市場創造型マーケティングの鍵は「健全な危機感」を醸成する体験設計
こんにちは、酒居です。
今回はぼくたちのマーケティング組織での取組みにおいて、根幹においている考え方を書きたいなと思っています。
ユーザベースのマーケティング組織
ぼくたちユーザベースのマーケティング部門は、機能別統合をしておりユーザベースの各事業を横断的した組織です。
一方、顧客と直接会話をするインサイドセールスからカスタマーサクセス部門は、各事業ごとに存在しています。
マーケティング部門では各事業の担当チームを設置し、Webマーケやイベントマーケ、メールアプローチなど、様々な施策を各事業のインサイドセールス以降の部門と連携し、実行しています。
マーケティング戦略の核にある「コンテンツ体験」
ぼくたちのマーケティング戦略は、「顧客を中心としたコンテンツ体験」を核にしています。
とりわけ、オンライン/オフラインイベントや番組などの「イベントマーケティング」は象徴的な取り組みです。
各事業ごとに毎月2~4本程度のイベントや番組を企画・制作しています。
ありがたいことに、「H2Hセミナー」と呼んでいるオンラインセミナーでは毎回1,000~3,000名、今年から新たに事業化した「NewsPicks Stage.」というオンライン番組配信では毎回2,000~5,000名程度に登録いただき、視聴満足度は9割を超えています。
昨年2021年からはオンラインイベントの規模を拡張し、スタジオにてセットを構築し、収録形式で映像演出に力を入れたオンライン番組制作を開始しました。
昨年末には番組配信自体を事業化することが決まり、動画配信事業「NewsPicks Stage.」をマーケティング組織発で立ち上げています。
形態を進化させながらも、ぼくたちの根底には常に「体験」を通して、顧客に伝えたい世界観やビジョンを届けていくことが続けています。
その手段として、イベントや動画のマーケティング手法は大変強力な手段となっています。
なぜ、「体験」を重視したマーケティング戦略をとるのか
なぜ、ぼくたちがイベントや番組による「体験」を重視したマーケティング戦略をとっているのか。
結論から言えば、ぼくたちの事業が「市場創造型モデル」であり、体験を通した世界観の伝達がマーケティング戦略として最も効果的だと考えているからです。
マーケティング戦略はマーケットが「顕在」か「潜在」かによって変わる
まず、マーケットが「顕在」なのか「潜在」なのかによってとるべき方針は変わってきます。
ぼくの場合、対象顧客の状態で大きく「① 課題・ニーズが顕在化している(顧客が認識している)」ケースと「② 課題・ニーズが未だ潜在的(顧客がまだ自覚していない)」ケース、大きくこの2つに分けて考えています。
※ 本来は単純に分割されるものではなく、グラデーションがありますが、今回はあえて2つに分類しています。
「① 課題やニーズが顕在化している」ということは
需要が存在していると言い換えられることができます。つまり、「マーケットが既に存在している」と言えます。
逆に「② 課題やニーズが未だ潜在的(顧客が課題やニーズを認識していない)」という状態は、「マーケットが未だ存在していない」と言えるでしょう。
尚、新製品やサービスをプロダクトアウトで立ち上げていく際、この顧客課題やニーズが潜在的含めて本当に存在しているのかを見極められるかどうかが重要だと思います。
課題解決型と市場創造型による環境と戦略の違い
「課題解決型」と呼んでいる①のパターンであれば、顧客自身がすでに課題(Why)を認識し、その解決策を求めているので、その為のソリューション(What)をいかに早く適切に届けられるかが重要となります。
課題が顕在化していると、世の中で明確にそのニーズを検知することができます。
例えば、ここ数年、出社できずリモートワークが必要となりました。これまでのように出社してメンバーで集まることができない(⇒オンライン会議ツール)、取引先へ訪問して営業活動ができない(⇒オンライン営業ツール、電子印鑑等)など、リモートによる課題・ニーズが顕在化し、デジタル化の必要性(ソリューション)が叫ばれるようになりました。これは課題やニーズが顕在化した顕著な例と言えるでしょう。
その場合、例えばGoogleなどでの検索ボリュームも増加し、リスティング広告などでのインバウンドマーケティングもより加速できるようになります。
一方で需要が存在し、マーケットがあるということは、競合がすでに存在しているということでもあります。
