老いを見つめる
父親の病状が良くない。
1年半前だろうか、癌を告げられた直後に父と会った。
白髪が目立っていたが、威勢があり声に活力が感じられる人だった。
日が経つにつれ、父の様子が歪んでいった。
睨み付けるような視線、2.3往復で終わる会話。
頼りない背格好、痩せて浅黒くなった肌。
死の影がもしあるとしたら、こんな感じなんだと思う。
親は死ぬ。
私が車にひかれたり、暴漢に刺されたりしない限り私より早く死ぬ。
それに気づいたのは保育園の頃だった。
お昼寝で静まり返った保育室の中、なんとなく寝付けなかったときにふと気づいてしまった。
「親はいなくなってしまう」と。
ノストラダムスの予言より火砕流の映像より恐ろしい事実だった。
確か担任の先生に泣きついたと思う。
あのとき、なんて言われたかなあ。
死がよぎる時、当の本人はどう思うのだろう。
私は彼を直視しているのだろうか。
面白いことが言えなくなった父と、なんとか死から遠ざけようと笑う母に何が出来るのだろう。
父の悪化する体と裏腹に私の肌は艶やかでまた新しい服を買った。