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ルルとココとホワイトラベンダー
わたしの畑ガーデンには、「ツンデレな」ホワイトラベンダーがひと株います。
まだ森のなかで暮らしていた2年前、兄弟たち3株と一緒に、ちいさなポットでやってきたのが このツンデレちゃん。森で仲良くなった友だちからもらった大事な苗です。ひと株だけかなりツンツンしていて葉っぱはあっちこっち飛び跳ね、からまっている(笑)。兄弟たちと一緒に地植えしたのに嫌がり、、、このツンデレちゃんだけは さらに葉っぱが乱れる始末、、、。
ひと株だけ明らかに、グレている、、、笑。
(じゆうな木)「地植えは、、、嫌なの?」
(ホワイトラベンダー)「いやなの!いやなの!いやなの!」
(じゆうな木)「.... 急に地面になったからびっくりしちゃったかな。じゃあ.... ちょっとおおきめの鉢に一旦もどろっか」
(ホワイドラベンダー)「......( *`ω´)」
そして異例の、、、地植えから素焼きの鉢へ、、、(笑)この子だけ移植。葉っぱは相変わらずくるくるだったり、ツンデレだったりのままでしたが、植木鉢のなかで愛でながら、徐々に株は、ゆっくり大きくなっていきました。
それから1年後。
なんと、、、ツンデレ葉っぱが ぽろぽろと地面に落ち、
あたらしい素直な(!)葉っぱたちが にょきにょき出てきました。
(じゆうな木)「まあ☺️♡」
(ホワイトラベンダー)「o(`ω´ )o♡」
素直でかわいい葉っぱたちが ふさふさ風に揺れるのをみて、胸がいっぱいになったことを今でもよく覚えています。
そして今もあまり声をかけずに放置されると、葉っぱをちょっと ゆがませて抗議します(笑)。それはまるで、ちょっとグレた中学生が髪を染めたりするのに似ているのかもしれません(笑)。「ごめんごめん!」と、たっぷり愛でると、葉っぱはまた素直で気持ち良さそうになるのです。その甘えん坊ぶりとツンデレぶりが可愛くて、このホワイトラベンダーを見るたびに、わたしはルルとココのことを思い出します。
ルルとココに出会ったのは、わたしが大学生のとき。
そのころ、教育学を学んでいたわたしは、とある施設で「夜間指導員」というアルバイトをしていました。その施設は、女子寮と男子寮があり、敷地内にも学校やプール、運動場がありました。そこにやってくる子どもたちのほとんどは中学生。学校や家庭でもあまりなじめず、万引き、暴走(バイクなど)、売春、放火癖、自傷行為、麻薬などで保護され、その施設にやってくることになった子たちがほとんど。そこで一緒に生活をしながら、自立のための力をつけることを目的にした場所でした。そしてまだまだ未熟だったわたしが初めて「先生」と呼ばれた場所でもありました。ルルもココもわたしにとって「初めて」で「唯一」の(その後学校の先生にはならなかったから)教え子です。
ある勤務の日、廊下をあるいていると、
「うっせーんじゃ、ぼけー!」
威勢のいい声が部屋の奥から大音量で響いてきました。窓からのぞいてみるとそこには、まるで全身の毛を逆立てて威嚇している猫のような(!)、金色の髪の毛をした ちいさな女の子。それがわたしが初めてココを見た日でした。
(ミネ先生)「威勢のいい子が はいってきたわ!」
体育会系のミネ先生は、ココの担当になったようで、久しぶりの入園生にわくわくしているようでした(笑)。たのもしい、、、笑。
ココはひとしきりわめくと落ち着いたようで、それから少し経って、女子寮に合流しました。子どもたちのなかでも相性はあるもので、まだ大学生だったわたしは子どもたちと年も近いし、特にココはわたしにとてもなついてくれました。
(じゆうな木)「ココ、6時からごはんだからね、もうすぐだね。」
ある日、壁にかかっている時計を見ながら何気なく時間を伝えると、ココは、、、
(ココ)「じゆうな木先生、わたし、時計が分からんのんです」
ココは時計が読めなかったのです。
「時間通りに動きなさい」
そう言われても時計が読めなかったらどうしたらいいの?