つまり競合との差別化戦略をとり、自社製品のメリット独自性をどう伝えていくかの勝負となります。その中で認知拡大のためのテレビCMやタクシー広告などのマスマーケティングなども展開していくことが多いでしょう。
それに対して②の「市場創造型」の場合はどうか。
まだ課題やニーズが潜在的な状態とは、つまり需要がまだ表面化しておらず、マーケットがない状態です。その状況でどれだけ有効なソリューション(What)を伝えたとしても効果性は低いでしょう。
市場創造型の場合は、まず自社の製品訴求をダイレクトに行う前に、顧客自身が内在的に持っている課題やニーズを顕在化させる、言い換えればマーケットを自ら創り出すことが重要となります。
これは詰まるところ、顧客にとってのWhat(製品やサービスなどのソリューション)の前提となるWhy(目的・課題)に特化すると言えます。
逆に言えば、市場創造型フェーズにおいて、マーケットが存在しないということは競合他社もほとんど存在していないケースが多いです。
これは、マーケティング活動によって顧客に課題やニーズの喚起が適切にできれば、他社との比較にさらされることなく、ブルーオーシャンなマーケットで自ずと自身の製品が売れていく流れを創り出せる可能性が高いです。つまり、マーケティング戦略として、競合とのシェアの奪い合いにリソースを割かず、顧客にダイレクトに向き合える状態が構築できるとも言えるでしょう。
尚、上記タイプの違いは、事業やプロダクト自体の根源的な性質ではなく、プロダクトの市場形成フェーズによる違いという側面が大きいです。その為、市場創造型の事業やプロダクトであっても、事業が成長し、それに伴い市場が形成されていけば、徐々に課題解決型へと移行していくことになります。
「市場戦略型」におけるマーケ戦略を採る
上記の2つの事業タイプをふまえて、ぼくたちユーザベースの事業では「市場創造型」のマーケティング戦略を採っています。
例えば、我々が提供しているプロダクトの一つである『FORCAS』。
2017年にリリースした後、多くのユーザーの皆さんに支えていただいてるおかげで、事業成長することができています。
FORCASは事業開始当初、「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の実践を強力にサポートするB2Bマーケティングプラットフォーム」として開始しました。
しかし、その当時、まだABMという概念は国内ではほとんど言われておらず、そもそもABMの前提となる課題やニーズが顕在化されていませんでした。
そのような状況で、どれだけ「FORCASがABMの実践に不可欠なサービスですよ」「FORCASを使えばターゲティングの強度がさらに高めることが可能です」と訴求しても、それに対して「いいじゃん!前からずっと欲しかったんだよ」と応えてくださる方はそんなに多くいらっしゃいません。
つまり、顧客が課題やニーズがまだ潜在的な状態で、どれだけサービスメリットを訴求したところで、それはnice to have(あったらいいね)にはなったとしても、must have(なくてはならないもの)にはなりえません。
課題やニーズが潜在的な状態のフェーズでは、まず何よりもそもそも自分たちのプロダクトが解決可能な課題やニーズを顧客が認識してもらうことが重要となります。これをかっこいい表現をすれば「市場創造型」の事業フェーズだと言えるでしょう。
我々の事業・プロダクトは市場創造型モデルであり、市場形成フェーズとしてまだアーリーステージ。つまり、顧客の課題認識をつくりだすことに特化し、市場を自らカタチ創っていくことが求められると考えています。
市場創造フェーズでは「体験」による熱量醸成が重要
ではいかに顧客の課題感やニーズを喚起し、潜在的な需要を掘り起こし、マーケットを顕在化させていくのか。
そこで重要視していることが、「体験」を通した世界観の伝達です。
市場創造型のフェーズにおいて、人はまだ知り得ていないことをイメージし理解することは容易なことではありません。そのフェーズでどれだけテキストや言葉だけで伝えても、伝達の範囲にも限界があると思います。
そこで、その課題やニーズを自覚し、行動変容につなげていっていただくためには、体験を通して顧客自身が自ら体感し、熱量を創り出していただくことがとても大切だと考えています。
人はロジックではなく感情で動くもの。これはBtoCだけでなくBtoBも同様だと思います。BtoBは企業内のことであり、かつ複数人が介在するため、感情ではなく理性的なロジックでのアプローチが効果的ということはぼくは懐疑的です。
