玩具店の結界
都営大江戸線の新御徒町駅すぐ隣に、佐竹商店街というアーケード通りがある。
どことなく昭和末期の雰囲気を漂わせていて気に入っている。昼食後、腹ごなしの散歩がてら度々訪れる場所だ。
なんでも日本で二番目に古い商店街だそうで、明治維新までは秋田・久保田藩の上屋敷がこの場所にあったという。
名前に冠する「佐竹」はその藩主・佐竹氏に由来するのだろう。
この商店街、蘊蓄が多い。
まずホームページがやたら充実していて、歴史を語るくだりも長い。
この佐竹地区を中心とした台東区のトリビアも沢山あって、高村光雲から夏目漱石まで、登場人物も有名どころがバラエティ豊かだ。
そのトリビアを大きなボードにして、時折アーケードの天井からぶら下げているのが面白い。
歳末セールなど時季モノのアピールに差し替えられる、そのたびにエピソードの位置関係が変わる。内容はだいたい覚えているのだけど、おかげで飽きずに散歩できている。
さらにはコレを録音にしてアーケード内の放送で流すという徹底ぶり。ワタシは嫌いではないが、人によっては鼻につくと感じるかもしれない。
商店街の中ほどに一軒、おもちゃ屋さんがある。
アーケードの雰囲気にどっぷりと溶け込んでいて、看板も出していないので屋号もわからない。
それでも遠目におもちゃ屋さんだとわかるのは、ガシャポンの器械を通路側にゾロリと並べているからだ。
このお店の姿は3パターン。
店内の電気を点けてバッチリ営業中、ガシャポンを店内にしまい込んだ休業日、そしてガシャポンだけだして店内が真っ暗な営業してるんだかしてないんだか判らない状態。
ワタシが通りかかる時間帯はその半営業(?)スタイルが一番多く、近づきにくい空気を醸し出している。
加えて、ちょっと信号のタイミングが悪いと休憩時間内に戻れない程度には職場から遠く、散歩のときには現金を持ち歩いていない。
そんな様々な心理的なバリアーがあって、結局いちども中に入ることはできていない。
それでも店内を覗き見ると、TOMIXの古いレールセットがドン!と鎮座している。
茶色道床のレールで、コントローラーの筐体は緑色のプラスチック。ネクスト・ネオの登場前、1990年代前半より昔から存在している可能性がある。
だが、こういう街のおもちゃ屋さんというのは、地元の子供たちやファミリーのために存在しているのではなかろうか。
一見近寄りがたい雰囲気は、齢五十を過ぎた独り身で余所者のおっさんを寄せ付けない結界として、あえて作り出しているのかもしれない。
好奇心を刺激されつつ、近づけない。心理的な生殺し状態であるからこそ、ワタシは惹きつけられているのだろうか。