その日、彼女と私の”時が止まった”
ある秋の日、彼女はやってきた
とびっきり明るい笑顔を輝かせて
「まるで大輪の花のよう」
そう私は感じた
誰もかれもが彼女に魅了され
彼女の周りは笑いに包まれ、まぶしかった
違う部署に配属され
お互いに挨拶程度の付き合いの日々
取り巻きに囲まれた彼女に
私の視線は止まる
「いつか仲良くなれるかな?」
すれ違ったまま月日は流れ
しだいに周囲と距離を取り始めた彼女に気づく
いつの間にか社内の空気が微妙に変わっていた
気になりながらも
知らないふりを続けていた私に
彼女がそ~っと話しかけてきた
「ずっと話したいと思っていたの」
彼女の言葉に私は驚いた
実は自分もそうだったから
ふたりとも周りの視線に気をとられ
自分の気持ちを出す機会を失ったまま
他人の関係を続けていたのがわかり
ふたりして笑いあった
ようやく少し近づけた喜びに包まれ
「友だち」としてのスタートに立った私たち
彼女の笑顔がすぐそばにある
彼女の声が耳のそばで響く
あこがれ続けた半年という時間は
ふたりの心を引きつける要素だったのかもしれない
「あぁ、こんなふうに話すのをどんなに夢見ていたか」
私の心は満たされた
秘密めいたふたりだけの会話
胸のうちを明かせる親密さは
日を追うごとに増していく
友情の楽しさ、素晴らしさに
胸をときめかし
「いつまでもこのままで」
「これからもずっと」
その言葉が自然と沸き上がる
不毛な日々の果てに待っていた
友との濃密な時間は
続くはずだったその日まで
そして、予期せぬ突然の別れ
引き裂かれた友情
「これからだったのに」
**
彼女の苦境に手を差しのべた私
熱い涙が彼女の頬をつたいおちた
「大丈夫、私がいるから」
その言葉に「うん、うん」とうなずく彼女の
腕に手をかけ
力を込めた
**
あの笑顔は行ってしまった
永久に手の届かない所へ
最後の時まで意識が戻らなかった彼女は
私のことも忘れたままだっただろうか
一緒に笑いあった思い出を残して
その日、彼女と私の時が止まった