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季節先取りー秋草模様。

お盆を過ぎて 風や空にはほんの少しの秋を感じるものの
日中の暑さは盛夏のままです。
そんな時期の着物は 素材はまだ麻や薄物でも
柄行に秋を取り入れ始めましょう。
季節を先取りすることで 秋の到来を待つ気持ちや
少しでも涼を呼ぼうとする気持ちが 装いに表れます。

お盆明けを代表する柄に 秋草があります。
山上憶良の
「萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 
 女郎花 また 藤袴 朝貌の花」を出すまでもなく
秋の野に咲く草花を文様化したものです。
桔梗やススキなど 単体で描かれるものもありますが
多くは 秋草として数種類が組み合わせれます。
それは 1つ1つが華やかな存在感のあるものでなく
静かな趣きの中に 秋の訪れを感じさせてくれるからでしょう。

実は私は秋草の柄が大好きでして
お茶のお稽古をしていた頃には
秋口に 秋草の帯を締めるのを心待ちにしていたものです。
尾形光琳の 秋草模様小袖が有名ですが
柔らかで儚げ、風にそよぐ風情は友禅ならではの表現です。
織物ですと 唐織によく登場しますが
唐織の秋草は 撫子や桔梗、女郎花などのモチーフが
たっぷりと盛り込まれて
奥山に人知れずひっそりと訪れた秋の気配、というより
平安時代の貴族の館の庭に設えられた秋、という感じがします。
 
秋草の中にも組み合わせによって
桔梗、萩、女郎花、竜胆など花のあるものは晩夏から
秋が深まるにつれ ススキ、蔦などの葉ものが多くなり
紅葉や木の実が加わると晩秋になっていきます。
植物以外にも ススキや葉に夜露の玉を加えたり
鈴虫などの昆虫や 鶉を配したりすることもあります。

そろそろ 着物や帯に 秋の風物を取り入れましょう。
暑い暑いと言ってばかりでなく
季節先取りの心意気が 涼を呼び込んでくれます。
ほんのちょっと先の季節に思いを馳せ
四季折々の情緒を纏う。
贅沢ではりますが 着物の醍醐味の1つだと思います。

季節は先取り、引きずらないのが粋です。
でも 江戸の粋、は我慢の別名みたいなもんですから
野暮でも まだしばらくは素材は盛夏でいたいと思います。


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