存在するケースはよくあることでしょう。
アウトバウンドで完全新規としてアプローチしていくよりも、社内のつながりを活用して、接点のある担当者やキーマンを紹介してもらってアプローチしていく方が圧倒的に効率的です。このような社内メンバーから接点のある企業や人につないでもらうことを、ぼくたちは「社内リファラル」と呼んでいます。
ターゲット企業を決めてアプローチしようとすると、いきなり「新規開拓」を考えてしまいがちです。しかし、上記のように、ターゲット企業との接点状況をマッピングして可視化していけば、本当にその施策が妥当なのか、より効果的かつ効率的な手段はないかを考え、実行することが可能となります。
また、このマッピングを見るときに大切なことは、単にマッピングした企業数やカバレッジを見て、数値の多い少ないだけで判断しないことです。数字の奥にある理由(Why)としてどんなことが考えられるのかを想像しながら、アプローチの優先順位をつけていくことが大切で、それによって自社の組織状況や対象企業の環境要因も考慮して、施策設計をイメージできるようになります。
セグメント別に目的を明確化し、施策マップに落とし込む
ABMマトリクスにターゲット企業をマッピングし、対象企業と自社の関係性を見える化することで、自分たちと顧客との現在の距離感が明確化します。それによって、どのセグメントを優先的にアプローチすべきか、そしてどのような手段でアプローチするのがより効果的かが分かるようになります。
そして、ここまで自分たちの状況を可視化して状況理解が深まれば、いよいよ施策設計を考えるフェーズになります。
施策設計に落とし込むにあたり、接点状況によって分けた4つのセグメントを土台にして下記を決めていきます。
・各セグメントに該当するチャネルを特定する
・チャネルへアプローチする「目的」を明確化する
・目的を実現するために実施する「施策」を洗い出す
・施策実行を担当する「部門」を決める
これをぼくは「施策マップ」と呼んでいます。
例として、ぼくたちユーザベースで実施している昨年2020年のオンラインシフト後の施策マップ(↑の図ご参照)からいくつかご紹介します。
①既存顧客
既存顧客セグメントの目的は「LTVの最大化」です。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めるためには、ぼくたちSaaS企業の場合、いかに長期で継続的にサービスを活用してくださるかがキーになります。
そのためにカスタマーサクセス部門がメインでオンボーディング等活動してくれていますが、マーケティング部門でもユーザーコミュニティイベントの開催やユーザー向け勉強会、事例制作などを実施しています。また、既存企業に向けてアップセル(サービスの追加提案)やクロスセル(別サービスの提案)をCSが担ってくれています。
②ハウスリスト
ハウスリストへのアプローチの目的はいわゆる「ナーチャリング」です。ターゲット企業の担当者やキーマンの自社商品・サービスへの興味関心を高め、商談セットや案件促進を行うことが目的となります。その一環として、未商談・失注商談リードの掘り起こし施策があります。
マーケティング部門としても、ぼくたちはこの②ハウスリストの領域に対する施策づくりと実行にかなり力を入れています。
もちろん④ホワイトスペースで「新規開拓」を目的として、新たな接点づくり、マーケット開拓も重要な役割ではありますが、ゼロイチで興味喚起を行う新規の活動よりも、過去に集客しすでに接点があるハウスリストの企業に対して啓蒙していく活動の方が、圧倒的にマーケティングや営業の生産性は高いと考えています。実際にFORCAS事業の受注の多くは、掘り起こしから生まれています。
そのため、ハウスリストのナーチャリングを目的とした施策は、マーケティングとインサイドセールスチームが協力しながら実行しています。施策マップで施策ごとの目的と役割分担を明確化できることで、部門間においても一体感を生み出し、連携を強めていくことができます。
尚、ぼくたちの場合、その中でも重視しているのが「自社セミナー」です。セミナーによるナーチャリングプロセスの設計については別noteでも書いているので、ご興味あればご覧ください。