もちろんロジックは大切ではあるものの、人が何か意思決定をするとき、そしてあえて労力をかけてまで新しいことを取り入れようとする時、最初に心が動かなければ始まりません。
「このままではいけない」「これを使えばこんなことができるかもしれない」など、心の熱量が高まることで行動変容にまでつながっていき、その後にロジックが続いていくものだと思います。
つまり、感情の琴線に触れられなければ、能動的なアクションは期待できないし、行動変容にまで至りません。だからこそ、感情を動かすほどの熱量をいかに高めていけるかが重要となります。
尚、熱量の定義ですが、熱力学的に熱は分子の移動エネルギーであり、摩擦や加熱などによって発生し温度を変化させるものです。
ここで言う熱は熱力学的な運動エネルギーではないものの、同様に心理的な摩擦やギャップが生まれることで人の感情が動くという観点で同様に熱量という表現をしています。
熱量の2タイプ「期待感」と「危機感」
では、どのような熱量を生み出すことが大切か。
結論から言えば、「より強い感情へのアプローチ」が重要になります。
人にはさまざまな感情がありますが、体験を通じて人の感情の琴線にアプローチした際、人が感じる熱量の種類を大きく2つに分けると「期待感」と「危機感」があると思います。
「期待感」とは「わくわく」した気持ちとも言えます。「こんなことができたら楽しそう」「あんなことをやってみたい」など、それが実現できたとき・手に入れることができたときの状態をイメージして高揚する感情です。
一方で、「危機感」とは「やばい」という気持ちです。「このままではまずいのではないか」「自分だけ取り残されている。どうしよう」など、不安や恐れを感じて「このままではいけないな」というような感情です。
(「腹が立つ」や「ショック」という感情もありますが、ここではマーケティング施策に落とし込む際にイメージしやすい2つタイプに簡易的に限定しています)
では、上記2つでいえば、どちらの方がより強く心の琴線を刺激し、行動変容につながるほど強力な熱量を創り出す素になるのか。
それは「危機感」です。マズローの欲求5段階説などでも語られるように人の生存本能として、危機感の方が期待感に勝る強い原動力となります。
例えば、小学生時代の夏休みの宿題で言えば、「休みの最初に宿題をやってしまえば休みをゆっくり満喫することができるだろう(⇒期待感)」という気持ちは理性的にも正しく思えますが、結果行動につなげることは難しいです。
逆に、夏休みが終わる直前で「やばい。このままだと宿題が終わらない(⇒危機感)」という状態になってはじめて動くという経験をされた方は多いのではないかと思います。(ぼくもそう)他にも試験勉強など、学生時代を回想するとわかりやすいです。
人が自身の考えを再考し、さらに自らの行動自体を変える(新たに動き出す)ことは並大抵のことではありません。
つまり、それほどその方の心の琴線に触れることが必要であり、そのためにはより感情を動かす高い熱量を醸成できる体験を創ることが重要となります。
それが「危機感」を醸成する体験をつくることになります。
(※ここでは簡易的に2つのタイプに分けていますが、わくわくと危機感は完全に別物ではなく、同時に抱くこともあると思います)
行動変容につなげる体験には「健全な危機感」が重要
しかし、「危機感を醸成する体験をつくる」というと、少しあやしげというか、相手の弱みに漬け込んで操ろうとしているような悪いイメージを持つ方もいらっしゃるのではないかと思います。実際に危機感を醸成する体験づくりは強力なパワーを持っている分、正しい目的や理由でつくらなければいけないと思います。
そこで、ぼくたちが大切にしているのは「健全な危機感」を醸成することです。
悪い危機感の醸成とは、for meな観点で私利私欲をベースにしてその体験をつくることです。それは顧客との信頼関係を築く上でやるべきではないと思います。
一方で、健全な危機感の醸成とは、for youの観点を重視し、顧客にとって本当に必要だと感じていただけると自分たちが信じられるものをつくっていくこと。それも自分たちの独りよがりで良いというものを押し付けるということではなく、顧客中心で相手の立場になって、何が本当に必要なのかを考えられていること。そして、その相手や企業の仕事や成長にとって重要となる課題を認識してもらえる体験をつくることが大切だと考えています。
つまり、健全な危機感かどうかは、相手の立場に立って(for you)その課題感を醸成できているかになります。
体験づくりは「説得」ではなく「共感」をつくる場
