「僕の妹がこんなに可愛いだなんて聞いてないしそもそも妹がいたかどうかもわからない僕はちょっとおかしいのだろうか」
「お兄ちゃん!」
それが自分に対して発せられた呼び声だとは、僕はそのとき気付かなかった。しかし、それも無理はないと思ってもらいたい。僕を「お兄ちゃん」と呼ぶからには、彼女は── だと思う。あるいは今はやりの「男の娘」であるのかもしれない。── 僕の、「妹」であるはずだ。しかし、思い出せる限りの記憶において、僕に妹はいない。いなかった。はずだ。
僕を「兄」だと、そういってきた相手を、改めてよく見てみる。制服らしい服を着ているから中学生か高校生、おそらくは高校2年生の僕よりは年下、そして、これは全くの僕の主観ではあるのだが──かわいい。
おそらくは、彼女は自分がかわいいなどとは思っていないのだろう。あるいは逆に、普段から周囲の人にかわいいと言われすぎて感覚が麻痺してしまっている。それほど自然に、彼女はかわいかった。
こちらをまっすぐ見つめる視線には一切の邪念もなく、こちらを見極めるように視線をそらさない。服装だけではない、整えられた身だしや、風に泳ぐつやのある髪の毛すら「そうであることが自然である」ように思えてしまい、気おされたぼくは目をそらしてしまう。
しかし、そらしたはずだった視界一杯に現れたのは、彼女の顔だった。近い。そして近い。かつてないほど近い女性の顔は、彼女ならずとも僕を飛びのかせるのに十分だった。それが彼女であったから、なおさら。
「だ、誰だお前は!」
ようやく絞り出した声を気にも留めず、面白がるように僕を眺めていた彼女はそれには答えるつもりはないようだった。
「じゃあね、お兄ちゃん」
そう言い残して身をひるがえし、呼び止める間もなく去っていった「妹」と、僕はすぐに再会することになる。
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