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推し辞書を語る 〜小学館日本語新辞典〜
こんにちは。辞書高翔副代表のハマグリです。今回は、私の好きな辞書の一つである小学館の日本語新辞典の良さを語ろうと思います。
小学館日本語新辞典ってなに?
小学館日本語新辞典は現在、改訂作業が行われている辞書ではないため、その存在を知らない方も多くいると思います。そこでまずはこの辞書の概要をお話します。
この辞書は2005年に小学館から発売された国語辞典です。
編者は小学館の日本国語大辞典の編纂でも有名な松井栄一氏です。判型はA5判で、他の小型辞典よりも二回りほど大きく、当時の定価も6,000円でした。分類上は小型辞典ですが中型辞典と小型辞典の中間ほどに位置するような、そんな辞書です。
小学館日本語新辞典の魅力
この辞書の最大の特徴は類語、同音異義語などの使い分けに非常に強いことです。
一例として、「立場」の項目を紹介します。
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なんといっても、一番目を引くのは見出しとその類語を比べた表です。複数の例文を挙げ、それぞれの場合にその言葉を使うことは適切であるのかを示し、適切であれば表の該当箇所に〇若しくは△がついています。
さらにその隣ではなぜその言葉を使うことができるのか、できないのか詳しく解説しています。
この項目では「立場」「観点」「視点」「見地」の4つの語について細かい違いを解説しています。
中型、大型辞典でもあまり記載されない言葉に含まれたニュアンスやそれぞれの語を直接比較し、場面ごとに自然に使うことのできる言葉を知ることができます。
「見地」は個人的でなく、より高いところ、より広い範囲に目を向けて、それにもとづく感じが強いので「・・・を変える」という表現にはそぐわない。
このように話し手や、話題の中心となる人の立場を鑑みた言葉の選び方を提示したり、
「視点」はある一点に目を向ける感じが強く、「観点」はそれより広い範囲に目を向けることを含んでいる。
その語の持つイメージや受け手に対する印象の差異を表現されており、その言葉を見聞きしたことのない人でも使い分けができるように工夫がされています。
他にも小学館日本語新辞典には他の辞書ではあまり見ないような不思議な記号が見受けられます。
それが、プラスマイナスの評価を示す記号です。
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2つの記号は一部の形容詞、形容動詞、副詞、動詞に記載されていて、円と、三角の図形の中に微笑んでいる顔、怒っている顔、がそれぞれ入っています。
その言葉を使った人がどのような感情を与えようとしているのかを示しています。
微笑んでいる顔の記号は、相手を称賛したり、好感を与えることのできる言葉に載っていて、怒っている顔は、相手を非難したり、侮辱の意味を持っている言葉などに載っています。
また、その言葉自体には賞賛や非難の意味を持っていない場合でも、その言葉を使った人が相手に対して、賞賛や非難の意を伝えようとする場合、プラスマイナスの評価が示されています。
例として、「細かい」の項目を挙げます。
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「細かい」などの言葉は使用される場面によって相手に与える感情が異なり、本来伝えたかった意味とは異なった意味を与えてしまうことがあります。
そういった言葉の語釈だけでは伝えきれない言葉のニュアンスを、一目でわかりやすく示しています。
小学館日本語新辞典の根源
なぜ小学館日本語新辞典では、ここまでそれぞれの語を個別具体的に記載しているのでしょうか。
その理由は松井氏が記した序に現れています。
振り返ってみると、これまでの国語辞典の利用者は、大半が幼いときから日本語を使って育ってきた日本人であった。だから、そのことばに当てる漢字表記や簡単な意味の記述が示されていればそれでよいと考えられてきた。しかし、現在では、日本語を学ぶ外国人が使用することも考慮に入れる必要があるし、類似の意味のことばの違いを外国人に聞かれたときに、答えることができるような配慮も必要である。国語辞典ではなく、日本語辞典の時代になったのである。 本書は、こういう要求に少しでも応じられるようなものにしたいとの趣旨で編まれた。
松井氏は日本語が第一言語ではない人々は、日本の国語辞典に何を求めているのかを考え、私たち日本人が常識のように考えている一つ一つの語のニュアンスまで捉え上げ、その差異を徹底的に記述しようとしました。
その考えは日本語を第一言語とする私たちにも非常に参考になるもので、学業や仕事などで、文章を書く際にとても参考になります。
しかし、普段文章を書く機会が少ないと感じている人にこそおすすめしたい辞書です。私たちが日常で見たり、使ったりしている言葉は数万語あり、そのすべてを完璧に理解したうえで使っているわけではありません。
自分にとって当たり前だと思っている日常的な言葉を一つ引いてみると、知らなかった言葉の用法や日本語の謎を少し解明したような気分になれます。
小学館日本語新辞典へのお願い
ここまで、私の好きな辞書の一つである、小学館日本語新辞典の魅力をたくさん語ってきました。しかし、人間好きなものにこそより理想を求めてみたくなるものです。私は一つだけお願いしたいことがあるのです。
どうか、
$${\LARGE改訂してください}$$
というのも記事冒頭で述べた通りこの辞書は2005年に初版が出版されたのち、一度も改訂されていないまま今日を迎えています。
2024年も終わりを迎える今、デジタル技術の発達や新たな社会問題など、社会は変化し、新しい言葉が生まれたり、言葉を使う環境が変化しています。
その時代にあった言葉の使い方を明確に示すことはいつの時代も求められています。
とても素晴らしい魅力、強みを持った辞書ですので、ぜひ改訂してほしいです。
一人のユーザーとして切に願っています。
おわりに
私は辞書の適当な頁を開き、その頁に載っている項目を一通り読み、再び適当な頁を開くという読み方をするのですが、この辞書は非常に面白い項目が多く、1頁読むだけでもかなり満足感を得ることができます。
日頃あまり辞書を読むことがない人でもとても楽しく読むことができ、おすすめの一冊になっています。
一度、あなたが知っている簡単な日本語をこの辞書で引いてみませんか。
案外、新たな日本語の発見があるかもしれませんよ。