周回遅れでイベント参加
「なんで告白って、女の子からなのかな?」
「別に、そうでなきゃってわけでもないだろ」
グサッと心に突き刺さる言葉に平静を装いつつ言葉を返す。
自分に向けたものではないから。
「でもなんか、そんな空気あるじゃない」
確かにそっちのほうが多いかな。
だからって、そうに限ったことじゃない。はず。
「そうだけど、誰でもいいってわけじゃないんだろ?まずは、相手の気持ちを確かめてからじゃない?」
その段階で挫折する場合もあるわけだし。
「相手かー厳しいなあ」
「ライバルも多そうだし」
お目当ては知っている。学業優秀、品行方正。いまどき珍しい、絵に描いたような優等生。運動だって別に苦手なわけではなく、学年で上位クラスには入っている。女子から見れば憧れの的、男子から見れば妬むことすら諦めるような存在。
「それが問題よねー」
それだけではないだろう、とは流石に口には出さない。
もちろん彼女だって、別に不細工であるとか性格に難があるとか、そういうわけではないのだが。
「恋人、居るのかなー」
「居ても不思議ではないよね。噂は聞くし」
むしろ居てほしい。そうしたら、諦めも付くだろう。そうであったとしても、一生添い遂げるわけでもないのだけれど。
「今年は土曜日だし、どうやって渡すかが問題よね」
「ずっと家に居て、出てこなかったりして」
進学先も決まり、彼も含む三年生は登校日以外には学校に出てくることも無い。そういうときに、盛り場に繰り出すタイプでもないだろう。
「じゃあ、郵送とか?」
「こういうのは手渡ししてこそって気もするし、生ものだろ?厳しくないか?」
去年のこともあるし。
「今年は手作りはナシだなー」
「それがいい」
心からそう思う。去年、結局渡せなかったという手作りチョコを押し付けられて酷い目にあった。受け取らないという選択肢は無い。
「何よ、可愛い女子の手作りチョコが不満だったの?」
「別にチョコ好きじゃないし」
くれた相手が……じゃなければ。
「渡せなかったら、自分で食べよう」
「今からそんなんでどうすんだよ。もしかしたら、うまくいくかもしれないじゃん」
心にも無いことを言う。うまくいってもらっては困る。そうならないだろう。とは思う。でも、もしかしたら……
「そだね、ありがとう。うん、なんとかして、渡すだけ渡してみる。」
「当たって砕けろ」
いやマジで。
「なによそれ!応援してくれるんじゃないの?」
「いや、応援はするけどさ」
他の女子を。
「けど、ってなによ!あんたなんて、バレンタインにチョコくれる相手もいないくせに!」
「そうだけど、別にいらないしチョコとか」
……以外からは。
「あんたはどうなのよ。好きな子とかいないの?」
「そりゃ居るけど」
言ってしまった。しまったと顔に出たか。まあそれに気付くような相手なら苦労も無いのだが。
「へえ、どんな子?待って、当ててみる。えーとね、今目の前に居る、私!」
解ってる。こいつはエスパーじゃない。天然だ。
「なんだよその自信。大体、俺じゃうれしくないだろ?」
「そんなことないよ」
その言葉に心臓が跳ね上がり
「わたしのことを好きって言ってくれるなら、たいていの場合はうれしい」
そして現実に引き戻される。
「で、結局どうすんのさ」
動揺を抑えつつ、深入りを避けて話題を逸らす。
「どうって……どうにかする」
「はいはいがんばってね。渡せなかったら貰ってあげるから」
むしろください。
「自分で食べるって言ってるじゃない!」
そっちかよ。いやいいけど。
「そろそろ帰れよ。もう夜も遅いし。」
「今日はもう疲かれたから、ここで寝る」
「襲うぞ」
そうしない自信がない、が。
「そんな度胸も無いくせに」
速攻で返されて言葉を失う。
ベッドの上で布団に包まって背を向ける前に、何とか毛布だけ奪い取って、横になって目を閉じる。
「おやすみ」
「おやすみ」
よい夢を。
バレンタインネタを考えていたら
#ハピバレ2015 じゃなくて
#ロードトゥバレンタイン になっちゃいました(笑)