映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』
ルイーザ・メイ・オルコット原作の映画化。
南北戦争時代に花開いた、4人姉妹の歴史に残る青春群像劇
主演はシアーシャ・ローナン。
長女メグにはエマ・ワトソン、末っ子エイミーに「ミッドサマー」でブレイクを果たしたフローレンス・ピュー。
1994年公開のジョー役ウィノナ・ライダー主演作がありましたが、もう26年も前なんですね。月日が経つのは早いものです。
でも、名作は何度観ても素晴らしい!
本作は2018年に「レディ・バード」で初の単独監督作を世に送り出したグレタ・ガーウィグ監督の最新作です。
「レディ・バード」に続いての主演となるシアーシャ・ローナンとの相性も抜群。
シアーナなくしてはこの映画はあり得なかった、と思えるほどの存在感は圧倒的でした。
まさに神がかり、とも思える熱演は観客の胸を熱くさせてくれるでしょう。
マーチ家の牧師である父は戦争に行ったまま。家を守る母と4姉妹の日常が丁寧に描かれます。7年前の過去と現在を行き来する手法で、時々「あれっ、これはいつの時代だった?」と、勘違いも出てきちゃいましたが、楽しさは変わりません。
長女メグは、当時の女性の典型的な生き方である「結婚」への希望を抱いています。3女のベスは病弱で、しとやか。でもどこか芯の強さを秘めていて、ピアノを弾くのが好き。末っ子エイミーは、2人の姉と同じことがしたくてたまらない活発な少女。そして、次女のジョーは作家を夢見る、しっかりものの行動派。
そんな彼女たちの生活は素朴ではありますが、家族としては理想的な姿を体現していて、観客に安心感を与えてくれるのではないでしょうか。
出版社に自分の原稿を持ち込んで一喜一憂するジョーの等身大の姿は、現代女性にも通じる普遍の生き方にもつながるような気がします。
現代とは違い、女性の地位は低く、参政権さえも与えられていない時代に、自分の力で道を切り開こうとするジョーが、困難をものともせず、前を向いて歩き続ける姿に勇気づけられますよね。
4姉妹のファッションにも注目。
衣装デザインを担当したジャクリーン・デュランが、2020年アカデミー賞<衣装デザイン賞>を獲得しました。
劇中、メグがどうしても欲しいグリーンの生地を、夫に内緒で注文するシーンがあるのですが、その長さが「14m」!というセリフに驚愕しました。
当時のドレスにはどれほどの生地が使われていたのでしょうか?
また、子どもが何人もいる貧しい家庭に、クリスマスの朝、マーチ家が食料を届けるシーンには涙が出てきます。そんな彼女たちの善行を見た隣家の富豪でありジョーの親友ローリーの祖父ローレンス氏が、マーチ家にごちそうのサプライズをします。
心優しい人たちにはちゃんとご褒美が待っているのですね。
大人へと成長した4姉妹のそれぞれの現在が織りなす新しい未来は、現代の私たちの未来にもつながっているような気がしています。自分らしく、自分なりの人生を切り開く…
これこそが本作が伝えたかったことなのかもしれません。
原作者のルイーザ・メイ・オルコット(1832-1888)は、ペンシルベニア州フィラデルフィアで生まれ、1844年にボストンへ一家で移住。
「若草物語」1868年出版
「続・若草物語」1869年<ジョー小説認められる・エイミーとローリーが結婚>
「第三若草物語」1871年<ジョーはベアと結婚、全寮制プラムフィールド学園運営開始)>
「第四若草物語」1886年<10年後にプラムフィールドは大学になる>
「若草物語」が四部作にもなっていたことは知りませんでした。
ちなみに、草分け的存在として有名な女性作家を何人か挙げてみましょう。
「ジェーン・エア/1847出版」シャーロット・ブロンテ:1816-1855
「嵐が丘/1847年出版」エミリー・ブロンテ:1818-1848
「赤毛のアン/1908年出版」ルーシー・モード・モンゴメリー:1874-1942