ABMマトリクスでの状況可視化で施策の目的と選定が明確化
このように、ABMマトリクスを基に、セグメントから目的を明確化し、その目的に合った施策を洗い出し、それを担う実行部門を決めて、全体の施策マップを設計します。これによって、自分たちの動く指針と具体的な施策の筋道が立てられるようになります。
まずアプローチする対象(Who)を特定し、対象企業との関係性を深めるために目的を設定し、施策を実行していく(What, How)。このスキームが構築できれば、目的が明確でないまま手段ファーストでの施策実行などを防ぎ、より生産的・効果的なマーケティング戦略と施策の実行が可能です。
ちなみに、ぼくたちが実行しているマーケティング戦略の施策設計で、上記の施策マップから顧客体験ベースにフロー化して落とし込んだものがこちら↓です。
以前ご紹介したナーチャリングプロセスの記事の時からさらにアップデートしています。このプロセスについては今回は詳しくは触れませんが、ABMマトリクスをつくり、そこから施策マップに落とし込んで可視化のプロセスを回すことで、より具体的な施策設計をつくりだせます。そして、顧客と顧客との距離感の解像度が高まることで、結果的に顧客にとってもより良い体験設計をつくることができるでしょう。
また、施策実行段階での具体的な企画づくりの方法については、別記事でイベントの企画づくりを例にご紹介しているので、よければそちらもご覧ください↓
おわりに:常に「顧客視点」で設計することを忘れない
ここまでマーケティングの全体戦略と施策への落とし込みについて、ぼくたちの実践を元に書いてきました。おわりに、戦略&施策づくりにおいて注意すべき点を書きたいと思います。
ABMマトリクスをつくり、施策マップを整備していくプロセスは、自分たちの状況を「見える化」していくプロセスと言えます。自分たちの組織の状況、データ環境の構築状況、目的認識の度合い、ターゲット企業に対する解像度の高さ、顧客との関係性、さまざまな観点で自分たち自身を振り返り、自己認識を高めていく工程です。これは自分たち自身と組織の成長にとってもとても良い機会だと思いますし、ぼくたちも日々仮説と実行を繰り返しながら、改善サイクルを回しています。
しかし、常に意識しておかなければいけないことは「すべてのプロセスを顧客起点で考える」ことです。
最初のターゲット顧客の特定の際も、「自社にとって都合の良い顧客はどの企業か」を考えるのではなく、「最も自社の製品・サービスを必要としてくれる顧客はどんな企業か」を考えるべきです。施策設計をする際も「ターゲット企業に対して自分たちはどんな施策をつくりたいか」ではなく、「対象となる企業はどんな企画やコンテンツがあれば喜んでくれるか」という発想を起点として設計するべきだと考えています。
これは単に「顧客に対して思いやりを持とう」ということを言いたいわけではなく、顧客視点で考えなければ、どれだけ工数や予算をかけたとしても、自分たちの想定した目的を達成しうる施策は実現しないからです。
相手の求めていることを理解せず、自分たちよがりでつくった施策(これを「for meな施策」と呼んでいます)は、どれだけターゲット企業を特定したとしても、相手に響かず、行動喚起は生み出すことができません。その結果として求める成果も得られません。
だからこそ、自分たちの戦略や施策を設計する際は、常に「for you」の観点を大切にしています。これはぼくたちのチームでもメンバー同士の合言葉でもあります。データやフレームワークも大切ですが、それを用いる際の思考、for youで常に考えることが最も重要だと思っています。
逆に、for youで常に思考して、ターゲティングと施策設計のプロセスをまわしていければ、ユーザーの皆さんに喜んでいただけ、自分たちにとっても最高の成果につながる施策の実行が可能になると信じています。
今回も長文お付き合いいただき、ありがとうございました。この文章が参考になれたのであればとても嬉しいです。では、今回はこのあたりで失礼します。
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