また、注意点として熱量を醸成するということは、顧客の感情をコントロールしようということではありません。そもそも人の行動を無理やり誘導したり、感情を操ることはやるべきではないですし、できないと思っています。
体験を通じて伝えるべきなのは、「説得」ではなく「共感」です。
どれだけ強く相手を制御しようとしたとしても、本人が自ら望まない限り、人の気持ちは変わりませんし、その結果行動変容は生じません。
このことについては以前に書いた記事が参考になると思いますので、よければご覧ください↓
健全な危機感を醸成する「カスタマーストーリー起点」での体験設計
では、健全な危機感を醸成するためには、具体的にどのように体験を設計するのか。
ぼくたちは「カスタマーストーリー起点でマーケティングストーリーをつくる」ことが重要だと考えています。カスタマーストーリーとは、顧客対象となる方々が実際に取り組まれている課題やテーマ、その思考などを指します。また、顧客が契約いただき、製品やサービスを利用していただいた後に体感する顧客体験のことも含みます。
どれだけ相手の立場に立って考えようとしても、マーケティングストーリーを単独で考えてしまうと、どうしても現実のカスタマーストーリーと乖離が発生してしまったり、意図せず自分たちよがりな夢物語を語ってしまう危険性があります。
顧客に対して健全な危機感を醸成するためには、机上の空論となる危険性を避け、カスタマーストーリーをベースとしたマーケティング戦略の設計、体験づくりが重要となります。
それが実現できれば、自ずと顧客とも嘘のない関係性を契約前の新規開拓の段階から築いていくことができると考えています。
健全な危機感を醸成する最大のコンテンツ「他社事例」
ここまで書いたように、顧客に潜在的な課題・ニーズを自ら見つけ出していただき、行動変容につなげていっていただくためには、顧客の心の琴線に触れる強い感情の変化が必要です。
その感情の変化をつくりだす素となるのは熱量であり、中でも健全な危機感を醸成することが体験づくりにおいて最も大切になります。
その健全な危機感を醸成できる体験づくりの根本には、カスタマーストーリー起点でマーケティングストーリーをつくりだすことがあります。
では、カスタマーストーリーをマーケティングストーリー、つまりマーケティング戦略や施策に反映するためには具体的にはどのようなコンテンツが必要となるか。
それが「他社事例」です。
特に日本企業においては海外と比較しても「他人がどうしているか」は多くの人が自身の判断材料にしていると思います。
それくらいに他の方の具体的な考えや取組みには大きな影響力があります。(弊社代表の佐久間も「ユーザー事例はコンテンツの王様だ」という話をしています)
他社事例が大切なことは、単に有効な情報を手に入れられるということではなく、健全な危機感の醸成に直結することです。
「知らなかったけど、他社はこんなに進んでるのか」
「世の中にはこんな思考でこんなすごい取組みをしている人がいるのか」
このような感想を抱いてもらえれば、単に有益な情報収集ということに留まらず、顧客の健全な危機感という熱量醸成をダイレクトに生み出してくれます。だからこそ、ぼくたちは他社事例をベースとしたコンテンツ体験を徹底的につくりこんでいます。
事例の範囲を自社製品に限定しない
尚、事例といえば、通常顧客やユーザーの活用事例や導入事例などが代表的でしょう。実際に製品の導入事例は強力な武器になります。これはマーケだけでなく営業活動含めて、いかに事例を活用できるかは重要なコンテンツです。
しかし、ぼくたちはこれを狭義の事例として、さらに事例の定義の幅を広げています。つまり、「自社の製品やサービスの活用有無に留まらず、顧客が参考となりえる対象の企業や人物の思考や取組みのリアル」を顧客事例として定義しています。
これは市場創造型では直接的な製品(What)の訴求が効果的ではなく、その前提となる課題やニーズの喚起(Why)が重要であり、その課題やニーズを想起していただくものを他社事例として考えることが有効だからです。
実際にぼくたちのイベントや番組では、直接的にサービスを訴求するコンテンツはほどんどなく、その前提となる課題やニーズをテーマとして取り上げています。(例:SPEEDAでいえば新規事業開発や技術開発、コーポレートファイナンスなど)
他社事例を伝える仕掛けを各所につくる
実は他社事例とはイベントや番組のテーマや出演者など企画の「中身」だけに話はかぎりません。
ぼくたちは、リアルイベントやオンラインセミナーの中で、ユーザーの声(事例)を体験の中に組み込む工夫を各所で実施しています。