「名探偵ポアロ(スタイルズ壮の怪事件で初登場)/1920年出版」アガサ・クリスティー:1890-1976
こうしてみると、ブロンテ姉妹は別として、オルコットがいかに早い時期に作家活動を始めたのかがわかりますよね。
さて、この作品のエピソードをさらにいくつか拾ってみましょう。
長女メグ
女性らしく、幸せな結婚を夢見るメグは、社交界のダンスパーティーに出かけますが、ある女性から地味なドレスをからかわれます。
そこへ親切な別の女性からピンクのドレスを譲ってもらい、ダンスを楽しもうとしますが、居合わせたローリーに「そのドレス、好きじゃない」と言われ、傷つきます。
それでも、気を取り直して貴重な機会である、優雅なダンスパーティーを楽しむことができたのでした。
メグは晴れて隣家のローレン家の家庭教師ジョン・ブルックと結婚。
次女ジョー
姉妹で作った「家族劇団」でも子どもたちを楽しませる才能を発揮。
隣家のローリーとも親しくなりますが、彼の愛の告白は、作家になる夢を打ち砕く障害としか受け取れない苦悩を味わいます。
母にもその気持ちを打ち明け、「女の幸せが結婚だけなんておかしい。絶対に間違っている!でも、どうしようもなく孤独なの…」と心の内をさらけだす姿は圧巻でした。
その根底には、出版社に自分の家族を題材にした原稿を持ち込んだものの、「ジョーは結婚しなくてはいけない」という押し付けがあり、そのことにぬぐいがたい違和感があったのです。
また、遠い戦場で病気になった父の元に駆けつける母の旅費の足しにと、自分の美しい長い髪を切り、費用を捻出した決意からは、家族へのゆるぎない深い愛情が感じられました。
3女ベス
4姉妹のなかでただひとり物静かで内省的な女の子。
家でピアノを弾くことが何よりの楽しみなベス。そんな彼女に隣家の大富豪ローレンスから自宅のピアノを弾く許可をもらい、お礼を言いにローレンス家を訪れます。
そして、そばの階段で静かにピアノを聴くローレンス氏の表情がとても印象的でした。
その後、ベスは彼から新しいピアノを自宅に贈られました。ベスの生涯で最高の贈り物になったでしょうね。
4女エイミー
ある夜、メグとジョーと一緒に出掛ける許可をもらえなかった腹いせに、ジョーの大事な手書きの原稿を焼いてしまったエイミー。それほどまでにくやしかったのでしょう。
やがて帰宅したジョーが2階の自分のタンスの中にしまってあった原稿がなくなっていることに気付き、1階に降りてきてエイミーを問い詰めます。
憤然と椅子に座り、「焼いてしまったわ」とあっさり言い返す彼女への、ジョーの凄まじい怒り…
そうですよね。現代のように、コピーを取るとか、パソコンに入れてあるわけではないので、一度失ったらもう二度と取り戻せないのですから、ジョ―の怒りはもっともですよね。
私もエイミーが原稿を焼くシーンを観ていてハラハラしました。
もうひとつのエピソードは、エイミーがマーチ叔母のお供でパリに行っていて、ローリーと再会するシーンです。
どうやらエイミーはローリーが好きだったようで、突然彼女への愛を語るローリーに、「2番目に好きはイヤ」と言います。
彼女はお目当ての、なじみの青年からのプロポーズを心待ちにしていたのですが、どうやら本心は別にあったようで、揺れる女心が微妙に表現されていて、強気な女の子としか映らなかったエイミーの、人となりが伝わるシーンでした。
そして、「絵を描くのが好きでも一流の画家になる実力はない」と悟り、自分の進路を真剣に考える時期に来ている彼女の決意が表れているのは、ローリーを描くシーン。
ローリーに自分の胸のうちをさらけ出しながら、密かに自問自答を繰り返すエイミーに、ローリーの気持ちがさらに傾いていくのがわかりました。お似合いのカップル誕生の瞬間です。
マーチ家での賑やかな家族のだんらんは騒がしくもあり、微笑ましくもありでとても好感が持てました。さらに、家政を助ける使用人にも恵まれ、まるで家族のように共に笑い、共に泣き、一家が寄り添うあの時代の空気感を蘇らせてくれるものでした。