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「J1優位」と「思考停止」 ~J1参入プレーオフ2022の延長戦問題

 来季2022年のJリーグで「J1参入プレーオフ」の復活が発表された…が、その際のリリースを巡って混乱が生じている。

 コロナ禍以前の2019年までのレギュレーションでは、

○J2の3~6位がトーナメント戦でJ1への挑戦権を争う。
○上記の勝者とJ1の16位がJ1参入決定戦の一発勝負
○決定戦の会場はJ1のホームスタジアム
○ドローの場合はJ1・16位が残留

だったのが、件のリリースでは、一番下のドローだった場合の扱いが一度「15分ハーフの延長戦およびPK戦を行う」と発表され、後に「確認が必要」と撤回されたのだ。

 これをキッカケにファン・サポーターの議論が活発になっている。というのは2019年、J1・16位の湘南がJ2・4位徳島と競ったJ1参入決定戦でドローにより残留を決めた際にも「J1優遇」のレギュレーションに対する異議が噴出しており、それを蒸し返す形になったからだ。

 ワタシの意見は「延長戦あり、PK戦なし、決着つかないときはJ1の16位が残留」だ。これは2019年当時から変えていない。

従来の「J1優遇」には大義名分がない

 端っから「J1だからJ2より強いに決まっている」なんて決めつけるのは、浅はかな思考停止でしかない。スポーツの試合や大会には「どちらが強いかを証明する」という側面がある。もちろんJ1参入プレーオフも「より強いチームへJ1参戦の資格を与えるべき」という発想によるものだ。

  2012年から行われているJ2の3~6位によるプレーオフでは、リーグ戦上位のチームに上記の「J1優遇」と同様のアドバンテージが与えられている。

 ただ、これには大義名分がある。J2という42試合のリーグ戦で順位を争ってきた実績から「プレーオフの1試合ではドローでも、総合力ではリーグ戦上位の方が強いだろう」という推定が成り立つからだ。

  しかしながら2018年以降の「J1・16位vs.J2上位」の図式では、(天皇杯やルヴァン杯の対戦がなければ)同じ土俵で戦った実績がないから、同様の推測は成立しない。

 両チームともシーズンオフにはスタッフ・選手の大幅な入れ替えをするのがJリーグの常であり、前年までの実績が現在のチームの実力を担保する要素にはなりえないはずだ。

「3番目の昇格チームが弱い」のは何故か?

 とはいえ「3番目の昇格チームが弱いのは事実だから、J1・16位の壁を厚くするのは当然」という声は根強い。

 そもそも2018年からJ1・16位がJ1参入プレーオフに参加することになったのは、2010~2016年のほぼ全ての「3番目」が1年でJ2降格、「16位」が1年でJ1復帰という実績から昇降格制度が見直されたという経緯がある。

 ここで2010年代にギリギリの成績でJ1残留を果たしたチームの翌年順位に注目したい。

2010年代の「当落線上ギリギリ残留」の翌シーズン成績の一覧。2014年以降の体たらくは「J2の3番目」と大きな差があると言えるのだろうか?

 2014年以降の6シーズンでは、4チームが翌年に降格圏でのフィニッシュを余儀なくされている。新潟は2年連続15位の後に降格、2018・2019年の16位プレーオフ勝ち残りに至ってはいずれも最下位だ。当落線上ギリギリの残留チームの戦績も、「J2の3番目」と今は大差がない。

 ここで「降格の主因は残留・昇格争いの長期化によるチーム編成の遅れ」という仮説を立ててみよう。すると「16位」の翌年J2無双も含めて辻褄が合うのである。

 現行のJ1参入プレーオフはJ2最終節から3週間後、2017年までの方式でも2週間後まで、来季J1かJ2かが決まらない。2009~2011年の3位自動昇格時代も、3位のチームのJ1昇格確定は1・2位よりも遅かった。

 ただでさえリーグ戦での実績に劣る「3番目」が、J1というより強いカテゴリーに上がるのにチーム編成で出遅れるのだから、散々たる戦績に終わるのは至極当然である。
 これは、残留がギリギリに決まるJ1の15位、2018年以降の16位プレーオフ勝ち残り組が翌年降格圏フィニッシュで終わる事情も同様だろう。

 その論で言えば、16位降格チームの多くが1年でJ1復帰、という結果は矛盾していると思われるかもしれない。
 しかし、J2のチーム編成が固まるのはJ1よりも遅い。加えて、降格に責任を感じた主力選手のいわゆる「漢気残留」で、J1クラスの実力者が多く残るケースも多いので、編成の遅れの影響がJ1ほど大きくならなかったのではないだろうか。

 つまり、「3番目の昇格チーム」が単に実力だけの問題で弱いと決めつけるのも思考停止だ。1年でJ2降格という結果は、実力以上にチーム編成遅れの影響が強いと考えるのが妥当なのではないか?そしてプレーオフや入れ替え戦をやる以上、その傾向が強化されるのは受け入れざるを得ないのではないか。

中立地開催・PK決着ではアカンのか

 さて、J1・16位を優遇する理由がないとするならば、「中立地開催・PK決着」と改めるのがフェアで分かり易い。今回のリリースを巡る混乱の中でも、それを求める声は多い。だが、往々にして「分かり易い」には思考停止の罠が隠れているものである。もう一歩踏み込んで考えよう。

 なぜ「J1優遇」を求める声は根強いのか。実は「3番目は弱い」云々の理由は後付けで、動機の根っこには「壮絶な昇格争いを勝ち抜いてJ1に到達した、J1の座をキープしてきた実績をリスペクトして欲しい」という心情があるのではないか。

 その実績には選手・スタッフ・フロントなどクラブ関係者たちの並々ならぬ努力や苦労、コストが費やされており、ファン・サポーターの莫大な熱意も注がれている。これはワタシが横浜FCのJ1に至るまでの道を、2年で終わったJ1の旅を見てきたからこそ強く実感し、上記の心情にも共感できる。

 もちろん、それはJ1昇格に挑み叶わなかったクラブも同様であるが、少なくとも経済的なコストに関しては、客観的にJ1の方が多く費やしていると想像できる。「J1をリスペクト」する気持ちには明確な根拠があるのだ。その分のバランス調整という意味で、J1にホームアドバンテージぐらいはあっても良い。

 また、Jリーグが興行であることを忘れちゃいけない。「90分ドローでJ1・16位が残留」は単にイレギュラーな試合になってしまうが、「延長戦ドローでJ1・16位残留」であれば90分を境に両チームの戦い方が変わる。興行としての面白さを加える味変スパイスになるのではないか。

 ゆえにワタシは「延長戦あり、PK戦なし、決着つかないときはJ1の16位が残留」を推す次第なのである。もちろん本稿で見落としている視点も多々あるだろうが、リーグ・各クラブ・ファン・サポーターの活発な議論で、より納得感のある結論を出してくれることに期待したい。




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