第二回小説大賞

【コラボ作品】Si on allait danser?

 空はよく澄み渡り、風は(普段よりも、この街にしては)穏やかで、こういった日は野外で商売する者たちにとっては絶好の日和である。特に、旅回りの芸人にとっては。

 何日か前この街にやってきた旅回りの楽士は、その確かな技術と歌声、絶世とまでは言わずともまずまずの美貌でたちまち人気となり、最近この街では仕事帰りには街の中央にある広場に立ち寄って歌と演奏を楽しむことが流行していた。

 ところがその日はいつもと様子が違っていた。彼女の使う楽器は小さなオルガンのような鍵盤楽器であり、大きさの割にはまるで魔法でもかかっているかのように音が大きく、かと言って不思議とうるさくは感じず遠くまで響くものであった。しかし、その日に限って肝心の唄声が聞こえてこない。

 聞けばこの街に吹く砂風に喉をやられてしまったという。普段からこの街に暮らし慣れていれば気にもなるまいが、この街まで長旅をした疲れもあったのだろう。まったく声を出せぬわけではないにしろ、大事な商売道具を壊してしまっては元も子もない。さりとて街へ出て芸をせねば収入が途絶えてしまうのだからただ宿で寝ているわけにもいかず、また自分の歌を楽しみに毎日のように通ってくれる客を思えばせめて演奏だけでもと出てきたのであった。

 歌えぬからと言っても自分にはまだできることがある。手を抜くわけにはいかぬ。今までにもこんな程度のことは、いやもっとひどい状況の中歌わねばならぬこともあったのだからと楽士の演奏にも力が入る。その演奏は普段にもまして見事なものであった。

 しかしながら、やはりというべきかここ最近楽士の歌と演奏を聞き続けて耳の肥えてしまった客にはやはり物足りなかったようで、今日は立ち止まる客も少なく、そうなれば当然入れ物代わりにと楽士の前に置かれた帽子に投げ入れられるチップも普段と比べれば少ないものであった。

 ひとしきり演奏をした楽士は、さすがに今日はそろそろ仕舞にしようかとこれで最後の曲、と演奏を始めた。その曲は彼女の持ち歌の中でも一番人気で、客の中にはわざわざ頃合を見計らってこの曲を聞くためだけに来るものもいるほどであった。だが歌がないのでは、今日は客を引き留めることもままならぬ。やってきた客の中には足を止めることもなく引き返してしまうものもいた。その様子は演奏の傍ら楽士の目にも入ってはいたが、それでもいまさら演奏をやめるわけにもいかぬ、

さあ踊ろうよって ピアノが歌いだすの
楽しそうに笑って あなたも踊りだすの

 そのとき、どこからか歌声らしきものが聞こえてきた。当然、楽師のものではない。


世界が こんなに キラキラしてて
あなたと 私を 照らしてるから

  その歌声と来たら楽士とは到底比べ物にならぬひどいもので、毎日のように歌を聞いて覚えてしまったのであろう歌詞はともかく音程は定まらず調子は度々はずれ、とても聞けたものではなかった。しかしとにかく楽しそうではあった。さて誰がと見れば毎日のように酒場に入り浸っている酔っ払いで、普段ならばそんな声が聞こえてくれば演奏の邪魔になると周りの者に止められるのであろうが、今日は楽士の歌もなく、その歌声があまりにも楽しそうであったために、他の者もついというべきかその気になったのであろう。

踊ろう 踊ろう このステージで
踊ろう 踊ろう 私といっしょに
あなたの リズムは 空を駆け抜け
あなたの リズムで 世界は変わる

 続いて聞こえてきた歌声は、少女のものであった。もちろん楽師の歌声とは比べるべくもないが、もちろん先の酔っ払いとは比べるのが失礼なほどである。そして、少女の歌声を合図としたかのように老若男女問わず、酒場の店員も客もたまたま通りがかっただけの通行人も、その場にいたものすべての者が楽師の演奏に合わせて歌いだした。ある者は手を叩き、ある者は足を踏み鳴らしリズムをとって。あるいは皆、この機会を待ち望んでいたのかもしれぬ。楽士ほどではないにせよ、歌自慢喉自慢というものはどこの町にもいるものだし、たとえ決して上手とは言えずとも、大きな声を出して歌うことは気持ちのいいものである。そうなれば楽士の演奏にもますます力が入りそれを聞いてまた人々は歌う。中には踊りだす者もいた。帰りかけた客も引き返して加わり、声を競わせるように歌う客たちと楽師との様子は、さながら一つの楽団、劇団のようであった。

あなたは あなたの 思うがままに
自由に まっすぐ 進めばいいから

踊ろう 踊ろう 魔法のメロディ
踊ろう 踊ろう 私といっしょに
あなたと わたしが 歌い踊れば
世界は こんなに キラキラしてる

 その後は誰もが酒を酌み交わしあるいは歌い踊り大いに盛り上がったもので、その日早く帰ったりたまたま広場に行かなかったものたちは、のちに様子を伝え聞いて「自分も参加したかった」などと大層くやしがったものである。

苦しみや つらさなんか
ぜんぶ踊って忘れよう
踊ろう 踊ろう こんなに世界は
踊ろう 踊ろう 素晴らしいから

  興に乗った楽士の演奏はそれから何曲か続き、客たちも大いに楽しんだが楽しかった時間もいつか終わるときが来る。気づいてみれば帽子には普段よりもかなり多いチップが投げ入れられており、酒の勢いであろうか高額の紙幣までもが入っていた。これだけあれば喉に効く薬も買えるし普段の木賃宿よりもいい宿に泊まることもできるだろう。この機会にゆっくり休むかどうかは、今日の盛り上がりを考えれば悩むところではあったが。

 帰り支度の最中、楽士はふと思いついて最初に歌いだした酔っ払いを探した。記憶を頼りにたしかこちらのほうでと酒場の隅にに行ってみれば、酔っ払いは空の酒瓶を抱えて気持ちよさそうにいびきをかいていた。

つらくて 泣いてた あなたといっしょに
魔法の メロディー いつまでも

魔法のメロディ 
いつまでも……

Fin



DANCE
イラスト
まちこさん:踊り子 より
https://note.mu/machiko9/n/nd519309917f5


挿絵
踊り子 その2 より
https://note.mu/machiko9/n/nb3e1e5718464

 タイトル・作詞・動画作成:かーるさん
【完成】『踊り子』で作詞をがんばってみた【タイトルは『DANCE』】

https://note.mu/karly/n/nb5f3089d6739

動画
【オリジナル】DANCE【まちこ×南かのん×かーる×みー】

https://note.mu/karly/n/nfec42242438e

動画歌唱:みーさん

作曲・サウンドノート:南かのんさん
https://note.mu/2438/n/n3676aaedbbc0

皆様使用許可くださりありがとうございました。
おかげさまで納得の作品が出来上がりました。

また、この作品自体のタイトルは

ちくわ【どんぐり】さん
【翻訳note:表】
https://note.mu/heso/n/n0032928d32cf
にて、
kalinkaさん https://note.mu/t2artnews
につけていただきました。
kalinkaさんありがとうございます。

そして、ご覧になってくださったすべてのかたがたに感謝を。

m(__)m

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