色のお話~黒編~
何年も開けたことがなかったという
お母様の箪笥の中身を全て持ち込まれた中に
2枚の喪服が入っていました。
(何故か喪服用の帯はなかった・・・)
その袷の喪服の黒がとても美しい色でした。
黒という色は 洋服では抵抗なく着れる色で
モノトーンしか着ない方もいるほどですが
全身を覆ってしまうきものには難しい色です。
黒地の小紋や訪問着は
出来の良し悪しがはっきり出てしまいます。
黒地の帯もそうです。
まして無地になれば・・・
人類が初めて使った色は
壁画を描くための黒い顔料だった、と言われています。
染料としての黒は
日本の草木染では 五倍子(ごばいし)、びんろう樹などの
タンニン系染料を鉄塩で発色させます。
江戸時代からは藍で下染めした「藍下黒」や
紅花で下染めした「紅下黒」が
美しく、又 光りの加減で下地の藍や紅が
ほのかに感じられて珍重されました。
この紅下黒の着物が色あせると
下地の紅が浮き出て いわゆる羊羹色に退色して
舞台で 尾羽打ち枯らした浪人者の役者に
ぴったりだったそうですが
この頃の化学染料で染めた着物では
このやつれてうらぶれた風情が出ないのだそうです。
明治以降になると西インド諸島から輸入された
ロックウッドという染料をクロム酸によって
より深い黒が得られるようになります。
濃度を増すために三回染められるために
「三度黒」と呼ばれることもあります。
「三度黒」と呼ばれる黒染は、藍染めの場合のように、
濃度を高めるために染め重ねるのではなく、
「ログウッド」を刷毛で引き、
乾燥後に「ノアール」という薬品を引き、
同じく乾燥後に「クロム酸」を引いて、
「ログウッド」中に含まれる「鉄分」を酸化発色させる、という
手間のかかった染めです。
縮緬や綸子の黒無地は喪服になってしまいますが
黒地の質のいい小紋は
訪問着にも負けない存在感があります。
結城などの真綿系のほっこりした糸は
黒の持ち味を生かしてくれます。
大胆な柄の名古屋帯で町着に楽しんだり
格調高い袋帯でパーティに活用したり。
合わせる帯によって表情豊かに
個性を引き出すことができます。
八掛や小物に凝るのが楽しいのも無地ならでは。
小千谷縮みの黒無地もすっきりとした帯で夏の黒を
楽しむのもいいものです。
洋服だったら着ないけど きものなら着れる。
また その反対、というのもありますね。
きものだと洋服と違う自分になれる楽しさもあります。
自分では似合わない、と思い込んでる色柄が
他人からは好評だったりすることも多いものです。
いろんな可能性にチャレンジしてみてください。
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