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いつか目覚める日まで

「忘れ方を教えて欲しい」

 そう思ったことは、これまで何度もあった。そのたびに思い直し、忘れてはいけないものだと思い出させてくれたのは、君の寝顔だった。

 兄と義姉が死んだあと、物心もつかぬ君を奪うように引き取って家を出た。取り返そうとやってきた親戚たちも追い返し、縁を切った。そうすることは、果たして君にとって幸せだったのだろうか。

 男手一つで育てたことで、至らぬ点も多々あったと思う。幼いころからいらぬ苦労もさせてしまった。よくも逃げ出さずにいてくれたものだと思う。

  年を経るごとに、いまでは日ごとあの人に似てくる君、いつかあの人になってしまうのか。君の頬を撫で、寝顔に語り掛ける。もう少しだけ、このままでいさせてほしい。いつかやってくる、その日まで。

  僕の心からの願いだ。ゆっくりでいいよ。



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