別の記事で書いたのですが、我々のイベントは新規見込みの顧客だけでなく、多くの既存のユーザーさんにもご参加いただいています。これも参加者同士でユーザー事例を理解していただく一つのカタチです。
また、オンラインイベントにおいては「チャット」の活性化を何より重視しています。実際ありがたいことに我々のイベントではチャット欄で数百件以上のコメントをいただき、双方向だけでなく、視聴者同士のコミュニケーションも活発に行っていただくことが多いです。
「自分と同じように視聴している人たちもこんなにすごい人たちがいるんだ」「同じ悩みを持っている人たちがこんなに真剣に考えているのか」視聴いただいている方がこのように感じていただければ、それは「健全な危機感」の醸成につながる体験になります。
オンラインイベントでの事例の取り入れ方については、これだけで長くなってしまうので機会があれば別途書きたいなと思います。尚、リアルイベントでの取組みは一部こちらの記事でも紹介しています↓
体験から生まれる熱量の総和は、足し算ではなく掛け算
ここで体験づくりにおいて大切にしている、かつ注意もしている点について書きます。
それは、体験から生み出される熱量とは、体験を構成するそれぞれの要素(変数)を加点式で足し算した総和ではなく、掛け算で組み合わされた総和であることです。
イベントにはそれを構成するさまざまな要素(変数)があります。
その要素一つずつはささいなことだとしても、細部にこだわり、ポジティブな変数を増やしていけば、足し算式ではなく掛け算式で一気に熱量は伸ばすことができます。徹底して体験づくりを行う意義はここにもあるでしょう。
体験づくりが掛け算であることはリスクでもある
一方で、体験による熱量が掛け算で醸成されることはポジティブな反面、諸刃の剣となります。
掛け算で生み出されるということは、逆を言えば一つの変数でもマイナス要素があれば、一気にその体験がネガティブな方向へと振れてしまいます。
例えば、セミナーにおいても、どれだけセッション内容に力を入れてスライドを準備し、登壇者をキャスティングして、良い情報を届けようとしていても、入場時の受付スタッフの対応が悪かったり、座席が窮屈で話に集中できないなどが一つあれば、その方にとってのセミナー体験はネガティブなものになってしまいます。
だからこそ、一つ一つの変数を徹底し、細部までこだわって、コンテンツを体験していただく顧客一人一人の立場に立って、最高の体験を創ろうと努力していくことが大切だと考えています。これをぼくたちは「for you」という共通ワードで社内でも企画の際に話し合っています。
「体験の連続性」が伝えたい「世界」をつくる
体験づくりが掛け算であるということは、単に一つの施策の中身に閉じたことではありません。
体験によって醸成する熱量は一時的に高まったとしても、その熱量を温め続けなければすぐに消えてしまう繊細なものです。これはエントロピー増大の法則という熱力学の観点からも言えることでしょう。コンテンツ体験を通して顧客の熱量をいかにつくり出し、その熱量をどう変換していくか。その設計が大切です。
そこで、ぼくたちが重視していることが「体験の連続性」です。
どれだけ多数の体験を企画設計し実施したとしても、体験した方にとって施策ごとの関連性が弱く、断片的なものであれば、熱量の維持・恒常的な増加はできず、そこで冷却・途絶えてしまいます。その方が次の体験へと円滑に移動し、熱量を継続的に高めていくためには、いかに施策の世界観を統一できるか。つまり、体験に連続性を生み出せるかが肝心です。
施策一つ一つは顧客との点でのつながりだとしても、体験の連続性をつくることで、点をつないで線や面の形でのつながりへ広げることができます。そして、連続性があるということは、戦略が紡がれたストーリーとなり、体験が自分たちが伝えたい世界を創り出せる根底になります。
体験の連続性は、自分たちが伝えたい世界観やビジョンの世界を顧客に共有し、イマーシブな体験をしていただくためにとても重要だと考えています。
体験の連続性の一例として、コミュニティとイベントを接続し、それぞれを連動させることで顧客の熱量を生み出す取組みをしています。
こちらは以前に別の記事で書いているのでよろしければご覧ください↓
セミナーとホワイトペーパーとの連続性をつくっている施策の例はこちら↓
クリエイティブや空間演出も連続性を意識
ちなみに、体験の連続性をイベントやコミュニティで実現していくためには、デザインの力はとても大切だと考えています。
これは最初の接点となるイベント広告バナーに始まり、キービジュアル、そしてイベントの空間デザイン、グッズなどのクリエイティブなど、体験実装に関わる全てにおいて言えます。
