セフレのベーコン
それが見つかったのは12月も半ばのころだった
冷凍庫の奥の方から三口分ほどの「かたまり」と呼ぶには小さい厚切りのベーコンが出てきた
あらま。
思わず声が出た
ベーコンをくれた人は図々しくて家に着くと勝手にシャワーを浴びたり書きかけのノートを棚から出して読みはじめたり、何をするか予想も出来ず目が話せなくて困ってしまった
わんさとボトル酒を持ってきて水道下の物入れにがさつに置いていった
何が一緒に飲もう、だ。一回も飲まなかったくせに
一人じゃ到底食べきれない山盛りのポテトサラダをタッパに詰めてその人は来た
使いきれなかったからと三口ほどの厚切りベーコンも勝手に冷蔵庫に置いていった
これだけの量を一人でどう食べればいいんだろう
誰かと話したくなっちゃって、とか
少し近くにいたからとかそんな理由でこちらの都合も聞かずに突然くる人だった
突拍子もないことが余りに続くから不意を付かれて私も笑った
緩いけれど居心地のいい、蒸し暑い夏だった
「体調悪くて行けないや」
珍しく私から誘った日、メッセージが不意に来てその人はぱったりと来なくなった
あれから何度か連絡はしたけれど、よそよそしい返事が返ってくるばかりになった
もう会うこともないんだろう
私は体よく時間と色々を貸してしまった
いつのまにか冷蔵庫から冷凍庫にしまったベーコン
目玉焼きのお供には多すぎるしメイン料理には少なすぎる
持ってくるものがいつもずれていて、でも微笑ましかったな
コンソメと萎びた野菜どもとベーコンでスープを作る
あいつ、いま何してるかな
緩慢で蒸し暑い夏を持ってきた人が気まぐれに置いたベーコンが血肉になって私を作っていくのだろう
どうかお元気で、またね