(じゆうな木)「そっかー、ごめんね、今まで知らなくて。じゃあ、今日の夜学習のときは時計の読み方練習しよっか。」
「できて当たり前」がほんとうは当たり前じゃない。そしてそんな子がきっと学校にはたくさんいるはず、、、。そのときすごく反省したことをおぼえています。そのころココは中学2年生。女子寮に入ってきてまもなく、どれくらいの学力なのかを調べると、小学2-3年生くらいでした。中学校の授業はきっと、ココにとっては外国語で話されているような世界だったに違いありません。そんななかで1日中椅子に座っていなくちゃいけないなんて、、、できないよね。ココのそんな姿を想像するとたまらない気持ちになりました。
さらにお掃除のとき。
(じゆうな木)「雑巾がけをするから、まずは雑巾を洗おっか」
ある日、雑巾を一緒に洗っていると、、、
(じゆうな木)「ココ、、、それ、、、しぼってるの??笑」
(ココ)「えーー? ぞうきんってどうやってしぼるんですか???笑」
ココは、ぬらしたぞうきんを両手ではさんで押しながら水を出していたのです(笑)。そう、掃除だってはじめての体験がいっぱい。
そしてココとほぼ同時期に入ってきたのがルル。ルルの第一印象はとてもしっかりした子、でした。ルルはいろんな軽犯罪にも手を染め、麻薬の中毒もありましたが、落ち着いていて、勉強もできました。
夜間指導員は、夕方から翌朝まで女子寮にいるのですが、何かを教えるというよりは一緒に過ごす、という感じでした。一緒にご飯を食べたり、宿題を一緒にみたり、たまに早く行ける日は一緒に泳いだり(夏)、運動したり、お風呂にも一緒に入ったり。一緒にそうやって過ごすと、いつの間にかちょっと年の離れた可愛い妹たちになってしまうのです。
夜は宿直室で眠るのですが、ルルは麻薬がまだ抜けきらず、夜は幻覚が見える日もあり、「じゆうな木先生、部屋にラクダがおる〜!」とよく宿直室にやってきました(笑)。
(じゆうな木)「どれどれ、、、なんちゃおらんよ。ラクダがおったら、背中に乗せてもらいぃ」
(ルル)「えーー!笑 無理ーー!笑」
そんなやりとりをしながら、夜がふけていきました。やがてルルは寮から仕事見習いとして外の職場にも通いはじめるようにもなりました。
施設にやってくる子たちは、さまざまな課題を抱えていましたが、みんなに共通していたのは、ほんとうは寂しがり屋で、たっぷり愛されたいこと。
ルルもココもあたたかい先生たちに囲まれて、めきめきいろんなことができるようになり、順調に太り(みんなあまり栄養のあるものを食べていないので細身でやってきますが、ご飯が美味しく、生活も規則正しくなるので太っていきます)、トゲトゲがだんだんなくなり、まあるくなっていきました。
そしてわたしにとって宝物のような出逢いはミネ先生。施設の先生たちはとても素敵な方がたくさんで、とくにミネ先生はとても可愛がってくださり、大学生ではとても手の出ない、回らないお寿司やら、高級なお酒(そのころはまだお酒もたしなんでいたので)、ふぐ料理、などいろいろ連れて行ってくれました。そして、先生とそんな素敵なご飯の席や、深夜の宿直室で交わしたいろんな会話を今でもいくつか鮮明に覚えています。
(じゆうな木)「ミネ先生、ルルとココの生い立ちについて聞きましたけど、壮絶ですね、、、わたしも同じ立場だったらグレちゃうかもしれない。」
(ミネ先生)「そうね。ほんとにそんな子ばっかり。でもね、じゆうな木さん、『かわいそう』って思うことは誰にでもできるの。わたしもルルやココにかわいそうだねぇ、よしよしってすることだってできる。でもね、ここはそういう場所じゃないの。それでもその家庭環境や社会の環境にいつか戻らないといけないあの子たちが、そこでもやっていけるように、ちゃんと自立できるように、どれだけここで力をつけてあげられるか、わたしはそこが大事だとおもってこの仕事をしているの」
わたしは教育学を学んだものの、結局思うところがあって教職にはつかなかったけれど、今でも日本の教育の底辺で支えているのは、ミネ先生みたいな先生たちなんだろうな、とおもっています。
子どもたちも施設のなかでは落ち着くけれど、退園してまたもとの環境にもどると同じことの繰り返し、、、また寮に戻ってくる子もたくさんいます。そして先生たちはそんな子たちを笑顔で「おかえりー」と迎えるのです。
子どもたちと過ごす時間も、もちろん、たのしい日ばかりではありません。お天気といっしょで女子寮でも毎日イロイロあり、、、わたしも原付バイク(そのころの運転手段)で山道を「わーーーー!」と叫びながら(笑)運転して帰った日もあります。でも不思議なことに、嫌な思い出はほとんど思い出せず、楽しく過ごした会話や笑顔がわたしのなかには記憶されています。
わたしはそこで2年間アルバイトをして、タイに渡りました。
風の便りでルルもココも無事に退園したことを知りました。
それからしばらく経ったころでした。
同じ夜間指導員のアルバイトをしていた友人から1通のメイルがタイにいた わたしに届きました。
「ルルがね、、、亡くなったよ」
16歳。
死因は「麻薬中毒死」でしたが、ルルはきびしすぎる環境のなかで、さみしくて、愛されたくて亡くなっていったのだろうなとおもっています。ルルの遺体は、とてもやせ細っていたそうです。
ホワイトラベンダーをみると、ルルとココを思い出します。それからもうひとり、男子寮にいて16歳で亡くなった男の子のことも。
植物も嘘がつけない。
きもちがぜんぶ、そこにあらわれます。
そんな葉っぱやお花が、やっぱり愛おしいなぁと感じます。
まだお花を咲かせたことのない、わたしのホワイトラベンダーちゃん。
(じゆうな木)「来年は咲くかなぁ、、、。」
(ホワイトラベンダー)「o(`ω´ )o♡」
(じゆうな木)「葉っぱだけでも元気なら、まぁいっか♡」
※ 名前はすべて仮名です。