ぼくたちもデザインに対してはマーケティング組織を開始した当初から重視し、デザイナーのメンバーとともに、試行錯誤とアウトプットを続けています。
体験は目的に適ったデザインをつくることで、自分たちの伝えたい世界観を紡いでいくことができるようになると信じています。
イベントは市場創造型マーケティングにおける最高の手段
以上、長々と書かせていただきましたが、ぼくたちが実践しているマーケティング戦略をまとめます。
ぼくたちの事業はフェーズとしても課題やニーズが顕在化しきっていない、いわゆるマーケットが未だ存在していない領域に取り組んでいます。そのため、とるべき戦略として、課題解決型ではなく市場創造型のマーケティングを方針としています。
市場創造型モデルのマーケティングでは、自社の製品をダイレクトに見込み顧客にアプローチしても、未だ相手が課題やニーズを実感していないため、必要性を理解していただくことは難しい。そのため、いきなりソリューション(What)を届けるのではなく、その前提となる課題やニーズの喚起(Why)に注力することが戦略の軸になります。そして、課題やニーズの喚起は単なるロジックで実現できるものではなく、その人の心の琴線に触れ、行動変容につながるほどの強い感情の変化を感じていただくことが最初に重要になります。
その感情の変化をつくりだす素となるのは熱量であり、中でも「健全な危機感」を醸成することが大切です。そのために、とるべき具体的な戦術が、オンライン/オフラインイベント、さらにそこから進化した番組配信という、「体験」を軸にしたイベントマーケティングです。
そして、健全な危機感を醸成できる体験づくりには、カスタマーストーリー起点でマーケティングストーリーをつくることが根本にあり、具体的な方法として「他社事例」をベースとしたコンテンツ体験が目的に適ったマーケティング施策の実現につながります。
ぼくたちもまだまだ試行錯誤の連続ですが、社内の仲間やユーザーの皆さんとともに今後もマーケティング戦略のさらなる進化を実践していきたいと考えています。
尚、今年2022年9月末に数年ぶりに数百人規模のリアルイベントを開催しました。参加者の方々とリアルで対面できる楽しさを改めて実感しています。
今後の状況はまだ分からないものの、リアルイベントが国内全体でも再開されていく流れは徐々に進んでいくと思います。ぼくたちもリアルでも顧客にとって最高の体験をしていただける空間として、これからも本格的に再始動していこうと考えています。
おわりに:ぼくたちのバリュー「User Driven Marketing」
最後に、ぼくたちのチームが大切にしているバリューをご紹介したいと思います。
ユーザベースには「7 Values」という自分たちの価値観をまとめた原則があり、ぼくたちはそれをベースにした「バリュー経営」を実施しています。
バリューは「在りたい姿」や「目指すべき理想像」ではなく、自分たちの在るがままをそのまま言語化したものです。自分たちとの乖離がないからこそ、無理がなく、進む道の選択に悩んだとき、何かに困ったとき、バリューは自分の道標になります。ぼくもこのバリューの考え方が大好きですし、とても大切にしています。
そして、ぼくたちマーケティング組織では、この7 Valuesとは別に自分たち独自のバリューをつくっています。この言葉も半年以上かけて、チームメンバー皆で話し合ってつくってきたもので、今も更新し続けています。(つい最近新たにアップデートしました)
その中でも最も重要視しているのが「User Driven Marketing」です。
顧客体験を中心に据えて、徹底的にfor youなコンテンツをつくる。
これは今回書いた通り、ぼくたちの事業上とるべきマーケティング戦略でもありつつ、何よりも自分たちが自分たちらしく仕事をしていくためのモットーです。
これからもユーザーや関わっていただく皆さんとの共創を大切に、かつ楽しみながら、引き続き事業とユーザーの皆さんに向き合っていきたいと思います。
おまけ:戦略を具体的な施策設計につなげる
今回はぼくたちが実践しているマーケティング戦略の根幹を書きました。一方、ここから具体的な施策設計にいかに落とし込むのかも合わせて重要になります。
その企画設計に関しては別の記事で書いているので、よければそちらも合わせて読んでいただければと思います↓
今回も長文読んでくださり、ありがとうございました。
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